三つ夢
ーー久しぶりにあの庭園にやってきた。この頃の春の淡い色合いに見慣れていた目に鮮やかな薔薇の色、特にクリムゾンは虹彩の奥深くに刺さるような感覚を覚えてしまう。
すぐにでも疲れてしまいそうな目を天へ向けた。何処までも広がるスカイブルー。いくつ色の名を覚えてみても好むものというのは大体決まっているのだろうか。青、白、紫、灰、空の色、海の色、寒色…静寂と時に激しささえも合わせ持ったそんな世界がやはり好きなんだ。
ーーアサギか?ーー
声だけでわかった。だいぶ久しい再会のはずなのに。
そうだコイツも見た目だけ、ならねぇ…と思いつつ振り返った。そしてもう期待しないことに決めていた。美しい光景の中に佇む整った姿を前にしてなお、甘いムードが漂ったことなどただの一度もないのだから、と。
…アンタはほんっと変わらないね。
ーー羨ましいか?ーー
皮肉を込めて言ってやってるというのに察しもせずに、尖った顎をツン、と上げて鼻につくドヤ顔で見下ろしてきやがる。やっぱり憎たらしい。だけど私は負けじと言い返してやる。
おあいにくさま。
私だって今じゃあ花盛りなんでね。
ほぉ、と小癪なナルシストが呟く。そしてまたいつかのように私の立ち姿をてっぺんから爪先までしげしげと眺めている。ふっ、と鼻で笑う音まで漏らしながら。
相変わらず平野?それはもういいっての。そんなの成長期を過ぎた辺りからしぶしぶと受け入れてるし、背くらいなら多少は伸びた。顔だって化粧すりゃあそこそこ年相応に見せらせる。ほっとけと言いたい。
一年半程の時を経てなおいけすかない奴ではあるが実は…再会を望んでもいた。
伝えたいことがあったんだ。ずっと言えなかったこと。
ねぇ、レオ…
私は口を開いた。ん、と呟いて動きを止めた彼を見上げて拳を握った。覚悟を決めた。
ーー姫を助けるって話…だけどさ…
こんなナルシスト野郎でも想う人がいるんだ。きっと相手の方も…と何故だかわかる気がする。コイツが何処まで知っているかは定かでないけれど、もっと早く言わなきゃいけなかったんだ、と今更ながら自責の念が苦く込み上げてきてしまう。
真顔に戻ったレオは黙ってこちらを見下ろしている。言うべきことなら明白なのに喉元で詰まってしまう。
だけど勇気を振り絞って言おうとしていた。
言おうとしていたのに…
ゴオッ、と唸る音を立てて私と彼の間で旋風が起こった。いつかの海辺、虚弱系のサキに押し倒されたときと同じような凄まじい勢いへと変わっていく。巻き上げられた無数の薔薇の花弁がすぐ目の前に居るはずの彼の姿を隠してしまう。
レオ…!!
待って、まだ話は…!
私は叫んでいた。夢中だった。
目が覚めそうに鮮やかなクリムゾン一色を前にして何故だか意識が遠く霞んでいった。




