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3. Archetypes

 少年の挑戦に、深淵の入口に鎮座する黒い邪神は、重い(まぶた)を皮肉げにちらともたげる。毛皮に包まれた(ひき)(がえる)のような巨体をわずかにずらし、道を開いた。

 かすかなあかりをよすがに、一歩一歩に決意と勇気とをこめて歩む少年の前に、深淵はほどなくその真の姿を現した。

 生き物の内部を思わせる生(あたた)かく湿った大気。そして、はるかな深みにも関わらず、(ぼう)とした光がおぼろげに照らし出す世界。

 表の世界からは到底うかがい知れぬ広大な世界。そこを往く冒険は探求と試練の連続だった。

 高峰の頂にすまう老賢人に挑んで進むべき道を得、ある時は道化に付きまとわれつつ、ある時は狂える魔神に()かれ、それでも一歩一歩、奥へと歩みを進めていった。

 そして、ようやくたどり着いた。生命の光にかがやく、百合を思わせる純白の神殿に。

 おずおずと足を踏みいれた中には、夢にまで見た乙女が眠っていた。

 “やっと、()えた ――― ”「母様」

 母親を呼ぶ声が足許から響き、ゆらりと立ち上がった影は、少年を逆に地面へ叩きこむと、乙女の眠るその手前の床に丸いものを叩きつける。少年本人すら知らぬ間にもぎとっておいた、老賢人の首だった。

 砕けた床に暗く底知れない()(らく)が口をあけ、なにか巨大な、蜘蛛とも龍蛇ともつかないものが()い出てくる。眠ったままの乙女をばりばりと喰らうと、少年となった影に無数の腕をのばし、影となってもがく少年ごと、その胸へと抱きかかえる。

 少年に成り代わった影は、豊かな胸にまどろみながら、()き立つ奈落の底へと消えてゆき、後には黒い邪神の哄笑(こうしょう)だけがひびいた。


『元型(Archetype)』

ユング心理学の概念で、無意識の中に存在する精神活動の原型的な働きによって表れる像。父を表す『老賢人』、理想的女性像である『アニマ』、母を表す『太母』、自我に抑圧された自分である『シャドウ』などがある。

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