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冬の戯れ  作者: 有月 晃
Sexto Capítulo / 第六章
38/52

2. コテージ

2008.12.31 11:24



「あ、オレだけど」


「おー 久し振りだな。なに、いまどこ? 帰ってきてるんだろ?」


「そうなんだけどさ、ちょっと頼みがあって」


「ん? なんだよ。言ってみろ」


「叔父さんが経営してるキャンプ場のコテージ、一つ空いてたら貸してくれないかな?」


「あぁ、いまのシーズンは流石に寒過ぎて、キャンプしようなんて物好きな客もほとんどいないからな。空きはあるはずだけど……なんだよ、お前、いま実家なんだろ? どうした?」


「悪い。助かる。後で話すから」


 ほぼ一年振りに連絡を寄越したかと思えば、いきなりの頼み事。それにも関わらず、地元の旧友は快諾してくれた。通話を終えて、思わず安堵の溜息を漏らしてしまう。


「孝臣、その、私……」


「いや、いいんだ。アスティのせいじゃない」


 いったん実家の納屋に停めた車を、少し乱暴にスタートさせる。振動で農具の倒れる音がしたが構わない。


 林道に差し掛かると、空から雨混じりの雪が降ってきた。路側の樹々も葉を落として、白く枝を伸ばしている。山間の澄んだ空気と雪の冷たさを肌に受け止め、後方から聞こえるエンジン音に意識を集中させる。


 ざわついた心が、ようやく落ち着きを取り戻してきた。


 やがて緩やかなコーナーを回り込んだ先で脇道に逸れて、ギリギリ一車線の短い橋を渡ると、目的地のキャンプ場が見えてくる。行楽シーズンにはそれなりに賑わうこの場所も、オフシーズンの年末ともなれば利用客もほとんどいない。


 バーベキュー場を素通りして、キャンプサイトのさらに奥へと車を進めると、平屋のコテージが数軒並んでいる。その内の一軒、中央付近のやや大き目のコテージの前に、白い軽トラックが既に停まっていた。


 こちらが車で近づくと、懐かしい顔が運転席から降りてくる。両手に息を吹き掛けて寒がっている姿は、昔と何も変わらない。


「よぉ。久し振りだな、孝臣」


「あぁ。なんだ、また貫禄ついたんじゃないか?」


「うるせーよ。山の生き物はな、冬の間じっとして身体に脂肪を蓄えるもんなんだよ……って、ちょっと待て。誰だよ、その……外人さん?」


「あぁ、その、なんだ。付き合ってるんだ」


「こんにちは。アストリッドといいます」


「は!? え! 付き合ってるって、お前……」


「そんな驚くことないだろ。嫁不足で海外から奥さん貰ってるとこだって、この村に何軒もあるんだから」


「あー…… 何となくわかったわ。帰省したのにわざわざコテージ借りるって、変な話だと思ったんだよ。お前んとこの婆さんだろ」


 苦笑いしながら差し出された鍵を受け取り、宿代の代わりに缶ビールのケースを渡す。「すまん。叔父さんと奥さんによろしく」と伝えると、肩を竦めながらそれを受け取る旧友。


 白い軽トラックの窓から手をヒラヒラと振る彼を見送ってから、コテージの横に車を停めた。今夜は雪が積もるらしいので、オープンにしていた屋根を閉じる。


 トランクの荷物は、あっけなく運び終わった。そもそも数泊分の着替えと、実家への土産しか持参していない。


 扉を入ってすぐのところで、コートも脱がないまま、アスティが立ち尽くしていた。物悲しげなのに、いまにも吹き出して笑い始めそうな、何とも言えない表情。


 その背にそっと腕を回すと、思ったより強い力で抱き返された。喉元にかかる彼女の吐息を感じながら視線を向けると、窓外の樹々は徐々に白く染まりつつあった。

 「セカキス」企画の短編とかやってて間が空いてしまいました。スミマセン。


 こちらはそろそろ佳境に差し掛かりつつあるので、勢い任せではなく丁寧に話を進めていきたくて。


 深夜にこっそり更新です。

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