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ゾフィーとヒロイン・後(ゾフィー視点)

 私は実習の授業で調理実習を選択しておりますの。

 令嬢らしからぬな趣味かもしれませんけど、私お菓子作りが趣味で……自分で言うのもなんなのですがちょっとしたものなのです。

 明日は調理実習でケーキを作る予定だったので、ノエル様に食べて頂きたくて私は廊下で彼に声をかけたのでした。


「ノエル様、私調理実習の授業を取っておりまして……。明日その授業でケーキを作る予定なのですけど……ノエル様に食べて頂いてもいいですか?」


 恐る恐るノエル様にそう訊いてみると……。


「ゾフィー、本当に!? 君が作るものを食べられるなんて嬉しいよ!」


 ノエル様は満面の笑みでそう言って下さったのです。ああ……天にも昇る気分ですわ。

 浮かれた気持ちでノエル様にお好みを聞いてそれを一生懸命メモしましたの。ノエル様はフルーツが入ったものや、お酒がスポンジに含まれているものがお好きみたい。覚えましたわ、頑張ります。

 私、ノエル様のお口に合うように誠心誠意を込めてケーキを作ります。


 翌日の実習、私とても頑張りましたの。先生にも美味しいって褒めて頂きました。

 作ったのはドライフルーツを洋酒で漬けたものが入ったパウンドケーキ……ノエル様のご要望を単純に満たそうとし過ぎたかしら? なんて思ったのですけど実習の時間で二種類も三種類もケーキを作れませんし仕方ないのですわ。

 私はそれを可愛くラッピングして、ノエル様が課外探索の実習から帰るのを待とうと教室へ向かおうとしたのです。

 その時……とある人物に声をかけられました。


「ゾフィー様、ちょっとお話宜しいかしら?」


 ……シュミナ・パピヨン男爵令嬢。

 ビアンカ様にあらぬ事で難癖をつける、見た目はとても美しいのだけれど、とても面倒なご令嬢……あまり関わりたくありませんわね。


「申し訳ありません。今、時間がございませんの」


 私がそう言って彼女の横を通り過ぎようとした時……彼女に、強い力で腕を掴まれてしまいました。


「クラスメイトがお話したいって言ってるんですよぉ? どうして無視なんて酷い事が出来るんです?」


 シュミナ嬢はそう無邪気な口調で言いながらぐいぐいと私を引っ張って、人気が無い廊下の隅へと連れて行くのです。……嫌な予感がひしひしとしましたわ。

 だけど私、横には大きいのだけど縦にはかなりちっちゃいのです。抵抗してもどうにもならず、引きずられるままになってしまいました。


「な……何の御用ですの? 私貴女とは全然親しくありませんわよね?」


 強引なシュミナ嬢に腹が立って、私は不機嫌に告げました。でも彼女は意にも介さずという様子で鼻で笑うのです。


「あんたさぁ……いい加減にしてくんないかな? モブのくせにすごい邪魔なんだよね」


 シュミナ嬢の目がスッと細まると普段のふわふわとした口調から一転して、市井の方のような口調に変わりました。モブ……モブとは何でしょう??


「それは……どういう……」

「あんたみたいな、太ったモブがノエル様に近づいていいと思ってるの? 身の程知らずだと思わない? 恥を知りなさいよ」


 彼女の言葉が、胸に深く突き刺さりました。

 ……それは、私はずっと……自分自身でも思っていた事だったから。

 ノエル様がお優しいのに甘えて……私のようなみっともない見た目の令嬢が親しげに話しかけ、あまつさえ好意まで持っている。

 そしてもしかすると、ノエル様も私の事を想ってくれているんじゃないかなんて。不相応な夢まで抱いている。

 図々しい事だと自分でもそれは……分かっているのです。


「ノエル様は優しいから言わないだけで迷惑してると思うのよ? ねぇ……悪い事言わないから、振られて恥をかく前にノエル様から離れたら? 醜い子豚ちゃん」


 シュミナ嬢は悪意のある言葉をどんどん私の心に刺してきます。

 だけど……私は反論出来ません。だってそれは全部、本当の事だから。

 知らず知らずのうちに涙が溢れて頬を濡らし、殴られたかのように頭がずん、と痛くなって更に涙がこみ上げて自然と嗚咽が漏れ……私は惨めに泣いていました。


「やだぁ~泣かないで下さいよぉ。私が虐めてるみたいじゃないですか。貴女が可哀想だから、私教えてあげようと思っただけなんですよ? せめて、私くらい綺麗な見た目じゃないと、攻略キャラ……えっと、ノエル様の隣って似合わないと思いません?」


 ――ノエル様の隣は、似合わない。

 一言一言、傷口に擦り込むように。シュミナ嬢は言葉を私に浴びせます。


 私は……ビアンカ様がノエル様の隣に立つ光景を、想像してしまいました。

 それは、とてもとてもしっくりする光景で……。

 心がピシリと音を立てて、裂けたような気がしました。


 ぽとり、と手からケーキが落ちて床を転がったけれど……私にそれを拾う心の余裕なんて、なかったのです。

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