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令嬢13歳・乙女ゲームと現実と

 学園近くの公園に辿り着き、わたくしはようやく一息つく事ができた。

 帰って早々シュミナ・パピヨンに出くわすなんて……あの子待ち伏せしていた訳じゃないわよね? 流石にそれは無いと思いたい。

 そしてマクシミリアン、そろそろお姫様抱っこを止めて下ろしてくれないかしら?

 なんだか先程から通行人の目が痛いの……。


「マクシミリアン、下ろして?」

「……承知致しました」


 いつもならもう少しごねるのだけれどユウ君の手前だからだろう、彼にしてはあっさり地面に下ろしてくれてホッとする。

 わたくし達は公園のベンチに腰掛けた……ユウ君にシュミナの事を説明しないと。

 

「――で、あの子は何なの? 何か揉め事が起きてるの? 僕で力になれる?」


 ユウ君が心配そうにこちらを見ながら言う。

 どこから話そうかな、と悩んだけれどあの子の奇抜な行動原理を説明する為には『乙女ゲーム』の事から遡って話した方が分かりやすい気がする。

 マクシミリアンが側に居るからちょっと気が進まないんだけど……ユウ君と二人で話したいなんて言ったら多分拗ねてしまうし、仕方ない。


「ユウ君……そのね。わたくしが前世でプレイしてた『乙女ゲーム』の事、覚えてる?」

「ああ……。ビーちゃんのお部屋、グッズでいっぱいだったもんね。覚えてるよ?」

「サイトーサン伯爵が、お嬢様の部屋に……!?」


 マクシミリアン、ややこしくなるから今はそこに反応しないで!


「その『乙女ゲーム』にこの世界って酷似しててね。地図や人物、人物の立ち位置なんかが割と重なってるというか」


 ただあくまで『酷似』だと最近は確信している。

 強制力が働く訳でもなく、自分の行動であの世界とは全く違う展開になっているから。

 『乙女ゲーム』の世界そのものでなかった事に関しては……本当にホッとしていた。

 ……マクシミリアンにボコボコにされて娼館に送られちゃうのは本当にごめんだし、わたくしに冷たい彼なんて……もう想像すらしたくない。


「へぇ……そうなんだ。ゲームの世界に入っちゃうアニメとかあったよね。それに近い事なのかな」

「多分そんな感じ。その辺りのシステムは本当に謎よね。まぁそれで……彼女の立ち位置はゲーム中だと、ヒロインなの」

「ふーん。可愛い子だったものね」


 そう、シュミナ・パピヨンは可愛い。

 中身も伴っていたら……わたくしというイレギュラーのせいでゲームのままとはいかないまでも、それなりに楽しい学園生活を送れたんだろう。


「で、わたくし、そのゲームの悪役令嬢の立ち位置だったの」

「お嬢様が……悪役でございますか?」


 わたくしの言葉にマクシミリアンが目を丸くする。

 彼は意味不明であろうわたくし達の会話を、理解しようと一生懸命に耳を傾けていた。

 マクシミリアンにも砕いて説明しないといけないわね。


「この世界は……前世でわたくしが好んでいた演劇のようなものの世界に似ているの。そしてその演劇でシュミナ嬢はヒロインで、わたくしは皆に忌み嫌われる悪役だったのよ?」

「現状はあの女が悪役ですよね……。その『乙女ゲーム』という劇には……私も、出ていたのでしょうか?」

「――っ」


 マクシミリアンの質問に思わず冷や汗が出る。

 彼はスッと目を細めると猫のようにわたくしに、にじり寄って来た。


「その演劇での私は……お嬢様に不都合な行為や無礼を働いたのですか?」


 これは今話さなくても……後でお部屋でこってりと絞られて結局話さざるを得ない流れだ……。


「うう……あのね、マクシミリアン。その劇には……マクシミリアン、フィリップ様、ノエル様、メイカ王子がその……シュミナ嬢の恋人候補として出てくるんだけど」

「はぁ……私が、あの女とですか」


 マクシミリアンがあからさまに嫌そうな顔をする……正に苦虫を嚙み潰したような顔、の見本のようだ。


「劇中のわたくしはね。……シュミナ嬢と皆の恋を邪魔して、悪い事も沢山して、皆に国外追放されたり殺されたりするの」

「お嬢様を殺す!? そんな……」


 マクシミリアンは絶句している。

 彼の場合は……ボコボコにされて娼館に落とされるのだけれど。

 そこまで説明したら彼が卒倒しそうなので伏せておこう……うん。


「その劇と同じ内容を辿らないように……わたくしそれなりに、頑張ってきたの」

「……劇中の脚本は可能性の一つというだけで、全く同じ事は起きていないんだね」


 ユウ君の言葉にわたくしは頷いた。

 ゲームの世界はあくまで『ゲーム通りのシュミナ・パピヨン』と『ゲーム通りのビアンカ・シュラット』が動いた結果のパラレルなのだと思う。

 シュミナ・パピヨンもビアンカ・シュラットもゲームの人格とはかなり乖離してしまっているから、同じ事は起こり得ないのだろう。


「この世界は劇と『酷似』しているだけであくまで現実なのよ。それをシュミナ嬢は分かっていないから……その。マクシミリアンやフィリップ様が脚本通り当然自分の物になるはずだって思い込んでいるの。だけど上手くいくはずの恋愛が上手くいかない上に、悪役令嬢が皆と仲良くしているものだから……」

「それが理由でお嬢様に取り巻きを使って絡んでくるんですね。あの女の訳の分からない行動がやっと理解できた気がします」


 マクシミリアンは心底不快だという表情で眉根を寄せる。

 わたくしはそこまで説明すると、軽く溜め息を吐いた。

 マクシミリアンへの隠し事が、これでまた減ったわね。

 ……娼館ボコボコルートに関しては墓場まで持って行こう。


「ビーちゃん、あの子から嫌がらせを受けてるんだね」

「うん、多少ね。嫌がらせの件もだけど、皆の事を手に入る、入らないとか『物』みたいに扱うあの子と関わり合いになりたくないのよね」


 苦笑いするわたくしの頭を、ユウ君が優しく撫でた。


「……ビーちゃんは今まで一人で秘密を抱えて頑張ってたんだね、お疲れ様。……けど、こうやって話してくれたしもう一人じゃないね?」

「ユウ君、ありがとう……」


 皆の様子を見て大丈夫だと思っていても、誰にも相談できずに心の奥にはいつも不安があった。

 だけどユウ君のその言葉を聞いてやっと肩の荷が下りたようなほっとした気持ちになる。

 マクシミリアンはその様子を見て一瞬青筋を立てたけれど、何か思うところがあるようで押し黙った。


「ユウ君は転移者だって名前で丸わかりだから、シュミナ嬢に絡まれそうね」

「平気、平気。適当に流しておくから」


 危惧している事を口にするとユウ君は軽く笑い飛ばしてくれた……頼りになる元同級生だわ、ほんとに。

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