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冬の戯れ  作者: 有月 晃
Cuarto Capítulo / 第四章
25/52

2. 半熟卵

2008.11.02 09:16



 食卓にトーストとコーヒーが並ぶ。奮発してハムエッグとフルーツサラダもササッと用意した。


 バスルームから出てくるなり食卓に駆け寄り、瞳をキラキラさせてるアスティ。濡れて少し色素が濃く見える髪。したたった水がフローリングの上でポツポツと光っている。食べさせ甲斐のある生き物だ。でも、つまみ食いする前に服着ようよ。襲いますよ。


「では、いただきます」


 二人揃って、日本の伝統的な挨拶を口にする。オレは手を合わせながら。彼女は胸の前で十字架を切りながら。美しい所作なんだけど、なんだろう、この異文化コミュニケーション的ハイブリッド違和感。ってか、デジャヴ。


「アスティ、ご飯食べる前に、いただきますって言うよね」

「うん。日本語の感謝のお祈りでしょ?」

「お祈り...かな? まぁ、いいや。で、その時にいつも十字架切ってるよね?」

「うん。カトリックなの、私。お父さんがスペイン人でカトリック教徒だから」

「あぁ、そうなの... って、いや、そうじゃなくて」

「どうして? 日本人は神道とか仏教信じてるから手を合わせるんでしょ?」

「んん? ご飯の挨拶で手を合わせるのは宗教と関係あったかな? あれ? よくわかんないや」


 オレは宗教概念が曖昧で「私の宗教は神道です」とかはっきり言い切れない人間だ。神社の御守り、法事で使う数珠、どちらもなんとなく粗末には出来ない上に、クリスマスも祝ったりしてみる。典型的な日本人と言えるだろう。


 まぁ、なんだか彼女なりに理屈は通ってるみたいだし、所作も美しいからいいかな。


 目の前には、早くもサラダをペロリと平らげて、ハムエッグに取り掛かっているアスティさん。よく食べるな、この人。伊達に身長高くない。唇の端から垂れてしまったトロトロ半熟卵をなんとかしようと、一生懸命に舌を伸ばしている。ティッシュ使おうよ。そういう習慣ないのか、ひょっとして?


 いや、ちょっと待てよ。

 カトリック教徒って確か……


「あの、つかぬことをお尋ねしますが、アスティさん」

「ん。なんですか、孝臣さん」

「カトリックの人達って、その、結婚前の男女の夜の……アレってダメなんじゃ?」

「その通り。よく知ってるね」

「えっと、つまり……?」

「責任取ってね、孝臣」

「……え?」


 瞠目せよ、極東の民よ。これが外資系投資銀行員のクロージングスキルだ。見事に選択の余地なし。チーン。


「フフッ、面白い顔。ウソよ。私も大人だし。それにカトリックだからって、みんなそこまで厳密に戒律守ってる訳じゃないよ。努力目標みたいなものなの、それ」

「そう……なんだ」


 ホッとするべきか、ガッカリするべきか。男としては反応に物凄く悩む瞬間だ。たぶん。


「それにね、結婚とかにこだわってないから、私」


 彼女の両親が国際結婚の末に離婚していることに思い当たり、ますますどんな顔をすれば良いのかわからなくなってきた。とりあえず、コーヒーを口に運ぶ。今朝のは少し苦味が強い。豆の分量を誤ったか。


「これ食べたら散歩でも行こうか」


 なんでもないオレの言葉に、アスティは静かに優しい笑顔で応えてくれた。

 書いてて楽しい。もうこのまま蜜月を10章くらいやろうかと。流石に飽きるか。

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