表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冬の戯れ  作者: 有月 晃
Segundo Capítulo / 第二章
12/52

6. ホンヤサン

2008.04.20 11:34



 商店街のアーケードを、アストリッドと並んで歩く。


 ゴールデンウィークも過ぎて、気温は順調に上昇傾向にある。まだ春だというのに、アーケードを抜けたところでは目を背けたくなる様な真っ白な日差しが、アスファルトを焼いている。


 この日の彼女は、鮮やかなオレンジ色のタンクトップに白いパンツを合わせて、足元はサンダルというラフなスタイル。その上から長い丈のリネンシャツを羽織っていた。透明感ある水色のそれが、彼女が歩くにつれて風をはらんでフワフワ踊る。


 まずはスーパーマーケットやドラッグストアを案内しようかとオレが問うと「ソレ、ヴィクトル、オシエテクレタ」とのこと。オッサン、先に言えよ。オレの組んだ予定がいきなり崩れただろーが。


 さて、どうしたものかと考えてたら「コノマチデ、イチバンオオキナ、ホンヤサン、オシエテ」というとても具体的な案が出てきたので、とりあえずいまそこに向かってる。


 商店街を並んで歩いていると、米屋、豆腐屋、和菓子店といった純日本的な物に強い興味を示すアストリッド。

 それ以外にも、キョロキョロあたりを眺めては「アレ、ナニ?」と頻繁に質問が飛んでくるので、一つ一つに丁寧に答える。彼女は早速買い食いした団子をかじりながら、フムフム頷いている。


 で、「コノマチデ、イチバンオオキナ、ホンヤサン」に着いたのだが。所詮は小さな街の書店だ。狭い店内には、新聞、雑誌、単行本、文庫にコミックが少しずつ並んでいるが、彼女が読めそうな英字新聞や洋書なんてもちろんなかった。その旨を告げるオレ。


「チガウ。ベンキョウノホン、ドコ?」

「勉強? 何の勉強?」

「モジ。ニホンゴ」

「んん? この辺かなぁ?」


 どうやら、日本語の日常会話、簡単な文法と文字の読み方は赴任が決まった時に予習してきたが、文字の書き方はまだらしく、書けるようになりたいらしい。参考書コーナーで「初めての平仮名・カタカナ」的な本を手に取るとアストリッド。文字をなぞりながら何度も書き方を練習する、子供向けのテキストだ。中身をパラパラとめくって確認すると「コレ、カウ」と嬉しそうにレジに持って行った。


「さて、次はどこ行きたい?」

「トショカン!」

「え、また本ですか」

「ハイ、ワタシ、スキデス、ホン。タカオミハ?」

「いや、嫌いじゃないけど」

「ホン、ヨマナイト、ブタサンニナリマスヨー」

「なにそれ。本読んでばかりで身体動かさないと太る、じゃなくて?」

「フルイ、コトワザデス」

「んー よくわかんないな」


 図書館は公園に隣接して建っている。ちょうど良いから、図書館の後は近くのカフェでランチでもして、ついでに公園の中を散歩でもしようか。そんなことを考えながら、オレは歩き出した。彼女が隣に並ぶ。


 待ち合わせの時に感じていた緊張はいつの間にか薄れて、だんだん楽しくなってきてる自分がいた。

 初デート、始まりです。ここまで来るのにこんなに掛かるとは、書いてる私でも思ってなかった。


 あと何回かで終わって、第三章に入る予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