第七話:誇り
前回のあらすじ
仁は西城たちに連れられアメフトの試合を見に来ていた。白熱する試合、そして明星の二人のエースのプレイを目の当たりにして感動を覚える。
高校生の恋と青春を描いた青春ラブストーリー。
一日明けた今日もまだ俺は昨日の余韻に浸っていた。なにせ本当にすごい試合だったからだ。白熱する試合。野球とはまた違う感じの迫力に俺は感動を覚えていた。
今日はお隣の美穂の母、幸恵さんが、美味しいケーキを焼いたから食べに来ないかと誘われた。俺は快くご馳走になることにした。
幸恵さんの家に着くと、幸恵さんは、「どうぞ上がってくださいな」と笑顔で出迎えてくれた。靴を脱ぎ、俺はお邪魔した。
俺は美穂がいないことに気付き、幸恵さんに聞いてみた。
「あの、美穂はどっか出かけてるんスか?」
幸恵さんはクスッと笑い、
「ごめんね仁君。あの子今日は高校の弓道の練習に参加しにしってるのよ。お相手がこんな年増のおばちゃんで悪いわね」
そういってスリッパを出してくれた。年増のおばさんだなんてとんでもない。正直まだ30代前半だと言っても通じるくらいの綺麗な人だ。こんな綺麗な人とお茶できるなんてこの先一生ないかもしれない。
幸恵さんは俺を居間に案内してくれた。木造建築の割には、現代っぽい居間だ。早く座って幸恵さん特性ケーキを食べたいところだが、その前にやりたい事があったので幸恵さんにそのことを尋ねた。
「あの、美穂の親父さんに挨拶したいんスけど・・」
幸恵さんは少し驚いた顔をしたが、軽く微笑んで、
「そしてくれるとあの人も喜ぶわ」
と俺を仏壇へ連れて行ってくれた。
俺の目の前には立派な仏壇があった。横には美穂の親父さんの写真が置いてあった。結構な男前さんだ。なるほどこの二人から産まれれば、美穂のような美人が産まれるのだろう。俺はそう心の中で納得した。
俺は手を合わせた。何を思うわけでなく、無心で合掌していた。
俺の挨拶が終わると、いよいよ幸恵さんの特性ケーキだ。冷蔵庫の中から幸恵さんはチーズケーキを出した。黄色くふんわりしたチーズケーキだ。見るからに美味しそうなのがわかる。
幸恵さんは俺の分と自分の分、そして美穂の親父さん、俊一さんの分を切ってそれぞれ皿にのせ、仏壇へ向かいケーキを置いて帰ってきた。
「さぁ、食べて食べて」
幸恵さんは俺にケーキを勧めた。俺もそれに答え、「いただきます」と一言いい口にチーズケーキを入れた。
濃厚な甘みと程よい酸味。そしてフワッフワの食感。まさに絶品中の絶品だ。おいしそうに食べる俺を見ながら幸恵さんはニコニコ笑顔である。
ケーキを食べている俺に、幸恵さんはしゃべりかけてきた。
「仁君、昨日アメフトの試合見に行ったんだって?」
俺の手が一瞬止まった。チラリと幸恵さんの方を見てみると、幸恵さんは笑顔だった。
「どう?面白かったでしょ?」
そう聞かれて、俺はどう言葉を変えそうか迷っていた。しかし俺は、正直に自分の気持ちを言うべきだと、幸恵さんに本当の気持ちを伝えた。
「正直、めちゃくちゃ面白かったです。迫力といい何から何まで、今まで体感したことのないような興奮を覚えたくらいですし」
俺はいろいろ話した。広工のこと、明星のこと。そしてその明星のエース二人のこと。そして何より俺がアメフトに興味を持っていること。どれくらい話しただろうか。自分の親でもない幸恵さんに、まるで子供のように昨日感じたすべてを幸恵さんに話した。
幸恵さんはそれをまるで母親のように聞いてくれた。そして全部聞き終わった後に、「あの人みたいね」と小さく微笑んだ。
あの人。おそらく俊一さんのことだろうか。俺は少し不思議そうな顔をした。
「あの人と出会ったのはね、碧山高校だったの。一つ上の先輩で、友達の紹介で知り合ったの。あの人も仁君と一緒で、高校になると同時にこっちに来て、私は知り合うまで全然あの人のこと知らなかった。
私はね、あまりあの人の事は興味なかったの。向こうが私に気があるらしいからって紹介されただけだったしね。
そうして何ヶ月か経って、二人でデートに行ったの。デートって言っても碧山町のちょっとした浜辺だったけどね。
デートだっていうのにあの人ずっとアメフトの話ばかり。まるで無邪気な子供みたいにずっと私に話してくれるの。今の仁君みたいにね。それを私は聞くだけ。でもそのときのね、あの人の純粋な目に、私は惹かれたの。
そうして私たちは付き合うことになったの。そうして何ヶ月も経って、あの人は3年生最後の大会の迎えてた。私は勿論応援しに行ったわ。そうしてあの人たちは全国大会の決勝、クリスマスボウルまで言ったのよ。
そしてその決勝の前夜に、あの人はまだ私は高校2年なのにプロポーズして来たのよ?この大会で勝って、全国制覇したら僕と結婚してくれってね。私は勿論そのプロポーズを受けたわ。でも私が卒業してからねって言ったけどね。
そしてあの人は見事優勝したわ。そしてあの人は卒業してプロに入った。私はそのままこの家の農業を継いで、あの人と結婚して、そして美穂が生まれたのよ」
俺は少し照れくさい気持ちになった。なぜだかはわからないが、話している幸恵さんの顔が少し誇らしげな感じだったからだろうか。おそらく幸恵さんは俊一さんのことを誇りに思っているのだろうと思った。
俺はケーキを食べ終わり洗物を手伝った。その時幸恵さんに、「俊一さんは素敵な人だったんですね」と言うと、幸恵さんは、「アメフトアメフトうるさかったけどね」と笑い返してくれた。
俺は幸恵さんに頼まれて、仏壇の花の水を替えに仏壇へ向かった。仏壇の前にはいろいろな写真が飾ってあった。その中に裏向けの写真が置いてあった。裏には鉛筆で「碧山高校アメフト部」という文字が書いてあった。俺はその写真を手に取り見てみた。幸恵さんが言ってたクリスマスボウルで全国制覇したときの写真だろう。真ん中には俊一さんと幸恵さんらしき人が写っていた。その横には母さんだろうか?俺はまだ若い母さんを笑いながら見ていた。しかしその母さんと幸恵さんの後ろに見覚えがある人物が写っていた。
俺は我が目を疑った。そこに写ってたのは、担任の平賀先生だった。確か41歳って言ってたようなことを思い出した。俊一さんと同級生だ。まさかあの平賀先生が全国大会で優勝しているなんて思ってもみなかった。確かにアメフト部の顧問には持ってこいだ。
俺はその写真を置き、花の入ったビンを幸恵さんの元へ持っていった。俺はその後、じいちゃんとばぁちゃんの分のケーキを頂き、家へと帰った。どうしてアメフトの試合を見に行ったのを知っているのか幸恵さんに聞いてみた。犯人はばぁちゃんだった。本当に口が軽いというかなんとうか・・・。
幸恵さんに、「部活はアメフト部に入るの?」と聞かれたが、俺は、「まだわかりません」と答えた。
確かに、アメフトに興味あるが、部活に入るかはわからない。それになんだか俺の頭には悲しい顔をした美穂が写っていたからだ。