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冬の戯れ  作者: 有月 晃
Cuarto Capítulo / 第四章
26/52

3. 何もかもすべて

2008.11.02 16:32



「散歩でも行こう」と言っても小さな街のことだ。候補に上がる場所なんて限られている。結局、この日のオレ達はなんとなく商店街を下って、駅の南に広がる海辺を散策することにした。


 人影の少ない冬の海。いつもよりさらに裏寂しい印象の砂浜だが、彼女はそんなことを気にする素振りを見せない。ただ静かに、並んで歩く。いや、並んで……というのは正確な描写ではなかった。


「あの、アスティ」

「ん。なに」


 彼女の身長はオレと数センチしか変わらないので、目線の高さもほぼ同じ。そして、オレの腕は彼女に絡め取られていて、横を向けば薄翠色の瞳が至近距離からこちらを見返してくる。家を出てからずっと、こんな状態だ。


「こういうの久し振りだからさ」

「そうなんだ」

「そう、だからなんて言うか……ちょっと歩きにくくない?」

「孝臣の腕、あたたかい」


 これはつまり「離すつもりはない」という意思表示か。諦めたオレが、彼女と繋いだままの手をジャケットのポケットに突っ込むと、きゅっきゅっと二回、嬉しそうに握り返してきた。


 冬の海はただ穏やかに、規則正しく波音を届ける。ふいに後ろから砂を蹴散らす音が近付いてきたかと思うと、オレ達のすぐ横を真っ黒な大型犬が駆け抜けて行った。


 数秒を置いて、小さな女の子がその犬を追い掛けていく。家族連れが砂浜で犬を遊ばせているのだろう。西の水平線の上、傾きかけた太陽に視線を向けた女の子が「ひこーきー!」と大きな声を上げた。


 視線を向けると、大型の旅客機が灯火を点滅させながら遠くの夕空を横切っていく。

 

「……そういえば、乗ろうとしてた飛行機、もう間に合わないんだよね?」

「そうね。もう無理よ」

「なにか予定はないの?」

「何もないわ。仕事なくなっちゃったから」



 ――――――



 髪にまだ残る潮の香りを、熱いシャワーで洗い流す。琥珀色の夕日が射し込むリビングに戻ると、アスティがソファに横になって寛いでいた。テレビにぼんやりと向けられた視線。その表情からは何も読み取れない。


 オレがソファの前のフローリングに直接腰を下ろすと、彼女の長い腕が首に絡んできた。テレビでは初級者向けの英会話番組が流れている。ネイティヴスピーカーの若い女性キャストが、キーとなるセンテンスをゆっくりと明瞭な発音で繰り返している。


「What can I do for you? (貴方の為に何が出来ますか?)」


 番組の場面が切り替わり、奇妙な服装をさせられたどこかの英文科教授とおぼしき人物が差し棒を使いながら、センテンスの構造を説明し始める。


 リモコンのミュートボタンを押して、テレビを黙らせた。視線はテレビに向けたまま、彼女の腕にそっと手を重ねてつぶやく。


「What can I do for you, Asty? (君の為に何が出来る、アスティ?)」


 長い沈黙。答えを得ることを諦めかけた時、彼女の唇がオレの耳元で微かにささやいた。


「Just make me forget. (忘れさせて)」

「Forget what?(何を?)」

「Everything. (何もかもすべて)」

 FELLOWさんからご指摘を頂き、今回から段落の先頭に空白を入れて、一文字落とすことにしました。


 ネット小説とはいえ、そんな基本的なことすら意識せずに書いてた自分に驚き。前回までの投稿についても順次修正していきます。


 これまで見苦しい文面でスミマセンでした。


 ↓


2016年7月25日 全部修正しました。

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