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第六話:アメフト

前回のあらすじ


無事入学式を迎えることができた仁。美穂と同じクラスにはなれなかったが、白石や他のクラスメイトに出会う。そして担任の平賀に出会う仁。担任の平賀はアメフト部の顧問だった。


高校生の恋と青春を描いた青春ラブストーリー。


 初日を成功させたとあり、毎日は順調に進んでいる。各教科では先生たちの自己紹介がメインの一週間だった。それに身体測定なのども行われた。俺は175センチだった。中学とあまり変わらない。驚いたのは西城だった。185センチ。さすがもとバスケ部なだけのことはある。

 学校生活が始まって初めての土日を迎えるわけだが、俺は駅前にいた。なぜここにいるのかというと話せば長くなる。昨日の放課後に、西城と長瀬に誘われたのだ。どこに行くかは教えられずにただ駅前で待っていてくれとのことだった。

 集合時間の遅れること10分。あいつらが来た。


「よ〜、待たせたな」


西城が長瀬と一緒に来た。


「ごめんね。剛が寝坊しててさ」


そんなことだろうとは思った。長瀬は几帳面だから時間にルーズそうではない。


「つか、俺を何処に連れて行く気だ?」


行き先も聞かずに呼び出されたのだ。聞いて当然だろう。


「まぁ着いてからのお楽しみだっつうの」


西城はそう言って切符売り場に向かった。着いてからのお楽しみって、いったい何のドッキリだか。

 俺は電車に揺られ行き先不明の旅に出発した。初めてアメリカ大陸にたどり着いたパイオニアな気分だ。

 さすがは田舎の電車。2両編成であまり人も乗っていない。内装も昭和の雰囲気をかもし出している。車窓から見える景色は素晴らしいものだった。まさに海の上を走っているようだった。

 電車に揺られること20分、目的地である駅についたらしい。そこは俺の知っている世間一般にいう都会だった。車もバンバン通っている。碧山町とは大違いだ。

 俺たちは駅前のバス停からバスに乗った。いったい何処に連れて行く気だろうか。人々が忙しそうに歩いている。碧山町ではこんな景色見ることなんてない。

 そうこうしてると西城がバスのボタンを押した。次の停車のバス停の名前は「海南総合陸上競技場前」となっていた。陸上競技場?いったい何を見に来たというのだろうか。

 俺はバス賃を払いバスを降りた。目に前には「海南総合陸上競技場」という門が立っていた。競技場の外にも結構な人がいる。何かの大会が開かれているのだろうか。

 俺は周りを見渡しながら、先を行く西城たちの後を追って競技場に入った。


「うへ〜結構入ってるなぁ」


俺もビックリした。それほど大きな競技場ではないが、かなりの人が入っている。しかしそんなことより大きな衝撃が俺の目に飛び込んできた。


「アメフト・・・」


俺は不意に声を漏らした。なにせ俺の見つめる競技場の真ん中では、鎧のような防具を着けた選手が練習をしていたからだ。


「そう、今日はアメフトに試合を見に来たんだよ」


長瀬はそう言って歩き出した。アメフトの試合。俺は少しソワソワしていた。「百聞は一見にしかず」。本で見るよりか生で見たほうがいい。西城たちと歩いていると、聞き覚えのある声がした。

 

「こっちだこっち」


 声の主は白石だった。先に来て席を取っていてくれたらしい。俺は白石に挨拶をして席に座った。


「いい席じゃんよ」


西城が辺りを見ながら言う。


「当たり前だろ。ここなら一番見やすいだろ」


俺は少し驚いた。この3人がまさかアメフトに興味を持っていたなんて。試合を見に来るなんてかなりの興味だ。

 俺は俺たちの後ろにある電光掲示板みたいなを見た。[広稜工業高校―明星学院高校」 という文字が書いてあった。今日はその両校の試合らしい。


「どっちが勝つと思う?」


長瀬が西城に聞いた。


「そりゃ明学だろ。あそこは最強だからな」


しかし白石が突っ込む。


「いや、広工もかなり名門だ。いい勝負になるだろ」


 話を聞く分にはかなりいい勝負になりそうな気がした。正直両校とも名前すらあまり聞かない高校だ。ましてやアメフト部の強さなど俺にわかるはずもない。


「あ、橘君あんまりアメフトとか興味なかった?」


長瀬が申し訳なさそうに聞いてきた。


「いた、ちょっと興味あったし、一度見てみたいと思ってたから感謝するよ」


俺は正直に言った。本当にこいつらには感謝してる。


「やっぱ男ならアメフトだよなぁ」


その、男ならっていうのには疑問を持ったが、俺は一応賛同しておいた。


 会場のザワツキが少し大きくなった。選手が入場したらしい。割れんばかりの歓声が競技場を飲み込んでいる。赤いユニホームの選手が入場してきた。広稜工業高校だ。体格のいい選手が何人もいる。まさに柔道部みたいだ。

