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冬の戯れ  作者: 有月 晃
Sexto Capítulo / 第六章
43/52

7. 腕時計

2009.1.10 11:46



 救急外来のベッドで休ませてもらったオレとアスティは、初詣もそこそこに郷里を離れて、潮見坂しおみざかの街へと帰ってきた。


 温泉でのビール事件以降、アスティの体調は本調子ではないらしく、正月は二人でゴロゴロして過ごした。


 そして、新年初めの一週間が過ぎて、今日はようやくの土曜日。いまもまた、自室でくつろいでいる。もっと具体的に言うと、ソファに座ったオレの太腿を枕にしてアスティは横になり、静かに眼を閉じてジッとしている。ニットの下で心地良さげに上下する彼女の胸。


 休日の何でもない光景の様だけど、これがオレにとっては新鮮だったりする。


 というのも、アスティは「起きているのに何もしていない」ということが、あまりない人だった。たいていは本や雑誌に視線を落としているか、音楽に耳を傾けたり、書き物をしたりしていた。


 つまり「静かに眼を閉じてジッとしている」アスティは年明け以降の新しい光景だったのだが、この時のオレは彼女の身体の温もりに目を細めるだけで、それについて深く考えることもなかった。


 薄金色の細い髪に指を差し入れると、そのしなやかな感触が掌に冷たい。



「アスティ」


「ん。なに食べに行こっか、孝臣」


「オレが言おうとしたこと、よくわかったね」


「わかるよ。繋がってるから」


「いま、繋がってないけど」


「すぐにそういうこと言う。男って、どこの国でもおんなじ」


「基本的なプログラムはほとんど変わらないんだよ、きっと」


虎鉄こてつのマスターの焼きそば、食べたい」


「え、昨日の夜、食べたばかりだけど」


「いいの。食べたいんだから」



――――――



 ということで、約一時間後。


 鉄板料理の店「虎鉄」で大盛り焼きそば三人前を平らげたオレとアスティ。二日連続でも衰えない食欲を見せる彼女に、呆れと称賛のどちらとも言えない視線を送るマスター。オレは肩をすくめながら、先に店を出たアスティの姿を探す。


 すると、道の反対側、ショーウインドーの前に佇む細身の大食い女を発見。その背中に近付きながら「こんな店、あったかな?」と記憶を探る。どうやら、アンティークウォッチの店らしい。見るからに年季の入った腕時計や懐中時計がディスプレイされている。


 アスティの腰に背後から両腕を絡めて、細く張り出した肩に顎を乗せる。彼女の視線をたどっていくと、シンプルなデザインの腕時計が目に入った。女性用の小ぶりなサイズ、シルバーの金属製ベルト。文字盤には真珠貝が使われているのだろうか、見る角度によって銀白色が微細に表情を変える。そして、文字盤中央に刻まれたスイスの老舗メーカーのロゴ。



「アレ、孝臣の時計と一緒かな?」


「あぁ、そうだね。コレと同じモデルの女性用だよ」


「素敵。アンティークなの?」


「いや、そんなに古いものじゃないはずだけど。どうしたの? 珍しいね。アスティが物に興味示すのって」


「ん。なんかちょっと…… 気になったの」



値札をチラリと見れば、かなりの価格が書かれている。ポンと払える金額ではないけれど…… 冬のボーナスも入ったことだし、何とかならないこともない。



「きっとアスティに似合うよ」


「ん…… そうかな」


「欲しいなら、プレゼントしようか」


「え? なに言ってるの、孝臣?」


「なにって、そのままの意味。オレからアスティへの贈り物」


「……すごく嬉しいけど。でも、時計はダメ」


「どうして?」


「どうしても。ダメなの」


「なにそれ。わかんないよ」



 彼女の瞳がしばらく揺れて、ショーウインドーに映り込んだオレの視線と交差する。小さく口を開いて、言葉を選んでいる様子のアスティ。


 だが、彼女の唇からそれ以上の音が紡がれることはなく、素早く背を向けて歩き始めてしまった。


 この時の違和感の理由をオレが知るのは、しばらく後の話になる。

たった2千文字足らずなのですが。


書いては書き直し……を繰り返してたら、丑三つ時をとっくの昔に過ぎてる。


文章書いてると、つい時間を忘れてしまう。


いまから泥の様に眠ります。

おやすみなさい。

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