2. 翡翠色の瞳
2008.04.03 18:07
彼女と向かい合って立つ。
小さな頭部とのバランスからかなりの長身に感じられたが、実際にはオレよりも少し小柄だった。172〜3センチといったところだろうか。
額にかかった髪を搔き上げて、こちらに視線を合わせてくる。夕陽が眩しいのか、かざした手の下で光る瞳は翡翠色だった。
後方から、車のドアが閉じる音。振り返ると、さっきのタクシーが別の乗客を乗せて、さっさとロータリーを出ていくところだった。
残されたのはオレと、目の前でさらに困った表情をしている彼女だけ。
「アノ……」
手の平を胸に当てて、彼女が話し始める。
「ワタシ……ガイコクジン……」
「それは見ればわかるよ」
日本語を予習してきたらしい。たどたどしい発音だが、安易に英語を使わずに、丁寧に言葉を紡ごうという姿勢に好感を覚えて、思わず口許が緩む。
自分の日本語が通じて緊張が解けたのか、彼女の肩からも少し力が抜けた様に見えた。
「ワタシ、イク、コノアドレス」
「うん。タクシーに乗ろうとしてたよね?」
「タクシー、イカナイ。ナゼ?」
彼女が差し出したメモを見ると、駅からそう遠くはない住所が記されていた。
近距離だから乗車拒否されたのか、それとも住所がアルファベット表記だから嫌がられたのか… いずれによせ、理由はもう確かめられない。
「Please、タスケテ、ワタシ」
この状況で断るのは至難の業だろう。
心の中でこっそり溜息を吐きながら、ろくに言葉も掛けないままオレは歩き出した。
スマホとPCの両方が同時に絶不調とか。なぜですか……
短いけど、今日はここまでにさせてください。