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冬の戯れ  作者: 有月 晃
Tercer Capítulo / 第三章
21/52

5. Dejame en paz.(デハメ エン パス)

2008.11.01 10:09



 いつかのアイスクリームショップに着いた。


 窓際席に座ったアスティが、オレに気付いて手を挙げる。しかも、物凄くにこやかな笑顔だ。力が抜けると同時に、なんだか急に腹が立ってきた。


 とりあえず彼女に頷き返しておいて、まずはアイスクリームのショーケース前に立つ。ひんやりとした空気が伝わってきて、火照った身体に心地良い。

 いま大変なのは彼女なんだから、とにかく気持ちを落ち着けなくては。バレない様に浅く、何度か深呼吸する。あ、店員さんにヘンな顔された。


 手近のフレーバーを注文して、ゆっくりと席に着く。彼女は自分のアイスクリームを食べ終わったところらしい。


「おはよう、アスティ」

「おはよ、孝臣たかおみ。わ、汗かいてるよ」

「ちょっと走ったから」

「そうなんだ。じゃ、休憩しててね。もう一つ食べようかな、私」

「いや、そうじゃなくて」

「え? どうしたの?」

「だから仕事の話。聞いたよ」

「あれ、もう知ってるの? ひょっとして…… ヴィクトル? お喋りだね、彼」

「だから、そうじゃなくて」

「ん?」

「大丈夫なの?」

「あぁ、何て言うのかな、思うところは色々あるんだけど」

「だけど?」

「いまはむしろ、自由になれた気分かな。スッキリした感じ?」

「なにそれ」


 もう一度アイスクリームを選ぼうと、立ち上がり掛けるアスティ。その肩に手を置いて席に留まらせる。


「え、なに?」

「あのさ、急にいなくなるから驚いたんだけど、オレ」

「あぁ、えっと、ごめんなさい。後で連絡しようと思ってて」

「後で? どうして後なの?」

「待って。孝臣たかおみ、ひょっとして怒ってる?」


 自分の席からオレを見上げるアスティが翡翠色の瞳を細めて、初めて戸惑いの色を浮かべる。ダメだ。異文化コミュニケーション、破綻しそう。


「ここ出ようか」

「え、でも」

「コレは君が食べて」

「……わかった」


 買ったばかりのアイスクリームを彼女に押し付けて、店を出る。それを黙って食べながら、ついてくる彼女。なんでこんな時に呑気にアイスなんか食べられるんだよ。まぁ、オレが渡したからなんだけど。


 商店街を下って、気が付いたら公園まで来ていた。中央の噴水広場に着いた。真ん中には人魚がいて、それを囲む様に配された魚の口から水が…… って、そんなのはどうでも良いか。


 振り返って、彼女と対峙する。アスティの表情からはさっきまでの笑顔が消えて、形良く張り出した細い肩が怒っている。


「マンション、出たって聞いたんだけど」

「社宅なんだから、解雇されたら出て行く。当然でしょう」

「いまどこにいるの?」

「とりあえず駅前のビジネスホテル」

「いや、移動するの早過ぎない?」

「昨日の夜、本店の兄さんが電話くれたの。解雇になるから、ゴメンって。だから、昨夜のうちに荷造りした」

「あぁ、それで」

「ねぇ、これって孝臣たかおみに何か関係ある話?」


 アスティとオレの間は1メートル。二人の間を秋風が静かに吹き抜ける。彼女は腰に手を当て、普段は真っ白な頬を紅潮させている。


「さっぱりわからないんだけど。どうして孝臣がそんなに怒ってるのか」

「そりゃフツー怒るでしょ!」

「解雇されたのは私なのに?」

「だから! そこじゃなくて! オレが怒ってるのは君が急に」

「いなくなったから? どうしてそれで孝臣がそんなに怒るの? 貴方は私の何?」

「何って、それは……」


 彼女が大袈裟に溜息を吐きながら、小さく呟くのが聞こえた。「情けない男」と。言い返せないオレ。子供達の蹴ったボールが転がってきて、それを拾って渡してやる彼女。その瞬間、子供達にだけ見せた満面の笑みに嫉妬する。


「Ya, basta. Dejame en paz.(もういい。ほっといて)」


 スペイン語で吐き捨てながら足早に去っていくアスティ。その背中に掛ける言葉が、どうしても出てこなかった。

 そろそろヤマ場です。しかし、書いててツラい...



 あと、お気付きでしょうか。

 プロローグの日時が11月1日の夜。

 今回の話が11月1日の朝。


 ハイ、誰一人として気付いてませんよね。大丈夫。私の自己満足ですから。やっと冒頭の場面に追い付きつつあります。流石に感慨深いものが…



 ってか、プロローグの日付、辻褄合わせにちょいイジったのは内緒。

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