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冬の戯れ  作者: 有月 晃
Segundo Capítulo / 第二章
15/52

9. アイリッシュ ステップ

2008.04.20 15:04



 聞き慣れない旋律が、耳に届く。


 アストリッドがオレの横を歩きながら、メロディをハミングしているらしい。


 時に調子や音程に変化をつけながら、基本となる旋律を飽きることなく繰り返して、そのままどこかへ昇っていきそうな不思議な音の群れ。


彼女の身長はオレとあまり変わらないので、横に視線を向けると、金糸の様に輝く髪に包まれた横顔が、ほぼ同じ高さに見える。その髪がさっきからずっと、フワフワと楽しげに跳ねている。なにかこう、スキップというか、ダンスのステップを踏んでいるみたいだ。


「それ、なに?」

「エ? ナニッテ、ナニ?」

「その足の動き」

「ア、コレネ、アイリッシュ、ステップ。ワタシ、スキ」


 そう言って、彼女は両手を腰に当てて、綺麗に肘を張る。鋭角の顎をクッと上に向け、バックステップでオレから距離を取ったかと思うと、その場で本格的にステップを踏み始める。

 サンダルの底がポクポクと音を立てる。どう見てもステップを踏むには向いていない履物なのに、そんなこと気にする素振りも見せずに、クルクルと回り始める彼女。


 長い足が絶え間なく、リズミカルに地面を叩き、薄い水色のリネンシャツが木漏れ日を受けてさらりと舞う。淡い日差しに透けた髪が彼女を中心に広がって、空気をはらんだまま思い思いに踊り続ける。


 ここは、休日の公園の遊歩道。通行人は決して多くはないが、突然踊り始めた長身の女性を見て数人が足を止める。家族連れの小さな女の子が、動きを真似ようとして小さな足をパタパタさせている。


 暫時ざんじ、彼女を中心として小さな人の輪が出来た。


 徐々にステップの速度を落として、最後に彼女が一礼すると、見物人からまばらな拍手が送られる。照れくさそうに会釈しながら、舞台から退場するバレリーナの様にオレの横に戻ってくる彼女。


 息が少し上がって、薄っすらと汗をかいている。さっき着ていたリネンシャツからスルリと肩を抜き、丸めて片手に持つ。シャツを持たないもう一方の手はタンクトップの胸に当てられていて、呼吸を整える仕草。


「ニホン、アツイ、スコシ」


 そう呟いた横顔が、とても澄んでいて。

 生き物として、すごく美しかった。


 なぜ、こんなに無邪気なんだろう。

 踊りたいと感じたから、ただ踊った。

 この人がしたのは、きっとそれだけだ。


 それが、どうしてこんなに眩しく映るのか。


「そろそろ帰ろうか」


 彼女の表情を見なくて済む様に、わざと視線を外して。樹々の梢から漏れる光に目を細めながら。


 オレはそんな言葉を口にしていた。

 今日もお昼休み更新してみました。場面も昼間の公園なので、少しは雰囲気出るかと。いや、無駄な足掻きかなぁ。


 あ、昨日は1件だったブックマークが、早くも4件に増えてます。なんか評価も頂いてるし。twitter効果か。有り難うございます。

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