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第五話:入学式


前回のあらすじ


美穂と町の本屋に向かう仁。そこで西城と長瀬の二人に出会う。そして本屋では何やら美穂と親しげに話す男がいた。いつもは見せない美穂の本当の笑顔がその男に向けられている事に苛立ちを覚える仁。


高校生の恋と青春を描いた青春ラブストーリー。

 高校生活。それは青春の場。部活に恋にと、学生生活を大いに楽しむ場である。俺はそんな高校生活を送るべく、今日晴れ晴れしく入学式を迎えるわけである。

 碧山高校。創立60年を超える伝統ある高校である。昔からの地元高校とあって部活動などはそれほど強豪ではない。個人種目で弓道が毎年全国大会へいっているくらいらしい。

 俺は少し緊張していた。なにせ地元高校なだけあって昔からの古友が多い学校だ。正に転校してきたような気分だった。しかし俺はそんな小さいことをあまり気にする男ではなかったので言うほどは緊張はしてなっかった。学校までの道のりで、美穂の母、幸恵さんが、「仁君、全然緊張してるように見えないね」と言ったほどだ。

 門の前には学ラン・セーラー服の生徒と、いつもとは違う服装であろう親たちがゾロゾロいた。田舎の学校の割には、門構えといい、かなりの立派な学校に見えた。中学とは大違いだ。

 内心緊張している俺とは裏腹に、美穂はニコニコ笑顔である。天真爛漫というか鈍感というか。

 俺たちは幸恵さんと一緒に体育館の壁に貼ってあるクラス分け表を見に行った。正直、美穂と一緒のクラスなら、かなり楽なのだが。

 俺は1年3組らしい。高校は普通7から8クラスくらいはあるのだろが、この学校は4クラスしかない。これなら美穂と同じクラスになる確率もあると思ったのだが、3組の欄に美穂の名前は無く、変わりに、[西城 剛]と[長瀬 誠]の文字があった。昨日会ったあいつらだ。

 そうは束の間、後ろから声がした。


「おお、お前一緒のクラスか。ヨロシクな橘」

 

 西城だ。俺より10センチは高い位置から俺の肩を抱いている。


「僕も一緒だね。昨日会ったのは運命だったのかな」

 

 えらく軽い運命でである。長瀬はニコニコ笑顔で俺を見ている。正直、少しは面識のあるこいつらと同じクラスなのはせめてもの救いではある。


「なんだ?お前たち知り合いなのか?あまり見ない顔だが」


 誰かがしゃべりかけてきた。かなりの男前だった。真面目そうにも見える。身長は俺より少し高かった。


「お、幸一。お前も3組だな」


 こいつも同じクラスらしい。


「昨日知り合ったんだ。こないだ美穂ちゃんの家の隣に越してきた橘君だよ」


 長瀬が軽く紹介してくれた。


「そうなのか?片山の家の隣か。じゃぁ俺の家とも近いな。俺は、白石幸一。ヨロシクな」


 そういって白石は片手を出して握手を求めてきた。


「ああ、ヨロシク頼む」


 俺はその握手に答えた。見た目よりは大きな手だった。

 俺たちはいろいろと話しながら教室へ向かった。一旦点呼を取ってから入場するらしい。俺たちはそれぞれの席に座り担任を待った。

 しばらくすると教室の扉が開き担任と思われるスーツ姿の男が入ってきた。背の高い少し筋肉質な男だった。頭をボリボリかき、欠伸あくびをしながら教卓に立った。


「え〜、今日からお前たちの担任をすることとになった、平賀健二だ。教科は英語。んまぁよろしく頼むわ」


英語教師に見えないと心の中で突っ込みを入れた。どう見ても体育会系だ。しかしその割にはめんどくさそうな顔をしている。


「詳しい自己紹介は後だ。とりあえずメンドクセー式に向かうぞ」


教室内で笑いが起きた。本人はウケを狙ったわけではなさそうで、本当にめんどくさそうである。教師が入学式をめんどくさがるなんて聞いたことが無い。

 俺たちは平賀先生に連れられ体育館に入場した。そこには既に在校生と保護者、来賓の人、学校関係者が座っていた。結構な数だった。

 俺たちは在校生が両側に座っている通路を歩いて自分たちの椅子へと向かった。途中通路の端っこにいる楓さんを見つけた。楓さんも俺に気づき微笑えんだ。いつ見ても綺麗だ。

 俺が自分の席に着き、教頭の着席の合図で席に座った瞬間後ろから西城が話しかけてきた。


「お前美山先輩と知り合いなのかよ」


少し驚いた口調だった。


「ああ。いつも朝海山神社までランニングしてるからな。それで知り合ったんだよ」


西城はのろけた顔をして、


「美山先輩綺麗だよな〜。あの人彼氏とかいんのかな〜」


まぁあの綺麗な顔立ちだ。ファンがいて当然だろう。俺がしゃべろうとした時、西城が「イタッ」という声を発した。どうやら足を踏まれたらしい。必死に痛みを堪えている西城に隣の女子が怒りつけた。


