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冬の戯れ  作者: 有月 晃
Cuarto Capítulo / 第四章
24/52

1. タカアシガニ

2008.11.02 08:43



「やっぱり違う」

「え、ほんと?」

「私の骨はフラット、貴方のは出っ張ってる。ほら、触って」


 膝小僧の下、脛骨けいこつの上部を指差しながら、アスティがコクコクと頷いている。


 いわゆる「膝のお皿」と呼ばれる膝蓋骨しつがいこつのすぐ下付近。アスティの骨格はその部分に凹凸がなく、シュッと直線的にすねに繋がっているのに対して、オレの骨格には少し突起がある。


 彼女にはそれが興味深いらしい。今まで特に気にしたこともなかったし、それがオレ個人の骨格の特徴なのか、それともモンゴロイドという人種全般に共通する特徴なのかもわからない。


 他にも違うところがないか、毛布の下でオレの身体を入念にチェックし始めるアスティ。研究者魂に火がついているのか。


 だが、そろそろ勘弁してもらいたい。

 色んな意味で。


「あの、アスティ?」

「ん? なに、孝臣たかおみ?」

「お腹空かない? そろそろ朝御飯にしようよ」

「わ、日本の朝御飯! お米とお味噌汁?」

「いや、フツーにコーヒーとトーストだけど」

「むー……」


 への字口で抗議の意を表明している彼女の頭をクシュッと撫でてから、ベッドの下へ上半身を伸ばすオレ。冬の朝の冷気に肌が引き締まる。脱ぎ散らかされた服を搔き回して自分のを探していると、その横にトンと軽やかに乳白色の脚が下りてきた。


 カーテン越しの朝日に淡く照らされた室内を、彼女はスタスタと横切り始める。


「わ、ちょ! アスティさん!」

「え?」

「あの、これ、君の…」

「あ、私、寒さに強いから」

「いや、そうじゃなくて」

「あ、こういうこと?」


 両腕を頭の上へ高く掲げて絡め、脚を半歩開いて誇らしげに胸を反らすアスティさん。ドヤ顏でこちらにポーズを取っている。オレの部屋に忽然と登場した芸術的彫像。朝日を反射して眩しいことこの上ない。


 いや、違う。全然違うから。


「どう思う、孝臣たかおみ?」

「いえ、わかりました。素晴らしいです。素晴らしいスタイルをお持ちですから、もう少し恥じらいを…」

「ダメ。ちゃんと見て。貴方が褒めてくれないと、私の身体を褒めてくれる人、他にいないんだから」


 そう言い残して、彼女はバスルームに入っていった。オレの感覚だとアンバランスなまでに細長い脚。いつか水族館で見たタカアシガニを連想したのは内緒だ。


 オレはとりあえず下着に足を通して、部屋着のパーカーを羽織った。胸に当たる金属製ジッパーの冷たさを感じながら、愛用のコーヒーメーカーに向かう。


「なんだかなぁ……」


 苦笑しながら漏らした溜息は、珈琲の香りと一緒にエアダクトへ吸い込まれていった。

 蜜月、始まりました。



 あ、膝のちょい下、突起あります? 真っ直ぐですか? 良かったら結果教えてください。

 ↓

有月 晃

http://twitter.com/UdukiKo/

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