脱・我儘令嬢を目指していたら推しが甘々になってきてる
推しは開き直ったらしい。
わたくしは現在、周囲に与える印象改善と勉強を頑張っている。
地盤を固め人望を得る事はとても大事なのだ。
人望を得る事により将来意外な所から助けが得られるかもしれないしね!
勉強もとっても大事。
万が一の国外追放(もしくは素敵な彼氏との駆け落ち)に備え、知識や魔法を身に着ける事は早急にやらねばならない最優先タスクである!
…前世の主に経験から得た知識と、今世の勉強で得た知識をどうやって南国スローライフに活かすかを、シミュレーションするのが楽しくて仕方ない訳じゃないのよ?ほんとよ?
乙女ゲームの攻略対象残り2人に関しての知識は未だに思い出せていない…。
不安だけど、そのうち思い出すよね?
まずわたくしは粗雑に扱っていた使用人達への態度を改め、全員の顔と名前を覚えた。
使用人と顔を合わせたら子供らしく(前世との合計年齢24歳だけど)無邪気(を装った)を挨拶をし、使用人にして貰って嬉しかった事に対してはちゃんとお礼を言う。
そんな風に日々を過ごすようにした。
最初は何の悪戯かと警戒していた使用人達だけど、1日、2日と時間が経ちわたくしが本気だと分かると態度は徐々に軟化して行った。
わたくしの見た目が可愛いのも態度の軟化に良い作用をもたらしているんじゃないかなって正直思う。
だって本当に、美少女なんだもの。
こんな美少女が目をうるうるさせて『わたくしと仲良くして♡』なんて言ったらするしかない。
少なくとも前世のわたくし――『わたし』ならば逆らえない。
何故なら可愛いは正義だから。
そうした毎日を送る中で、わたくしの服の着付けやお風呂の世話をしてくれているメイドが、ジョアンナと言う名前である事を初めて知った。
…2歳からお世話になってるのにね。
以前のビアンカは本当に他人の事などどうでも良かったのだ。
ジョアンナは乙女ゲームらしいと言うか…な水色の髪をしている。
透き通るみたいなクリアな色でとても綺麗だ。
『綺麗だね』ってジョアンナに言ったら、何故か後ろでマクシミリアンが悔しそうな顔をしていた。
…貴方の髪もとても綺麗よ、って言ってあげるべきだったかしら?
ジョアンナとは今は大の仲良しだ。
ジョアンナの焼いてくれるラズベリーパイはとっても美味しくてほっぺが蕩けそうになる。
美味しすぎて、最近お肉が少し付いた気もしなくもない…。
真面目に授業を受けるわたくしを見て、家庭教師の先生は感動で泣いていた。
今まで本当にごめんなさい…。
現在受けているのは『わたし』が教育を受けていた現代日本よりも、かなりゆるめの小学校過程の授業と言う感じ。
その代わり『わたし』にとって未知な分野である、薬草学やこの国の地理や歴史の授業なんかが存在するので、科目数的には現代日本の小学校よりも多いくらいかも。
見た目は子供!頭脳は大人!!なわたくしなので授業はハイペースで進んだ。
このままでは1年かからずで魔法学園入学までのカリキュラム…を通り越して、魔法学園卒業までのカリキュラムまで進みかねない。
と言うか傍から見たらこれ天才児だ!と気付いて途中からはわざとペースを落とした。
時代の寵児扱いになって王家から目を付けられて、断る隙も無く王子と婚約…なんて事になったら目も当てられない。
父様とお兄様は、
『本気を出したら俺の子が天才児だった件について!!』
『はわわ、天使ちゃんの成長をこの目に焼き付ける!!』
なんて言いながら毎授業わたくしにくっついて回り褒めちぎった。
テンションが高い時には正解ごとにお兄様に縦抱きにされくるくるぶん回された上で、父様に引き渡されぎゅっぎゅとハグされた。
ああ…父様もお兄様いい香り…と思ったのは最初のうちだけで、しょっちゅうされてもちっとも嬉しくない。
時には絵師を呼んで授業風景をスケッチさせた。本当にやめて。
と言うか、来年に魔法学園に入学を控えているものの今は割合時間があるお兄様はともかく、父様宰相のお仕事はどうしたの…?
