鬼の住む山01
だいぶ間が空いてすみませんでした。
安堵の溜め息をつきながら魚山漁を出ると、外では別の地獄が待っていた。
蝉は僕の心の声を叫ぶ様に鳴き、安部君の見ているスマホの画面の中では無人の日比谷公園をバックに天気予報のお姉さんが、真っ赤に塗り潰された23区をゆびさす。道を走る車は窓を閉めきり、陽炎の中に揺れている。歩道には僕たち以外に人影はない。しかしあの地獄よりはましな方だ。
「鶴巻先輩はあんな中よくかぜひきませんね」
そう、その地獄とはその事である。
「冷房の設定温度が18度でしょ それこそ生き地獄だよね」
「こたつの中でぬくぬくしてんじゃないすか」
「雪女にでもなろうとしてんじゃないかな」
「いや、あれはもう雪女ですよ」
この毒舌である。
「ところで森家さんは、大丈夫でしょうかね」
森家さんも職場の同僚だ。外見はシマリスの様で、動きもリスそっくりなので職場では癒し系のきゃらとして成り立っている。しかし本人に自覚がある事はまずないだろう。(と言うよりあってほしくない)そしてさっきから職場職場とうるさいのは、その職場がへんちくりんだからだ。そのしょ・・・・・・
ドンッどんっ
爆風が頭をなでた。車はパニック状態になり、あちこちで玉突き事故を起こす。歩道を歩いていた数少ないサラリーマンも悲鳴を上げる。
ドドッン
2回目の爆音。ビリビリと振動・悲鳴・熱風が僕たちを襲う。
「安部君!」
「はい!」
素早く抜き去った拳銃の重みが心を落ち着かせる。
「警察と消防にお願いしまっ
1回目や2回目と比較にならないほど大きな爆発が起こる。目も眩むほどの閃光と、空気を引き裂く爆裂音。
明らかに緊急事態なのは分かるが何をするかが頭のどこかに引っ掛かっている。
プツリ 現実と自分の間を結ぶ何かが、切れた。
周りがスローモーションに見える。瓦礫が空を舞う。空は黒煙で覆われ、火の粉が散る。爆音も静寂になる。ああよく映画で見るシーンだ。そんな思考が頭をよぎる。
しかし、そんな時間も長くは続かない。
自助 突如頭に浮かんできたその言葉は全身の筋肉を奮い立たせた。そして、遅れた時間を取り戻すかの様に爆音と熱風は押し寄せくる。歯をくいしばり、頭から突っ込む様に路地裏に飛び込む。自分の中にある反射神経を全部使い果たしてしまったみたいだ。まもなく頭を抱えた腕がザラリとしたアスファルトを感じた。
安心するまもなく、後ろを爆風が通り過ぎたのを確認して、ズキズキと痛む頭を持ち上げると安部君がスマホを取り出しているのが煙に中に垣間見えた。なんとか手探りでヒンヤリとした拳銃を握ると自分の立場に対する責任感がどっと溢れだした。もうもうとした暑さの中、悲鳴が飛び交う通りを覗くと恐怖と焦りの混じった不安が僕を叫ばした。紅のツルリとした鱗をもち、蛙に翼と尻尾付けた様な見た目で、目はくりっとしたテニスボールぐらいで愛くるしい。
「ミモ!ミモドラゴンを確認!」後ろで安部君がスマホを取り落とすのを感じた。取り落とすというより邪魔だったのだろう。弾を取り外し、黄色い液体の入った弾をこめた鳶色で細身の拳銃を構えた安部君が滑り込んできた。
鷲の様な目付きでミモに狙いを定め・・・・・・
軽い発砲音の後、地面に墜ちたのはミモではなかった。
あっと言う間の事だった。 ドサリ スーツ姿の安部君が、砂埃を巻き上げて地面〃に倒れた。
「安部君 安部君」 反応はない。整った顔がすすで汚れ、肩がべっとりとしている。
撃たれた。そう思った時にはもう遅かった。黒煙の向こう側でバイクが走りさるのが見えた。
悔しさと怒りの対象物は4回目の攻撃を始めようと、頬を膨らませている最中に無慈悲で正確な麻痺銃に撃ち墜とされた。
急展開でごめんなさい