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冬の戯れ  作者: 有月 晃
Tercer Capítulo / 第三章
20/52

4. 解雇

2008.11.01 09:27



 朝の空は高く澄んで、うろこ雲がどこまでも続いている。こういう形の雲は、外国ではどんな名前で呼ばれているんだろう。


 そんなことをぼんやり考えながら、指定されたカフェの扉を開く。土曜日の朝、店内はモーニング目当ての客で意外に賑わっていた。オレに気付いた待ち合わせの相手が、スッと立ち上がる。コーヒーをオーダーして席に着くと、ヴィクトルはストレートに本題に入った。


「解雇されました」


 冷水の入ったグラスを口にした瞬間、こんな言葉が聞こえてきた。水を一口飲む間くらい、待ってくれても良さそうなものを。


 グラス越しにヴィクトルと視線を合わせながら、口に含んだ冷水をゆっくりと飲み下す。


「あの、なんですって?」

「だから、会社から解雇されたと。早朝のことです」

「そんな、いきなり過ぎませんか」

「休日出勤したらボスに呼ばれて、その場でIDカード返却して出て行け、ですよ。まぁ、投資銀行なんてこんなものです」

「……これからどうするんですか、ヴィクトル?」

「人員削減の噂は前から聞こえてましたからね。ある程度、次の目途は立ってます。さて、私のことはさておき、アスティですよ」

「まさか彼女も?」

「そうです。チーム全員が解雇を言い渡されました。特に彼女は、サブプライム住宅ローン債権を組み込んだ商品開発に関わっていた経緯もあります。今回ばかりは、彼女のお兄さんもかばいきれなかった様ですね」


 おざなりな言葉でヴィクトルと別れて、すぐにアスティの携帯電話を鳴らす。応答がない。「いまどこ?」とだけ書いたメールを携帯宛てに送信して、走り出す。


 街の中心を走る商店街を、一気に登る。そのまま彼女のマンションのエントランスホールに駆け込むと、コンシェルジェに来意を告げる。


「エクダールさんは既に退去されています」

「……はぁ?」

「先程、出て行かれました。もうこちらにはお住まいではありません」

「いや、それはわかるんだけど…… え、ってゆーか、それじゃ、いま彼女はどこにいるんですか?」

「申し訳ありません。あいにくわかりかねますが」


 マンションを出て、もう一度走り出す。でも、どこへ? 彼女の行き先に当てなんてない。図書館か? しかし、解雇された彼女が図書館に行ってどうする? いや、他に当てもないし取り敢えず行くしかない。


 さっき登ったばかりの商店街を、また一気に下る。


 買物客が何事かとこちらを見ているが、構っていられない。公園を斜めに突っ切って、図書館を目指す。乾いた秋の風が喉に引っ掛かって、呼吸が苦しい。


 テラス席に人影はない。流石に館内を走る訳にはいかないので、乱れた息を整えながら足早に本棚の間を進んで彼女の姿を探す。しかし、見つからない。


 途方に暮れて図書館を出たところで、オレの携帯がメール受信を知らせる。


「おはよう、孝臣たかおみ。いまアイスクリーム食べてまーす。美味しいよー」


 呑気な答えに、思わず舌打ちする。バカか。いや、違うな。バカはオレだ。彼女が絡むと、いつもこうだ。


 大きな溜息を一つ吐いてから、オレはもう一度走り出した。

 アスティさん、あっという間に日本語ベラベラですが、その辺はフィクションってことでご了承ください。


 今日は、できたら夕方以降にもう一度更新したいと思ってます。

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