 続いて白に黄色のラインの入ったユニホーム、明星学院の選手が入って来た。こちらはそれほど大きな体格ではない。まぁそれでも体格はいいほうだ。


「お、明星の若きエースの一角、雛形だ」


西城は背番号21番の選手を見てそう言った。


「でもすごいよね〜。2年生であの名門明星学院のエースになるなんて。さすが天才ランニングバック(RB)は違うね」


 RB?ポジションの名前だろうか。俺にはその雛形とかいう選手がすごいということくらいしかわからない。


「なぁ長瀬、そのRBってのはなんなんだ?」


俺は長瀬に聞いてみた。


「ああ、ポジションの名前だよ。あ、もしかして橘君ルールと知らない?」


当たり前だ。アメフトに興味を持ったのもついこないだの事だ。


「アメフトっていうのは敵のエンドゾーンにタッチダウンしたら得点っていうルールだ。これはラグビーも一緒だが、違うのはタックルされて地面に倒れると攻撃が毎回セットされてから始まるってことだ。」


丁寧にも白石が説明してくれた。


「試合時間は60分で、30分で前半後半を区切ってる。それをまた15分でクォーターで区切って合計4クォーターある」


バスケの試合と似ているが、60分というのはまた長い。


「さっきも言ったが、タックルされて倒れるとそこでいったいプレーは止まるんだ。攻撃チームには4回プレーをすることができる権利がある。攻撃側はその4回で10ヤード(Y)以上進まなきゃならない。10Y以上のところでタックルされたらまた4回攻撃できる。10Y以下ならまたその攻撃を始めたとこからやり直しになるってわけだ。どうだわかったか?」


実にわかりやすい説明だ。初めての俺でもよくわかる。これも才能ってやつか。


「アメフトは11人でやるスポーツだ。さっきのRBってのはポジション名だ。ポジションは大きく二つ、オフェンスチームとディフェンスチームに分ける。つまり攻撃するときの選手とディフェンスするときの選手ってわけだ。お、もう試合始まってるじゃん」


白石がそういうので、フィールドに目をやると選手が陣形を組んで立っていた。さっき言ってたセット攻撃が始まるらしい。


「見てみろ、この場合明星が攻撃、広工が守備だ。明星の中心にいる中央の5人いるだろ。あれがオフェンシヴライン(OL)だ。いわば壁みたなものだな。真ん中からセンター(C)その両側がガード(G)、そして両サイドがタックル(T)だ。そいでそのまた端がエンド(E)ってポジションだ。ランプレーの時はさっき言ったRBが走るためにブロックに行き、パスプレーの時はパスするまでの壁だな」


ランプレーとかパスプレーがどのようなわのなんかはわからなかったが、大体はわかった気がする。


「そのラインの後ろにいる指示出してるやつがいるだろ?あれがクォーターバック(QB)だ。まぁ司令塔ってとこだ。ロングパス投げたり、RBにパスして走らせたり。まぁ攻撃の中心となるプレーヤーだ。お、やっぱ明星はウイッシュボーンか」


白石が西城に言う。


「まぁな、明星はランチームだ。あのラン攻撃は一級品だろ」


よくわからないがとにかく凄いということだけはわかった。


「見てみろ、陣形が鳥の叉骨に見たいに見えるだろ?だからさ」


言われてみればそう見える。というか当て付けのようにも思えるが。


「そのQBの後ろにいるのがRBだ。パスじゃなくて走って10Y前進、いや明星ならタッチダウンまで行くかな」


白石は微笑んだ。そのとき歓声が沸いた。プレーが始まったらしい。すごい迫力だ。ライン同士がぶつかって押し合ってる。すると一人のRBがボールを貰い走っている。あれがランプレーだろうか。敵を避けながら走ってる。しかし次の瞬間俺は衝撃を受けた。広工の選手がそのRBめがけてタックルしたからだ。当たるってもんじゃない。飛びついて、そのまま両選手とも吹っ飛んだ。実に痛そうだった。


「おしいな。後ちょっとで10Yだったのによ。ちゃんと避けろよあのRB」


西城が悔しがる。あのRBを気遣うばかりか批判している。俺はそのとき、アメフトがどんだけ過酷なスポーツかを知った。あんなタックル普通なのだろう。

 2回目の攻撃が始まった。白石の言った通り、始めの位置かららしい。CがボールをQBへと股の間から渡し、攻撃が始まる。今度は先ほどとは違う、背番号21番のRBにボールを渡した。次の瞬間俺は鳥肌が立った。その21番の選手はあっという間にディフェンスを交わし、タッチダウンをしたのだった。足が速いとかいう次元じゃなかった。会場は狂喜乱舞だった。西城や白石も盛り上がっている。21番の選手も会場に手を振りそれに答える。

