三つ夢
ーーやがて開けた視界。香る草木の青臭い匂い。木々が所狭しと埋め尽くす森の中に私はいた。
遥か上空から炎の吹くような音が聞こえる。見上げると高い木の葉の隙間から花火みたいにちらちら光る何かが見える。
あの空中戦が行われているのか…頼むからこちらには落ちてくるな、と意識を張りつめて願う。
そのときかすかな泣き声が流れてきた。すぐ近くからであるらしきその出処を探した。そして見付けた。うずくまる二つの影を。
近付いていくとはっきり浮かび上がった、あまりの色鮮やかさに目を見張った。そこに居たのは細く小さな親子と見られる姿。二人とも肌は雪のように白く、耳は鋭利で長い。半透明の青の髪が冷たく艶めいている。
妖精…?
そう思いながら恐る恐る近付いた。泣きじゃくる小さな男の子を抱きかかえた母親の方が気付いて顔を上げた。
吸い込まれそうな瞳がこちらを真っ直ぐ見つめる。私は呼吸を止めて見つめ返す。怯えたような顔でありながら何処か強い意志を感じさせる、彼女の小さな唇が戦慄きつつ動いた。
ーー居場所がないの。もう、何処にもーー
ーーこの森もいずれ浸食されてしまう…ーー
訳もわからなかったはず。なのに私はごく自然に彼女へ言う。
私もだよ。
何処に行けばいいのかわからない。
何処かにあるのかな?
ありのまま、安心して暮らせる場所が。
見上げる母親の青の目が見開かれた。何か希望を見出したみたいに光を帯びていく。だけどそれは溢れるものに潤されてことだとすぐに気付いた。胸がぎゅっと締め付けられる程、切なく細い声で彼女は言う。
ーーあなたは、見つけられるーー
ーーもう扉は開きかけているーー
ーーだけど私は…もう、駄目ーー
そう言って痩せ細った腕をこちらに伸ばす。その先に未だ泣き続けている男の子を乗せて。
ーーこの子を、一緒にーー
恐る恐る、私は腕を伸ばした。受け取ったその子のあまりの軽さに驚いた。慣れない気配に恐怖したのか、けたたましい泣き声が更に激しく騒いだ。
妖精の母親は頷いている。強く。私も頷いて返した。母の元へ戻ろうと身をよじるその子を抑え付けるようにしっかりと抱き締めた。
何処へ向かうべきかもわからないまま走り出した。闇を濃くしながらうねる木々、ついに踏みしめる足元までもが不安定に揺らいだ。
息を飲んだときには、遅かった。
脂汗を滲ませて眼下を見下ろす。そこに地面なるものはもう、なかった。