第八話:仮入部〜前編〜
前回のあらすじ
美穂の母、幸恵の特性ケーキを食べに行った仁。仁は幸恵の口から美穂の亡き父、俊一とのエピソードを聞く。俊一の仏壇の写真には担任の平賀の姿もあった。
高校生の恋と青春を描いた青春ラブストーリー。
俺はいつものように学校へ登校していた。美穂は相変わらず朝練とやらに朝早くから行っている。なので俺はいつも一人で学校へ向かっている。まだ学校が始まって1週間くらいしか経っていないのに、あいつはもう弓道部に入部した気でいる。それにしても俺はどうしたものか。昨日は幸恵さんに、「わかりません」とは言ったものの、アメフトに興味を持っているのは事実だ。それに俺を悩ませる当の本人は、早々の入部する部活を決めている。頭が痛い。
坂を下っていると後ろから声がした。
「おっはよ〜橘君」
そういって俺の肩を叩き横に並ぶのは、クラスメイトの宇野あゆみだ。初日の自己紹介で俺を見たと言っていた子だ。
「ああ、おはよ」
俺は欠伸をしながら挨拶をした。
「ねね、今日から仮入部だけど、やっぱり野球部に入るの?」
宇野は俺の腕を掴んでそう聞いてきた。
「ちょ、離せよ。野球部には入んねぇよ。他の部活にすっから」
宇野は俺が腕を振りほどくと頬を膨らませて怒った。
「どうしてよ!橘君野球上手いじゃん。勿体ないって」
そりゃ、他の部活に入るより野球を続けた方がいいとは思う。何せ小学4年生から5年間やってきたわけだ。そこら辺の素人には負けない自信もある。しかし、俺は高校では野球はしないって決めたわけだ。今更変えるつもりはない。
「どうしても!俺は高校ではやらねぇって決めたんだよ。それに軟式と硬式じゃわけが違う」
俺はきっぱり宇野に言った。宇野は「も〜!」って怒って走って行ってしまった。いったい何を怒ってるのだろうか。なんで俺が野球をしないことで宇野が怒るのだろう。俺は疑問を感じながらも学校へ向かった。
学校へ着き教室に入ると、西城と長瀬、そして白石のいつものメンバーが固まって話していた。俺もそこに加わった。話題は土曜の試合の話だった。後になって知った事なのだが、あれは大会ではなく練習試合だったらしい。たかが練習試合であの盛り上がりは、さすが名門といったところだろうか。
そうこうしているうちに先生が来て朝礼が始まった。さっきも宇野が言っていたが、今日は仮入部の日だ。1年は全員何かしらの部活にいかなければならない。先生は一通りの説明をすると、仮入部の紙を配った。前から配って来た紙を俺は後ろに回し終えるとその紙を見た。さまざまな部活がある。サッカー・バスケ・バレーボール・弓道。野球部の文字も見える。その欄の一番下に、[アメフト部]という文字も見つけた。所詮仮入部だ。どれでもいいと、適当に迷っていたのだが横から強い視線を感じた。西城だ。アメフトを選べとばかりに俺を見つめている。俺は仕方なくアメフトの欄に丸として紙を前へと持っていった。先生はそれを全部回収して数を確認して封筒にいれた。
俺はチャイムの音と同時に目が覚めた。気持ちい浜風が窓から吹いている。どうやら寝ていたらしい。なぜ窓側かというと、一時間目の英語の時間に平賀先生がめんどくさそうに席替えをしたからだ。本人はしたくなかったようだが、クラスの女子に頼まれたのだろう。俺は運良く窓側の一番後ろの席をGETした。俺はこの気持ちい席で、日向ぼっこをしながら寝ていたというわけだ。起きるやいなや、学級委員長の高瀬に怒鳴られた。金曜日に決めたクラス委員で高瀬は学級委員長に立候補したのだ。男の方は白石だ。まぁどちらも無難な感じだ。
俺は怒る高瀬を必死になだめた。運良く終礼をしに先生が来たので助かった。先生は今日の仮入部の説明をもう一度めんどくそうに説明して、今日の授業は終わった。
俺は本当は少し変わった夢をみていた。俺がアメフトに入ることを美穂に伝えた夢だった。美穂は怒ることもなく、「頑張ってね」と一言笑顔で言っただけだった。その笑顔は、何か、美穂の本当の笑顔ではないような気がした。
どうしたものか。まぁどうせ仮入部。本当に入部するわけじゃない。
俺は西城たちと一緒にアメフト部の説明がある教室へと向かった。