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冬の戯れ  作者: 有月 晃
Quinto Capítulo / 第五章
34/52

6. 誰かと一緒にいること

2008.12.08 21:46



 水面が桜色に染まって揺れる。


 同じ色に濡れた肢体が、湯気に煙った視界の中でゆるゆると動いて、互いの身体から着実に快感を引き出していく。


 いつも通りに人差し指を顔の前でピッと立てながら「二人で入った方が湯の量も少なくて済むし、湯温が下がらなくて色々と効率が良い。あと、日本の入浴剤、大好きだから二人で楽しみたいです」という謎の強弁を振りかざす遥か北方の民に押し切られて以来、入浴はいつも一緒だ。


 本日のお湯は薔薇の香りがしていて、心なしか粘度も高くトロリとしている。しかし、狭い。独り暮らしを想定したマンションのバスルーム、日本の住宅事情がそのまま反映されたかの様な浴槽。

 そこに身長170センチオーバーの成人が二人。大人しく横に並んで、膝を抱えてジッとしているならまだしも……諸事情がそれを許さない。


 オレとアスティは浴槽の中で向かい合っていて、彼女は何というか、両腕でオレの頭部を掻き抱きながら、透明度の低い水面下でオレを包み込んでいる。一緒に入浴すると多くの場合、こういう状況になる。効率云々の話はどこかへ飛んでいるっぽいが、こちらとしても不満はないので指摘を控えている。


 目の前で揺れる豊かな胸に口付けすると、彼女の吐息が浴室に反響した。


「お風呂、大好き」

「物凄く狭いけどね」

「日本って人口密度高過ぎるのよ。でも、好き」

「他に好きなものは?」

「アイスクリーム、お寿司、お蕎麦、お孝臣たかおみ

「人の名前の前に『お』はつけないよ。ってか、オレって食べ物と同じ並びなの?」

「ハイ。いただきます」

「じゃ、苦手なものは?」

「んー なんだろ……? 刻んでない海苔とか?」

「海藻を平たくして、乾燥させてあるんだよ、あれ」

「噛み切れないし、口の中に引っ付くから苦手」

「でも、アスティって食べ物の好き嫌い、少ないよね。他に苦手なものってないの?」

「んー…… 誰かと一緒にいることかな」

「いま一緒にいるけど」

「長くなるとどうしても無理なのよ、私」


 不意に水面の揺らぎがおさまった。濡れた髪が彼女の表情を隠して、下唇を軽く噛む白い前歯だけが見えている。それに指先で触れると、甘い口内へと導かれていった。


「あの、アスティさん、そろそろのぼせそうなのですが」

「私もクラクラして気持ち良い」

「いや、それとはちょっと違うんじゃないかと」

「……つまり、それはリクエスト?」

「まぁ、そんなところです」

「日本語っていつも曖昧。でも、りょーかい」


 水面が乱れて泡立ち、桜色の湯が浴槽の外へ溢れる。やがて彼女に導かれるまま、緩やかに終わりを迎えた。


 互いの火照った身体を持て余しながら、転がる様にしてバスルームから出る。そこらじゅう、水浸しだ。一枚のバスタオルを二人で使って、濡れた身体を拭きあった。

なかなか話が進まずスミマセン。

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