四つ夢
ガクッと足元が抜ける感覚と同時にガタッという音が立った。両の衝撃で目が覚めた。
慌てて辺りを見渡す。探してしまった。ついさっきまで大切に腕に抱えていたその姿を。
はっきりと輪郭を濃くしていく覚えのある光景。やがて気付いた。そうだ、こっちに居るはずがない。そう思って改めて見下ろした。
まだ虚ろとしている私の目に映ったのは、床に散らばった教科書と筆記用具、広げたままの真っ白なノートに広がった…涎
きったね…!
明らかに自分自身のものであるそれを見ながら自分でぼやいた。何処からかクスクスと含み笑いが聞こえた。毎度のことだとため息を落として重い腰を上げた。
落ちた教科書とバラバラの筆記用具を掻き集め、ふやけたノートをしぶしぶティッシュで押さえる。あれ…?その途中で気が付いた。更にうざったく大きさを増した笑い声。そちらを鋭く睨む。
「私のは?」
そう、もう終わってしまった理科の授業が始まったばかりの頃、この机には確かに置かれていたはずなのだ。前列から回されてきたプリントが。
えー、と不自然に上ずった声がこちらに返る。知らないよ?とまた別の声が言う。不快な笑い声を連れながら一方的に教室の外へと遠ざかっていく。
だって、ねぇ?
寝てるんだもん。
余裕ってことじゃんねぇ?
会話に夢中になるあまりなのか、そういう仕様なのか、はたまた集団の元で気が大きくなっているのか、例によって丸聞こえ。
ーーはっ倒すぞ、てめぇら。
誰もいなくなった教室で、私は一人椅子を蹴った。そのままの勢いで集めた教科書やらノートやら目に付く何から何までもを鞄にぶち込んだ。
私の記憶が正しければこの次は体育の授業。だけどもう知らん!そう胸の内で吐き捨てて体操着の入った袋まで鞄に投げ入れる。パンパンに膨らんだ重い塊を肩に引っ掛けて教室を出た。
「おい、瀬長!」
足早に進む廊下の途中で誰かが呼んだ。振り向かなくてもわかる、またアイツか、と。
またサボる気か!と罵ってくるそいつの声にうんざりしながら背中越しに返した。
「貧血で早退します!担任に伝えといて下さい、田辺先生」
「馬鹿か!そんだけしっかりと歩いとるじゃないか!」
うるさい、何も出来ないヘタレのクセに。けっ、と短い息を吐き捨てながら振り返りもせずに廊下を曲がった。そこから猛ダッシュした。
しつこく追いかけてくる田辺の罵声と気配はやがて遠のいた。所詮は体力と年齢の差、楽勝だった。