6. 誰かと一緒にいること
2008.12.08 21:46
水面が桜色に染まって揺れる。
同じ色に濡れた肢体が、湯気に煙った視界の中でゆるゆると動いて、互いの身体から着実に快感を引き出していく。
いつも通りに人差し指を顔の前でピッと立てながら「二人で入った方が湯の量も少なくて済むし、湯温が下がらなくて色々と効率が良い。あと、日本の入浴剤、大好きだから二人で楽しみたいです」という謎の強弁を振りかざす遥か北方の民に押し切られて以来、入浴はいつも一緒だ。
本日のお湯は薔薇の香りがしていて、心なしか粘度も高くトロリとしている。しかし、狭い。独り暮らしを想定したマンションのバスルーム、日本の住宅事情がそのまま反映されたかの様な浴槽。
そこに身長170センチオーバーの成人が二人。大人しく横に並んで、膝を抱えてジッとしているならまだしも……諸事情がそれを許さない。
オレとアスティは浴槽の中で向かい合っていて、彼女は何というか、両腕でオレの頭部を掻き抱きながら、透明度の低い水面下でオレを包み込んでいる。一緒に入浴すると多くの場合、こういう状況になる。効率云々の話はどこかへ飛んでいるっぽいが、こちらとしても不満はないので指摘を控えている。
目の前で揺れる豊かな胸に口付けすると、彼女の吐息が浴室に反響した。
「お風呂、大好き」
「物凄く狭いけどね」
「日本って人口密度高過ぎるのよ。でも、好き」
「他に好きなものは?」
「アイスクリーム、お寿司、お蕎麦、お孝臣」
「人の名前の前に『お』はつけないよ。ってか、オレって食べ物と同じ並びなの?」
「ハイ。いただきます」
「じゃ、苦手なものは?」
「んー なんだろ……? 刻んでない海苔とか?」
「海藻を平たくして、乾燥させてあるんだよ、あれ」
「噛み切れないし、口の中に引っ付くから苦手」
「でも、アスティって食べ物の好き嫌い、少ないよね。他に苦手なものってないの?」
「んー…… 誰かと一緒にいることかな」
「いま一緒にいるけど」
「長くなるとどうしても無理なのよ、私」
不意に水面の揺らぎがおさまった。濡れた髪が彼女の表情を隠して、下唇を軽く噛む白い前歯だけが見えている。それに指先で触れると、甘い口内へと導かれていった。
「あの、アスティさん、そろそろのぼせそうなのですが」
「私もクラクラして気持ち良い」
「いや、それとはちょっと違うんじゃないかと」
「……つまり、それはリクエスト?」
「まぁ、そんなところです」
「日本語っていつも曖昧。でも、りょーかい」
水面が乱れて泡立ち、桜色の湯が浴槽の外へ溢れる。やがて彼女に導かれるまま、緩やかに終わりを迎えた。
互いの火照った身体を持て余しながら、転がる様にしてバスルームから出る。そこらじゅう、水浸しだ。一枚のバスタオルを二人で使って、濡れた身体を拭きあった。
なかなか話が進まずスミマセン。




