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Hypersomnia〜幻想と現実の旅人〜  作者: 七瀬渚
★アパレル世界★
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九つ夢


ーー瞼を抜けて眼球まで、突き刺さるような明るさがあった。目を開けられないまま、私は思い出す。



そうだ、向かうべき場所があるんだ。ここに集まったみんなの気持ちも一つ。



魔法よ、祈りよ、連れて行って。力を貸して下さい、神様。




私たちを、光がちらつくあの空へ……!





瞼の裏の赤みを映し出すたまらない眩さはやがて鎮まった。ふわり、と彷徨う重量の感じられない足元。両手を握り合っている確かな感触。



そっと目を開けた私を迎えたのは今にも覆い被さりそうな一面の暗雲。そしてその先に…




レオ!!


サキ!!




思いを一つにしたみんなと手を取り合ったまま私は叫んだ。力いっぱい。




ーー邪魔をするな、アサギーー



ーーそうだ、コイツと決着を付けねば…ーー




暗雲の見下ろす宙でただお互いだけを睨み続けているレオとサキ。一体どれ程の接戦が繰り広げられたのか、両者共に薄汚れている。青白い肌には痛々しい擦り傷、せっかくあげた服までボロボロにしやがってコイツら…




いいから落ち着いて、こっちを見て!!




私は呆れつつも更に叫ぶ。ようやく二人のヴァンパイアの顔がこちらへ向いた。浮かぶ姿までシンメトリーのような二人が見事なまでに同じ表情を作り出す。それから叫ぶ。もちろんシンクロして。




ーー姫…っ!!ーー




ずっとずっと探し求めていた想い人を前に呆然と固まっているWダブルヴァンパイア。さっきまでの勢いはどうしたというくらいに戸惑っている様子のそいつらに言ってやる。




決着を付けたいなら好きにしな。気が済むまでやればいいさ。


だけど約束して!命は奪わないって。ルナをこれ以上悲しませないって。



戦いが終わったら仲直りして!



どっちが勝っても恨みっこなしだよ!




一通りの説得を聞き終えてぐっ、と詰まった様子のレオとサキ。強く拳を握り締めている二人は何か言い返してくるかも知れない。きっと長年の因縁が詰まった戦い、簡単には引かないかも知れない。だけど諦めない。何度でも言い続けてやる。


これ以上の争いを起こさない為、それから…




ーー…いいだろうーー




思いのほか、素直な返答が帰ってきた。レオの方から。




ーー恨み言など口にしては男が廃るというもの…ーー


ーー最も、負ける気なんてないけどねーー




かつてより野性的な目をしたサキも頷いて同意を示す。私は次に提案する。自らの行動を持って。




全神経を一ヶ所に寄せ集めるようにして念じると、やがて揺らぎ出した景色。そして水彩絵の具を溶かしたみたいに混じり出した色たちが次の景色へと移り変わらせていく。




ーー地平線さえ遠い、広大な芝生の地。



ここを選んだのは気圧の低さからの解放。虚弱なサキの負担を軽減してなるべくフェアな戦いをさせてやる為。そして、十分に距離をとった場所から“彼女”にしかと見届けさせてやる為。



モモ、シン、マミ、ルナ、それから私。再開の気配を全身に感じながら揃って同じ方を見つめる。



もはや冬の訪れとでもいうような木枯らしが吹き付ける中、間隔を取っていた二人が、真っ正面から、駆け出した。



ーーレオ!サキさんっ!ーー



整った顔を悲壮に歪め自らも向かおうとするルナを片腕で制止した。行かせて、とでも言うように潤んだ目で訴えてくる彼女に私もまた目で訴えた。



わかる、わかるよ。でも見てやって。


貴女を心から想っている不器用な男たちの見苦しい戦いを、最後まで。




レオの放つ炎の波。


サキの放つ氷のやいば



ぶつかり合って更に煌めく、恐ろしくも見惚れる程に美しい光景。性格だけでなく能力まで真逆なのか、コイツらは…などと固唾を飲みつつ何処か冷静に分析してしまう。


しかもどういう訳かサキが意外と強い。突風に薙ぎ倒されて私まで薙ぎ倒したのが嘘だったみたいに容赦もなく圧倒していく。


何してんだ、レオ。アンタも負けてられないんだろ?見栄っ張りなナルシストらしくもっと強気に攻めていけよ。


だけどサキ。アンタだって姫に勇姿を見せ付けるチャンスだ。その勢いを失うなよ?



どっちも頑張れ、どっちもファイト!決して好きな響きではないが今の私の心境はまさにそれだ。何だかんだと愛着のある二人、どっちか片方だなんて私には無理だよ。


そしてきっと…


私はちらりと視線を送る。両手を前で組む祈りのポーズで立ち尽くしている彼女へ。




やめて、喧嘩しないで、私の為に争わないで…いつか何処かで耳にしたフレーズが切ないメロディに乗って浮かんでくる。そして重ね合わせてしまうんだ。ごく自然に、自身の思いと。




わかる、わかるよ、今なら。


自分に向けられる真っ直ぐな想いをどうしていいものかわからないんだ。


恋だってまるでコントのような情けない失敗によって終わったあの一度きり。ずっとずっと知らなかった。知らないと思っていたのに、気が付いたらいつの間にか…



まさか私がなんて。女の自覚さえ乏しい私がこんなの可笑しいよね、って、恐らくは限りなく近い思いでいる彼女の細い手を握りながら、思ってた。



本当に、本当に、可笑しいって。



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