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令嬢13歳・ガーデンパーティー・後

 フィリップ王子の手を取ってわたくし達が広場に進み出ると、生徒達が固唾を飲んでそれを見守る。

 王族のダンスの後に皆様は踊るので……つまりわたくし達は今二人で注目の的なのだ。


「フィリップ様。わたくしダンスは下手なので……」

「知っている。いくつの時からの付き合いだと思っているんだ。リードするからこちらの動きに合わせろ」

「……はぁい」


 そんな会話を小声で交わしながら、わたくしとフィリップ王子はダンスを始めた。

 彼のリードがとても上手なので、くるくると羽根のように踊れてとても楽しい。

 踊れている……というか、躍らせて頂いているというかという感じなのだけれど。


「本当に、綺麗だな……ビアンカ」


 フィリップ王子がぐっと腰を抱き、距離が近くなった瞬間に耳元に囁く。

 うひゃっ……耳元に吐息がかかるんですが……! お止め下さいませ、ゾクゾクしてしまいます!!


「お止め下さい。恥ずかしいですわ」


 わたくしがそう言うとフィリップ王子は華やかに微笑んだ後に、頬にキスをする。

 唇の感触が柔らかい……!! そして周囲のご令嬢達の嫉妬の視線が痛い!!

 王子、お迎えに来た時からスキンシップ過多ですわよ!!


「フィリップ様。触り過ぎですわ」

「……正直、焦っているからな」


 フィリップ王子は、溜め息を吐きながらひそひそと話す。その言葉にわたくしは首を傾げた。

 焦る? 何に? 今日の出来事で……王子が焦るような事なんてあったかしら?


「焦って……おりますの?」

「俺の目は、節穴ではないぞ? マクシミリアンにお前が取られてしまうと……焦っているんだ」

「!!」


 彼の言葉に、頭が一瞬真っ白になって足元がぐらつきかけたけれど王子が上手くカバーしてくれたのでなんとか転ばずに誤魔化せた。

 王子が……わたくし達の事を知っている? どこまで?


「……何を……おっしゃっておりますの」

「何年お前を見ていると思っている?……自覚していたかは知らんが、お前昔からあいつの事が好きなのだろう? そして不快な事にあいつも、お前をな。このままでは……お前達二人で、どこかへ逃げかねないじゃないか」

「――っ……」


 フィリップ王子に言われ顔が赤くなる……どうしよう、バレてる。バレてます。

 涙目で彼を見ると彼は小悪魔のように笑っていた。


「……王妃として共に立って貰うにしても、どこかに駆け落ちにするにしても。お前には俺を……選んで欲しい」

「でも……わたくしは……マクシミリアンが」


 胸が、痛い。どうしていいのか分からない。

 乙女ゲームのように平行して好感度を上げても支障がないなんて都合がいい事は現実にはない。

 わたくしはハーレムになんて興味がないんだから……好きな人の好感度しか上がらなくていいのに。


「卒業まで何事も無ければ婚約という話だが。変更にしないか?」

「え……?」


 王子の言葉にわたくしは眉を顰めた。

 今すぐ婚約しろ、なんて事は流石に言わない……と思いたいけれど。

 彼が『わたくしの気持ち』や『シュラット侯爵家との関係』を蔑ろにしていいと思うのなら……強引に婚約を進めるのは実現可能な事なのだろう……そう考えて顔が青くなる。


「卒業までの間、マクシミリアンからお前を奪う為の最大限の努力をするチャンスをくれないか? それで無理ならお前との婚約は諦めよう。ただ卒業まではお前に婚約者を作る事は許さないとシュラット侯爵に掛け合うつもりだ。横から誰かに攫われるのは不快だからな」


 『マクシミリアンからお前を奪う』為の努力……??

 ……これまで以上に口説かれたりするのかしら。困る、困るわ。


「……わたくし卒業を待たずに明日にでも駆け落ちするかもしれませんわよ」

「そうなれば国を挙げて探すさ。逃がしはしない」


 く……国を挙げて……!?そんなの駆け落ちなんて出来ないじゃない……!


「しょ……処女を捧げてしまって、王妃に相応しくない女になるかもしれませんわ」

「それは悔しい事だが、その場合は駆け落ちにしよう。それともあいつに奪われる前に俺が奪ってしまおうか? それが1番話が早いな」

「そんなお手軽に奪わないで下さいませ……!」


 幼馴染にも等しい王子から貞操の危機を感じる事になるなんて。

 じょ……冗談、冗談ですよね。


「愛するマクシミリアンと学内で所かまわずイチャイチャしてわたくし評判を落とすかもしれませんわよ。そんな女とだなんてお嫌でしょう?」

「学生時代の『火遊び』くらい許すよ」


 ああ……退路が、退路がどんどん塞がれていく。


「そこまでして、わたくしじゃなくてもいいと思うのですけど……」

「……お前じゃないと意味がないんだ。そしてお前の気持ちが無いと、意味がない」


 美しい微笑みでそう言われて……一瞬、ときめきそうになってしまった。

 危ない、こんなの危ないわ!! わたくしはブンブンと頭を振る。

 王命を使って婚約をと命じないのだから、彼にとってはかなりの譲歩である事はわたくしにだって分かる。

 彼にならわたくしの逃げ道を全部塞ぎ、マクシミリアンを遠ざけて安穏と残りの二年間を待つ事だって出来ただろう。

 でもそれをせずにわたくしを振り向かせる方向性での提案をしたのは……彼がわたくしの事を、それだけ想っているから……という事よね……。


「なに、互いに卒業まで頑張るだけの話だ。自分が望む方向へ進めるように」


 そう言って彼は身を離すと、跪いてわたくしの手に口付けをした。

 周囲から歓声が上がりわたくしはダンスが終わったのだと漸く気付いた。


「……ビアンカ、愛してる。覚悟しておけよ?」


 ……獅子の狩りが、始まってしまったらしい。


 ちらりとマクシミリアンの方を見ると風魔法で音を聞き取っていたのか『犬』からの報告か……とても渋い顔をしていた。



 ファーストダンスが終わると案の定王子は令嬢達に囲まれてしまい、わたくしは壁の花になるかと隅っこの方に移動した。

 今晩は誰かから万が一ダンスに誘われても、受ける気なんて起こらないだろう。


 (わたくし……どうなるんだろう。マクシミリアンの手を取って早く逃げていれば良かったのかしら……)


 溜め息を吐きながらノンアルコールのカクテルをちびちびと飲んでいると……。


 ぱしゃり、と音を立ててわたくしのドレスに何かが飛び散り、赤い染みが広がった。


「あら、ごめんなさい。手が滑ってしまったの」


 声の方を見るとそこには赤いジュースが滴るグラスを持って可愛く微笑むご令嬢の姿があった。

 金色の髪、くるくると控えめに巻いた縦ロール、小柄で華奢、大きな青い瞳……童顔の美少女だ。

 ピンク色のドレスがよく似合っている。

 えっと……カウニッツ公爵家の……ベルリナ様でしたっけ。別のクラスなのでお話した事は無いのだけれど王子の『婚約者候補』に上がっている方のはずだ。

 虐め、虐めイベントですねこれ!! これ以上わたくしの心労を増やさないで!

 ……今わたくし王子の事でかなり心が混乱しているのに……!!

 それにしても悪役令嬢が虐めイベントに遭遇って……シュミナ嬢の取り巻きにちょっかいを出されていた事といいどうなっているの本当に!

 それ……わたくしの役目ですよね?

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