2. 火遊び
おじさんの屋敷はどこでも入り放題なんだ。もちろん、おじさんはあちこちの門や扉をしめて、鍵もかけたりしてるけど、そんなもの、僕にはぜんぜん通じない。
今日も難なく目的の場所にしのびこむ。敷地の隅っこの庭にぽつんとあるこの小屋は、ちっぽけだけど日当たりはそこそこ良くて、おばさんはここに小さな鉢植えを一個おいてる。
おばさんったら。いつも何も考えないで生き物を育てては、ほったらかしにするんだ。この鉢植えだってもう伸びほうだい荒れほうだい、しかもちっちゃな蟲がうじゃうじゃ、葉にも幹にもびっしりたかっているんだから。
でも僕にとっちゃ、退屈なこの家の中でこの蟲たちはちょうどいいおもちゃ。ちっぽけだけど、ちょっといじってやると何が起こったかもわからず、集団で右往左往してすっごく面白いんだ。
ほら、ちょっと手を伸ばしただけで大騒ぎ。けっこういろんな動き方するだろ。くるくる回ったり、他の蟲を襲ったりするのもいる。
あまりに愉しいから、ついつい面白くなってもっと手を伸ばす。
しゅっ。
何もないところで指がこすれて、マッチをするのによく似た響きがした。ぎょっとして手を止める。
調子に乗りすぎたかな。また、あんなことにはならないよね?
心配をおさえながら、つい指をちょろっと動かした。
とたん、さっき指がこすれたあたりの空中で、ばちっ、とでっかい火花がはじけた。
あちちちちっ! 僕の指にも火が飛んだ。火はばちばちはじけて逃げまどう蟲たちをどんどん焼いていく。蟲にたかられ枯れかけていた鉢植えはすぐ燃えて、火は小屋じゅうに広がっていく。僕はどろりと溶けて影になると、いそいで逃げ出した。わぁ、もうどうしようもないぞ。
這い寄る混沌の干渉に反応して地球に顕現したクトゥグァによってこの宇宙は崩壊した。