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令嬢13歳・男装令嬢は襲われる

 シュミナ嬢とお別れして、食堂へ向かおうとまた歩を進めた時……。

 空間がぐにゃり、と歪むのを感じた……一見、先程までとは変わらぬ風景。

 だけど……前に手をやるとぺたり、と透明な何かが邪魔をしてそれ以上先へと進めない。

 魔法で外界と遮断された? 誰の仕業??

 足元の影が震え『犬』達も警戒をしているのが分かる。

『犬』からマクシミリアンにもこの情報は伝わっているだろうから、しばらくしたら助けに来てくれるだろうけど……。


「中で魔法を使ってぶち破れるか試みてもいいんだけどなぁ……」

「止めた方がいいんじゃないかなぁ? 魔法が弾かれて戻って来るかもしれないし?」


 楽しそうな声が、空気を揺らす。……そんな予感はしていたけど……。

 わたくしはゆっくりと後ろを振り向いた。

 青い髪を揺らしながら楽しそうに笑う美少年の姿がそこにあった……しかしそのオレンジの目は光が無く笑っていない。


「エイデン・カーウェル様……」

「ああ、僕の事、知ってるんだ。でも僕は君の事を知らない。君は誰?」

「……教えたくない。私はどうしてこんな事をされているのかな?」


 背中を嫌な汗が伝う。


「……最近シュミナが、なんだか『まとも』になろうとしててさ。これはまずいなーと思って部下達に見張らせてたら、案の定ちょっかいを出してる君みたいなのがいる訳じゃない?……シュミナから手を引いてくれないかなぁ」


 さっきのはシュミナ嬢が引き留めてきたんだけど……エイデン様、貴方の部下の目は節穴ですか。

 ……と言ってもわたくしさっきのシュミナ嬢の様子を見てこれからも『ちょっかい』かけるって決めたしなぁ。


「『まとも』になる事の何が悪い訳? そうやって周囲と彼女を隔離して彼女をダメにして、一体何が楽しいの? 本当に彼女が好きなら『まとも』になる努力くらい認めてやれば?」

「……へぇ、逆らうの? 君って馬鹿なんだ? 僕が王家筋のカーウェル家の者だって知ってるんだよね。色々な意味で痛い目に遭いたいの?」


 そう言いながら彼は手の先に大きな炎を集約させていく……この結界を維持しながら無詠唱であれだけの魔法を操るなんてエイデン様の魔力は尋常ではなく、制御能力もかなり高いのだろう。

 エイデン様が軽く手を振るとその火球をわたくしの方に飛ばした。火球は爆ぜるような音を立てながら勢いよくこちらへ向かって来る……!

 わたくしも魔法で水の球を生み出し近づいてくる火球にぶつけてはみたものの……それはじゅわっと音を立てて一瞬で蒸発してしまった。

 ……流石王家筋ってところか。わたくしの魔力じゃとても太刀打ち出来ない。

 流石に殺すつもりじゃないだろうし当たっても死なないとは思うけど……火傷だらけになるなんてごめんだわ。

 そんな姿になったらマクシミリアンが、お嫁に貰ってくれなくなるかも……!

 近づいてくる火球のダメージを減らせないかと水の防護膜を張ろうとした時。

 ……ざわざわと影が蠢き、数匹の黒い狼の姿を形成しわたくしの周囲を取り囲んだ。

 狼の1匹はわたくしの前に立ち、大きく口を開けると既の所まで近づいてきていた火球を口の中に吸い込み、ゴクリ、と飲み下してしまう。

 ……わんちゃん、貴方そんな事も出来るのね。

 エイデン様に『犬』を見られたのはまずいにしても、助かった……。


「――なんだ『それ』は。闇魔法か? いや……そんな闇魔法があるなんて……僕は知らないぞ」


 エイデン様から狼狽が伝わってくる。

 褒めて褒めてとばかりに尻尾を振る狼の頭をふわふわと撫でていると、影からは更に数匹の『犬』達が湧き出てきて……それを見たエイデン様は驚愕で表情を歪ませた。

 刹那、パリッと割れるような音がして空間に亀裂が入り、周囲を囲んでいた結界が砕けて散った。


「大丈夫ですか?『お坊ちゃま』」


 そして……地獄の底から響くような声と、凍ったように冷たい表情のマクシミリアンが現れる。

 ああ……怒ってる、めちゃくちゃ怒ってる!!


「……マクシミリアン、無事だよ」


 そんな激怒のマクシミリアンだけど……わたくしは彼の姿を見て思わずホッとした笑みを漏らしてしまった。


「その男が現れたって事は……。君、シュラット侯爵家の縁者か。面倒だな……」


 そう呟いて舌打ちし、エイデン様は風の魔法を使って空に舞うとその姿を消した。


「……殺し損ねましたね」

「殺しちゃダメでしょ!!!」


 マクシミリアンの呟きに、わたくしは思わずツッコミを入れてしまう。

 ……その日は当然ユウ君に会いに行く気にはならず。

 マクシミリアンと寮のお部屋で作戦タイムをする事となったのだった。

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