 攻撃が終わったかと思ったら敵陣地の3Yくらい手間でまた明星が陣形を組んでいる。攻撃は終わったはずなのだが。


「白石、なんでまた明星の攻撃なんだ?」


俺はその疑問を聞いてみた。


「ああ、ポイント・アフター・タッチダウン(PAT)だよ。攻撃側は一回だけタッチダウン後に攻撃する権利を与えられるんだ。普通はフィールドゴールつってああいう風にキックで後ろのポールの間にいれるんだ」


明星の選手がCの出したボールをQBが地面にセットしてキックして見事ポールの間に決まった。


「今蹴ったのがキッカー(K)。まぁキック専門の選手だな。PATの他にフィールドゴールの時にもでてくるかな」


アメフトにはいろいろなポジションがあるみたいだ。

 明星の選手が自陣で一直線に並んでいる。何をするのだろうか。広工の選手は散らばっている。


「何するんだ?」


俺は白石に尋ねた。


「ああ、フリーキックだよ。あれ?ああ広工のフリーキック見てなかったっけ?」


そういえばこれを見たのは今が初めてだ。見ていなかったのだろう。


「フリーキックってのは前後半の開始時と得点後の試合再開のために行われるキックのこと。普通自陣35ヤード上の地点からボールを蹴るんだ。ボールを敵陣に向けて蹴って、キックオフのプレーが開始する。その後、相手チームがキックしたボールをレシーブ側の選手が捕球して、敵陣に向けボールを持って走る。タックルとかでリターンが終了した時点でキックオフのプレーが終わり、そこからまたセットプレーが始まるんだ」


明星の選手がボールをキックしてプレーが始まった。それを広工の選手がキャッチして敵陣へ走っていく。しかし途中でタックルされてそこからセットプレーが始まった。

 広工の選手が陣形を取っている。先ほどとはまた違う。


「ツーバックか。まぁ普通はこれが基本だからな」


白石が長瀬に言う。


「そうだね。まぁ明星みたいなランチームじゃないからね」


長瀬はフィールドを見つめながら答えた。そのチームによっていろいろ違うらしい。

 QBの後ろには選手が二人、おそらくRBだろう。ラインの両サイドに3人の選手がいる。CがボールをQBに渡すとそのRBとは違うラインの横の選手が前へと走っていきQBがそれにパスを出しあっさり10Y前進してしまった。


「いいパスセンスだな。さすがこちらも名門校だぜ」


西城が褒める。おそらくこれがパスプレーというやつだろう。


「今パスを受け取ったのがワイルドレシーバー(WR)ってポジションだ。パスを受け取るパスプレーの重点的選手だ」


WR。後ろからくるパスをジャンプして適切に捕るのは野球のキャッチとは違いかなりのテクニックだ。

 また広工の一回目の攻撃が始まろうとしてた。先ほどと同じツーバックだ。CがQBへとボールを渡しQBがパスコースを捜している。QBがパスコースを見つけてパスを出したが明星の選手がそれを手に当てて防いだ。


「今のはナイスプレイ。あのコーナーバック(CB)よく見ていたね」


長瀬が拍手を送る。また新しいポジションだ。デフェンスのポジションらしい。


「今、パスをカットしたのがCBだ。主にパスカバーをする選手だな。後、オフェンシヴライン同様、ディフェンスにもディフェンシヴラインってのがいる。通常3人から4人くらいかな。そうそう、後、ラインバッカー(LB)って言って明星のもう一人の・・・」


白石が最後まで言う前に競技場がが沸いた。今までにない歓声だ。


「すげぇ!ブリッツだぜブリッツ!」


西城が興奮している。

 フィールドに目をやると広工の選手が仰向けになって倒れていた。その横には背番号1番の明星の選手が立っていた。


「明星最強のLB、釘宮だ」


白石がそう言った。ブリッツとは何か、いったいどんなプレーがあったのかはわからなかったが、素人の俺でもその釘宮という選手のオーラみたいなものを肌に感じていた。


 結局試合は明星が75対28で圧勝した。一回で6点や9点入ると点数もかさ張るものだ。試合後のインタビューを明星の二人のエースが受けていた。「攻撃のエース、雛形薫ひながたかおる、守備のエース、釘宮亮くぎみやりょう」その名前は俺の頭の中にこびり付いた。

 帰りはアメフトの話題で持ちきりだった。俺たちはそんな話をしながらそれぞれの家に帰った。

 晩御飯を食べているときも、風呂に入っているときも、ベットに入ったときも、まだおれは興奮から覚めなかった。





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