3. アイスクリーム
2008.04.03 18:21
メモに記された彼女の目的地は、駅前の商店街を抜けてすぐ、住宅街の中に最近建てられた大きめのマンションだった。
それほど距離もなかったので、タクシーではなく徒歩で向かう。背後から、スーツケースを引くゴロゴロという音がついてくる。オレが持つと言ったのに「道案内に加えて荷物運びまでして貰う訳にはいかない」と彼女が固辞したからだ。
二人で、駅前の商店街を歩く。会話はない。初対面の外国人と何を話せば良いのかわからないし、そもそもオレは口下手なので、相手が日本人だったとしても気の利いたトークなんて浮かばなかっただろう。
せめて、買物に便利なスーパーマーケット、ドラッグストア、100均ショップの位置くらいは教えてあげたら良かったのに……と今なら思うが、この時は彼女の状況も不明だったし、なによりもとにかく緊張していた。
その理由は、言うまでもない。振り返ると、金髪翠眼の女性。
肩からショルダーバッグ、片手でスーツケースを引き、キラキラした眼差しであたりを見回しながらついてくる。好奇心が強いタイプなのか。
そして、オレの視線に気付くと微笑み返してくる。道案内しているオレへの愛想笑いだ。そんなことはわかってる。わかってるんだが……
今日はせっかく職場を早く出られたのに、なぜこんなにも緊張を強いられる状況になってしまっているのか。とにかく、彼女の目的地までさっさと案内したら早々に別れて、自分のペースを取り戻そう。そう考えながら歩いていると、
「オー! アイスクリームショップ!」
背後から、妙にテンション高めの声が上がった。訝しみながら振り返るが、声の主はもちろん彼女だ。大きなスーツケースをゴロゴロと引きながら、店の前の看板に近付いていく。
見ると、アイスクリーム専門のチェーン店だった。この店の前は頻繁に通っているはずなのに、これまでオレの意識に登ったことがない。子供の頃には好きだった気がするのに、いつ頃からアイスクリームへの興味を失くしたのだろうか…… わからない。
そんな自省をしつつオレも店に近付き、彼女がまだ見入っている看板を後ろから覗き込む。30種類程のフレーバーが、カラフルな写真とともに紹介されている。
「……食べたいの?」
「ハイ!? ……イ、イイエ!」
首を懸命にフルフルしているが、明らかに視線が泳いでいる。人種の違いなどサクッと無視して、女性を魅了してやまないアイスクリーム。恐るべし。
「この後、予定あるの?」
「ヨテイ? キョウ、ヨテイナイ」
「それじゃ、一休みしよう」
「ヒト……ヤスミ? ナニソレ?」
「入ろうよ、この店」
大輪の花が咲くかの様に、表情全てを使って喜色を浮かべる彼女。そんなに好きなのか、アイスクリーム。美人で背が高くて、なんか勝手に近寄り難さを感じてたけど、意外に素朴で良い人なのかも知れない…
そんなことを思いながら、オレは店内に入っていった。
何回か再起動してたらスマホだけ回復したので、チマチマ書いてみました。しかし、フリック入力ってかったるい…
出会った日の話、次回で終わる予定です。