『そんなに付いて回られると嫌いになりますわ!!』
と堪忍袋が引きちぎれたわたくしが怒ったら、2人共たまに泣きながら遠くから見るだけになった…。
出来ればそれもやめて欲しいんですけど。
魔法の授業も開始した。
そしてその授業の先生は…なんとマクシミリアンだった。
どう言う風の吹き回しなの!嬉しいけど!とっても嬉しいけど!
最初父様は外部から人を雇うつもりだったそうなのだけど、
『私もお嬢様に教えられるくらいの知識はあります』
とマクシミリアンが名乗り出たらしい。
執事だけじゃなく魔法の先生も出来るなんて、うちの推しはほんとうにすごい(語彙力の無さ)
わたくしが努力を始めて、1番態度が変わったと感じるのは。
実はマクシミリアンである。
最初はちょっと戸惑った様子も見えたのだけど、『仲良くして♡』ってちゃんと幼女らしくお願いしたからか彼の警戒も解けたようで。
普段の態度が格段に柔らかくなり、なんとおはようとおやすみにハグまでしてくれるようになった!
なんでだ。なんでハグなんだ。
マクシミリアンまで父兄と同じカテゴリーになっちゃってない?
わたくしが美幼女なのがいけないのか。
ロリコン…って言葉が一瞬頭に浮かんだけど。
マクシミリアンとは6歳差だからロリコンではないはず…うん。
来月わたくしの誕生日が来れば5歳差まで縮まるし!
実に健全な年齢差よ。
推しにハグされるのはとっても嬉しいのだけど…。
前世で男とハグした事も、今世で父様とお兄様以外とハグした事も無いんだよ!?
圧倒的経験不足ッ…!前世も今世もわたくし!号泣ッ!!!
恥ずかしいから最初は押しのけようともしたんだけど。
『仲良くしよう、と言ってきたのはお嬢様ですよね?』
って推しに笑いながら言われたら拒めないでしょ…。
ぎゅっとされた状態でマクシミリアンの体に手を回すと、12歳の男の子の体だからまだまだ華奢だなって思う。
でもこれからどんどん男の人の体になって行くんだろうなぁ…。
マクシミリアンからはミントみたいな爽やかな香りがして、抱きしめられた後に床に入るとしばらくわたくしの体にもその香りが纏わりついて。
慣れるまでドキドキして眠れなかった。
と言うか貴方無表情クールキャラじゃなかったっけ?
なんだか最近とってもいい笑顔ばかりね…?
何かが、おかしい気がしなくもない。
ゲームの中の彼は、冷徹で、辛辣で、とってもクールで。
好感度MAXの時にようやく笑顔を見せデレデレになる。そのギャップが売りのキャラのはずだ。
現在の彼は、クールキャラはどこへ行ったのやら、毎日とろける笑顔を見せている。
今も彼は魔法の授業の準備を済ませて机に着席し、ニコニコしながら自分のお膝をポンポンしている。
…お膝に座れって事よね?
魔法の授業の時は何故かいつもお膝に乗せられて一つの教科書を一緒に見るスタイルになっていた。
解せぬ。
推しに密着されながら耳元で推しの美声を流し込まれるこの状況だと、教科書の内容に全然集中出来ないんだけど…。
ああーっ、まだ幼さが残る推しのお声が耳元でっ…。これはずるい…!尊い…。
集中なんて勿論足りず授業がなかなか進まず不貞腐れるわたくしにマクシミリアンは、
『分からなければ何度でも教えてあげますから』
って笑って言ってくれる…。
でもこのままじゃ魔法が苦手な子みたいになっちゃう…。
学びの場をください。切実に。
あんまり優しくされると男性に免疫がないわたくしは、恋愛的な意味で好きになっちゃいそうで。
それは困るから甘やかすの止めて欲しいなぁ…なんて思ってしまう。
彼は雇い主の娘だから優しくしてくれているのだろうし。
なにより彼は将来ヒロインのものになる可能性が高い攻略キャラ。
ヒロインに出会ったら彼女に本能的に惹かれ、離れて行くに違いない。
わたくし大人だから、勘違いしないのよ!