令嬢13歳・ユウ君とシュミナ嬢の対談・前
「ねぇ、貴方日本人なの?」
……その日わたくしが昼食を食べようとマクシミリアンと食堂へ行った時。
ユウ君に絡むシュミナ嬢を目撃してしまった。
ああ……危惧していたけど、やっぱりだ。
ユウ君がこちらに気づいたので身振り手振りで『大丈夫~?』とサインを送ると、ユウ君は笑顔でウインクを返してくれる。流石ユウ君、なんだか大人の余裕である。
わたくしは、二人の会話が気になってシュミナ嬢から見えづらそうな位置に席を確保した。
ユウ君に熱っぽい視線を送る生徒は沢山いるけれど、忙しそうにしている彼に無遠慮に声をかけるのはシュミナ嬢しかいない。相変わらずというかなんというか……。
「何? 僕仕事で忙しいんだけど……見てわからない?」
「私、シュミナ・パピヨンっていうの。前に少しだけ顔を合わせたでしょう? 覚えてない? サイトーサン、日本人でしょ?」
「――君に何か関係があるの?」
ユウ君はテキパキと配膳をしながらシュミナ嬢と会話を交わす。
その後ろをシュミナ嬢はカルガモの子供のようにくっ付いて回った。
……本当に迷惑かけてるなぁ、あの子。
シュミナ嬢はユウ君が割合はっきりした態度で拒絶しているのに全く気付いておらず、能天気に話しかけ続けている。
あのタフさだけは見習いたいと思ってしまうわ。
「私前世が日本人なんだけど、一人で寂しいの。良かったらお話相手になってよ」
「僕はね、無遠慮に仕事の邪魔をするような人とお話する気は無いの。危ないから離れて?」
ユウ君はそう言いながら調理場に入りオーブンから何かを取り出してそれを注文した生徒のテーブルに運んだ。グラタンだ!
ふわりとチーズのいい香りが周囲に漂ってわたくしの空腹も刺激される……ああ、お腹が鳴りそう。
メニュー表でユウ君が作っているグラタンの種類を確認すると『南瓜と4種類のチーズのグラタン』のようだった。わたくし、これにしようかしら。
わたくしは職員さんを呼んで手早く注文を済ませた。……早く来ないかしら、ユウ君のグラタン。
「ねぇ。ビアンカ様は転生者なの?」
「何を訳わかんない事言ってるの君? ほらほら、邪魔だからどいて」
……さりげなくわたくしに関する探りを入れるのは止めてくれないだろうか。
シュミナ嬢はユウ君の態度に流石に焦れてきたのか、頬を膨らませるとユウ君の割烹着の袖を引っ張った。
仕草だけ見るとヒロイン、って感じで物凄く可愛い。外見に騙される男子が続出するの、分かるなぁ。
「ほら、水あげるからあっち行って座ってて。ちゃんといい子に待てたら僕の休憩がてら5分だけお話を聞いてあげる。でもそれ以上はダメ。あとうちのビーちゃんと仲が悪いみたいだけど、悪口大会には付き合ってあげるつもりはありませんし、これからもビーちゃんに迷惑をかけるんならお話自体無しです。僕はあくまでビーちゃんの味方で君と本当は関わり合いになりたくないの。オーケー?」
「……分かった。なるべく気をつけるからお話、聞いてよね」
そう言いながらユウ君はシュミナ嬢に水が入ったグラスを渡すと、誰もいない席を指差した。
シュミナ嬢は渋々という感じで席に着く……ユウ君、幼稚園の先生みたいだわ……。
それにしても、『うちのビーちゃん』ってなんなのユウ君!?確かに前世では散々お世話を焼かれていてユウ君が第二の父親みたいな状態だったけど……。
シュミナ嬢はちょこん、と席に腰掛けてそわそわとした様子でユウ君を待っている。
彼女はユウ君の言う事は割合素直にきくというか……日本人との話に飢えているのは勿論あるのだろうけど、思い通りにならない生活に彼女なりのストレスを抱えていて事情が理解出来る誰かに話を聞いて欲しいのかもしれない。
だけどシュミナ嬢さえちゃんとしていればわたくしももっと彼女に協力的だっただろうし、ゾフィー様のようにゲームの展開なんて関係無く攻略キャラとお付き合いする状況になっていたのはシュミナ嬢だったのかもしれないのよ。
ゲーム中のヒロインのような性格だったらお兄様だって紹介していたわ、きっと。
日頃の行いゆえの現状だし、取り巻きさん達もいるんだから我儘言わないの! って思ってしまう。
そうよ……いいじゃない、ちゃんとモテてるんだから!
取り巻きさん達の中には攻略キャラやお兄様やユウ君程じゃないにしても、見た目が素敵な男の子だっているのに。
……べ……別に羨ましくなんてないもん。マクシミリアンの方がかっこいいもん。
ちらり、と背後に控えるマクシミリアンに目をやると視線に気付いてにっこりと微笑んでくれる。
その色香漂う笑顔の流れ弾に当たって、近くの席のご令嬢がかちゃり、と赤い顔でスプーンを落とした。
気持ちは分かるわ、うちの執事は素敵だもの。
ユウ君は休憩に入るらしく、割烹着をするりと脱いでシュミナ嬢の居る席へと向かった。
少し心配だけど……ユウ君は叱る時はちゃんと厳しく叱れる人なので変な事にはならないだろう、きっと。
「お待たせ。じゃあ5分だけね? 何が訊きたいの?」
ユウ君がそう言いながらシュミナ嬢の正面に座ると、シュミナ嬢はぱっと明るい顔をした。