「アンタ、式中に何しゃべってんのよ。静かにしなさい」


眼鏡をかけた女の子だった。後ろで髪を三つ編みにしている。


「ほら、あなたも前向いて。怒られちゃうわよ」


俺はとっさに前を向いた。初日から怒られるのは御免だ。

 それからは西城も静かだった。校長の長い祝辞も終わり、プログラムは「新入生の言葉」まで進んでいた。


「新入生の言葉。新入生代表、片山美穂」


驚いた。まさか代表が美穂だったとは。それなのによくあんなにニコニコしらてたものだ。美穂は堂々としていた。その時の美穂は少し輝いて見えた。

 美穂の祝辞も無事に終わり、俺たちはまた教室へ戻った。戻る途中、西城はずっと楓さんの話ばかりだった。俺と長瀬と白石は笑いながらそれを聞いてやっていた。

 教室へ着くと平賀先生が教卓へ立った。


「え〜っとまぁ入学式お疲れさん。早く家に帰してやりてぇが、後1時間何かしとかなきゃならん。まぁお前たちと会ったのはこれで初めて。お互い自己紹介でもしとくか。それじゃ、右の端からどうぞ」


平賀先生はそう言って窓側に行きパイプ椅子に座った。

 自己紹介はお決まりだ。入学してすぐ絶対通らなければならない道。これでほとんど第一印象が決まる。

 順々に自己紹介をしていく。俺は自分の自己紹介をどうしようか考えるので必死だった。他の自己紹介なんて聞いている暇なんてなかった。ようやく頭の中で大体のストーリーができたところで先ほど西城の足を踏みつけた子の番だった。


「南中から来ました、高瀬香織たかせかおりです。部活動は陸上をしていました。趣味は料理で、好きな科目は国語です」


拍手が送られる。陸上をやっているともあまり想像がつかない感じだが、人は見かけによらないのだろう。

 そうこうしてる間に俺の番になった。俺は教卓へと上がった。皆、見かけない顔だけあって注目している。


「えっと、佐伯中から来ました、橘仁です」


教室内がざわついた。「佐伯中って言ったら進学校だぜ。」とかいう声もちらほら聞こえた。まぁ仕方ない事だ。俺は続けた。


「部活は野球で、ピッチャーをしてました。好きな科目は英・・・」


俺が最後まで言い終わる前にある女の子が声を出した。


「あ、知ってる」


中ほどに座っている子だった。茶髪で肩までのセミロングだ。


「佐伯中、橘仁。アンダースローのエースピッチャー。全国大会で見た」


思わぬ発言だった。正にその通りだからだ。俺のフォームはアンダースローで間違いない。教室はざわついている。「全国だってよ。」「すげーじゃん。」いろいろな声が飛び交っている。俺は先生に目で助けを求めたが、先生は目をつむったまま静かに座っている。寝ているのか?俺はどうしようもなく強行で続けようと思ったその時、高瀬が怒鳴った。


「人の自己紹介中でしょ。静かに聴きなさいよ」


助かった。こういう事が堂々と言えるのは素晴らしいことだ。俺はその後無事自己紹介を終え、一機ひときわは大きな拍手を貰った。

 全員の自己紹介が終わると座っていた先生は立ち上がり教卓に立った。別に寝ていたわけではなさそうだ。


「え〜んじゃぁ俺の紹介しとくか。今日からお前たちの担任になった、平賀健二だ。歳は41。未だ独身だ。教科は英語。そして・・・」


俺はその後の言葉に驚いた。


「アメフト部の顧問だ」


俺は唖然としていた。不意を突かれた感じだった。アメフト部の顧問が担任。美穂が同じクラスじゃなくて良かったと初めて思った。

 その後、教科書やらプリントやらを配られた後、挨拶をして無事学校初日が終わった。

 カバンに物を詰め込んでいる俺の前に、先ほど俺を見たという女の子が来た。


「さっきはごめんね。私のせいでせっかくの自己紹介が・・」


申し訳なさそうにしている。別にこの子は悪くないし、俺も全然気にしてはいない。むしろそのおかげで拍手喝采で自己紹介を終えれたのだから。


「いや、全然いいよ。つか俺みたいなのを知っていてくれたことはちょっと光栄かな」


彼女は笑顔になり、


「私は北中から来た、宇野あゆみ。ヨロシクね橘君」


とても愛らしい笑顔だった。全国大会で俺を見たということは野球に興味あるんだろうか?詳しいことは聞けなかった。

 俺は美穂と帰ろうとしたのだが、あいつは、「部活見学に行くから先に帰っていいよ。」と足早にどこかに向かった。おそらく弓道部のあの男の下へだろう。

 俺は仕方なく、西城と長瀬、そして家が近所だという白石と一緒に帰った。帰り道では俺の話題で持ちきりだった。野球部での事、佐伯中のことなど、いろいろ話した。白石に、「高校でも野球を続けるのか?」と聞かれたが、俺は、「高校では他の部に入るよ。」と答えた。西城は勿体無いと俺を説得していたが、俺は野球部に入るつもりはなかった。俺の頭の中には「アメフト」という四文字がちらついていた。

 

 

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