一つ夢
ーー薄墨色を奥に含んだ面を埋め尽くす薄ピンク…いや、撫子色はよくよく目を凝らすと細かな鱗のような群れであることがわかる。そして密かながらゆっくりと、確かに流動している。
きっと遥か彼方へ春の欠片たちを連れていく川の両側を囲んでいる満開の花はおそらく私の知るもの。桜という名でありながら確かな薄紅梅を誇っている。流れゆく欠片たちと同じものでありながらこうも色合いが異なるのは、束になっているものと群れをなしていながらも一つ一つ独立したものとの違いの為なのか。
乳白色にけぶる遠くには高く天へ刺すような時計台が見える。針の示す時は…いい具亜にけぶりがかかってよく見えない。見下ろす藍白の空と射し込む陽が織り成すプリズム。
私は高くから見下ろしている。朝露をしっとりと含んだレンガ造りの架け橋の上から。
そういえばあっちの世界にも近いものがあることを思い出した。都会へのアクセスが簡単だと聞いていたあの街の中心からやや離れた場所にあった橋。川ではなく沼が近いというその道のりを老若男女多くの人々が談笑と共に歩いていた。
ではこの川は一体何処から来たのだろうか?と考えてみた。すぐに心当たりが浮かんだ。きっとあれだ、と。
確かついさっきまであっちの世界でその場所を目指していたはず。疲れた身体を預けながらそれでも期待に胸を膨らませていたんだ、と思い返しながら胸元へ手を添えた。
さらり、とすり抜ける軽い感触。真っ直ぐな腕、真っ直ぐな脚、真っ直ぐな…
うん、補足しておこう。あくまで比喩に過ぎないと。




