表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/18

5. 指

 故郷を遠くはなれ、この東の島国で「仕事」を初めてもう五年になる。

 警戒の手薄なこの国の文化財を持ちだして、闇ルートで売りさばくという稼業はなかなか(うま)()があったが、だんだんと警備も厳しくなり、やりづらくなってきた。とある山寺の(うわさ)を耳にしたのはそんな時だ。

 幸い、すぐ近くまで道路が切り(ひら)かれていたので、夜にまぎれてバイクで向かうという強行軍もたやすかった。崩れかけた石段をのぼり、崩れる寸前の寺の内部へと()()る。 

 荒れ果ててがらんとした暗い本堂の真ん中に、目当ての本尊は放っぽりだされているも同然だった。

 一抱えほどの大きさだが、小型のライトでさっと照らし出しただけで、その精緻(せいち)さが見て取れるほどだ。

 黒い玉石を思わせる(つや)やかさ。静かに(ほほ)()んだ表情の美しさ。何本もある腕のなまめかしさ。そしてその先にある指は、一本一本がまるで生きて動いているかのように細かく造型されている。

 売値への期待を通りこして、(おそ)れのような気分を引き起こされてしまったのは、初めてのことだった。柄にもなく立ち尽くしてしまった事に苦笑しながら道具を準備する。邪魔の入る危険のない今回の仕事、仏像に背をむけて床に道具をならべる余裕すらあった。

 (ほこり)の積もった床に厚手の布をひろげ、仏像を抱えおろそうと向き直る。

 いつの間にか、本堂いっぱいに(ふく)れ上がっていた仏像は、燐光をおびた顔に、相もかわらず静かな笑みを浮かべて、しなやかな無数の指をこちらへと伸ばしてきていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