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冬の戯れ  作者: 有月 晃
Segundo Capítulo / 第二章
7/52

1. 虎鉄

2008.04.09 20:52



 潮視坂しおみざか駅で電車を降りると、夜の海風が波の香りを運んできた。


 微かに耳に届く潮騒。春の海は穏やかに、駅の南側の砂浜の向こうで、静かに黒く広がっている。改札を通ると、時計の針は21時近くを指していた。キリが良いところまで仕事を仕上げて、今日は早めに退社したはずなのに…


 いずれにせよ、いまから晩飯の準備をするのは億劫だ。オレは商店街を中程まで登ったところで、脇道に逸れた。そのまま20メートル程進むと、馴染みの鉄板料理の店「虎鉄こてつ」がある。両隣を住宅に挟まれた店舗は間口が狭く、カウンター席だけの小さな店。年季の入った扉にはまだ「営業中」の札が掛かっている。良かった。間に合ったらしい。


 引戸をカラカラと開くと、店内には先客が数人。軽く会釈して、カウンターの端に座る。


「マスター、焼きそば定食。野菜大盛りで。あと、ビール」

「はいよ」


 カウンターの中で、ゴツい体格の男性がチラリとこちらを見てから、冷えたビールグラスを取り出してビアサーバーを操作する。悪く言えば無愛想。だが、仕事帰りで疲れている時にあれこれ話し掛けられたくないオレには、それが心地良い。


 コトリ、と目の前に静かに置かれるビールグラス。よく冷えて白い霜を帯びている。そのまま背を向けて、手際良く食材を用意し始めるマスター。野菜に火が入り、鉄板の上をコテがリズミカルに踊る。


 たかが焼きそば、と侮ることなかれ。無口なマスターだが、どこか有名な料亭の板前だったと噂がある程、この人が作る料理には定評がある。

 大きめに切られた白葱、焼きそば用としては脂身が少なく肉厚の豚肉、そこに季節の旬野菜が投入されて、太目の麺に和風出汁が絡み、最後に黒胡椒がピリッと全体を引き締める。


 素材自体はそれほど特別な物を使ってなさそうなのに、何が違うんだろう。いまも口を真一文字に結び、手許に集中したマスターは寡黙にコテを操っている。


 店に備え付けの新聞に視線を落としていると、もう一度ゴトリと音がして焼きそばの大皿が出てきた。荒削りの大きな鰹節が、熱々の皿の上で踊っている。付き出し、味噌汁、香の物がオレの前に順に並び、マスターがオレに視線を合わせて静かに「おまち」と囁く。


 オレは新聞を脇に置くと、手を合わせて「頂きます」と小さく声に出し、箸に手を伸ばす。ファストフード店なんかだと雑誌や携帯を片手に食事を済ませることもあるが、この店ではそうもいかない。マスターの一本筋の通った空気感のせいか、なぜかそうは出来ない雰囲気がある。不思議だ。


 今夜の焼きそばには、旬の野菜として茄子と筍が入っていた。焼きそばにはあまり馴染みのない組み合わせに思えるが、これがマスターの手に掛かると違和感なく馴染んでいる。


 まずは、豚肉に野菜を添えて口に運ぶ。美味い。ビールを一口。もう一度、箸を伸ばす。今度はそばを多めに。焦げた醤油の香りが口内に満ちる。堪らない。


 ふと視線を上げると、マスターと目が合った。オレは静かに首肯する。マスターも微かに頷いた様に見えた。


 思えば、今日もオレの人生は平和だった。朝起きて、職場に向かい、いまこうして美味い食べ物で腹を満たしている。後は家に帰って、風呂に入って眠るだけ。何の変哲もない、独り者の暮らしだ。


 これを寂しいと感じる人もいるのだろうが、いまのオレに限ってはそうでもない。毎日これを繰り返して一生を終えろと言われたら流石に躊躇するが、一時期に限れば変化のない穏やかな日々だって悪くない。


 いや、むしろ昨今の晩婚化の背景には、独りでも一定の幸せを感じられる社会環境が整ったこと、それから、隣近所との人間関係が希薄になって、独りでいても周囲の人間からごちゃごちゃ言われなくなったこともあるんじゃないか……


 そんなどうでも良いことをぼんやり考えていると、店の扉がカラリと開く音がして客が入ってきた。

 さて、第二章です。


 今日、私が住んでるところでは雨が降ってました。土曜日なのにイマイチ出掛ける気にもならず、近所を散歩したりして過ごしました。そんな中、書いた内容なので文章も緩い感じです。くつろぎながら読んでもらえたら幸いです。


 しばらくのんびりした雰囲気で物語が進む予定です。どこに進むんだろう。書いてる私にもよくわかりません。結構行き当たりばったりです。人生、こんなもんです。

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