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第二話:過去

前回のあらすじ


家族と別れ、祖父母の家に来た仁。祖父母の田舎暮らしと堪能する仁は隣に住む同級生、片山美穂に出会う。その美穂の笑顔に不意を突かれ縁側で突っ立っている仁。


高校生の恋と青春を描いた青春ラブストーリー。

縁側で突っ立ってる俺を見たじいちゃんは不思議そうに俺を正気に戻させた。なぜ突っ立ってたかは今になっては覚えてはいないが、多分不意を突かれたのだろう。あの笑顔は反則気味である。


俺は早々と朝食を済ませて二階上がりジャージに着替えた。部屋の中には涼しい浜風が吹き込んでいる。

そうこうしているとばぁちゃんが俺を呼ぶ声がした。

俺は部屋を後にして下へ降りた。階段を降りるとそこには片山幸恵かたやまさちえさんが立っていた。


「あら、仁君こんにちわ」


ウェーブのかかった茶色い肩までの髪の毛が、風に揺られてなびいている。娘が美人なのがなっとくできる顔立ちの人だ。俺と同じ子供がいるとは思えない。


「あ、どうも。つかばあちゃん何?」


ばあちゃんは頭の手拭を取って幸恵さんの方を見て、


「片山さんが蔵の大掃除をするらしいのでの、男手が必要じゃろうてお前さんを呼んだんじゃよ」


幸恵さんは少し申し訳なさそうな顔をして、


「ごめんなさいね仁君。私はいいって行ったんだけど門倉さんがどうしてもっておっしゃって。お暇だったらお願いしていいかしら?」


こんな綺麗な人に頼まれて断れるわけもなく、それにどうせ暇だったわけだ。家にいても雑誌とかテレビを見てるだけだし、体を動かしとかないと鈍ってしまう。

幸恵さんはニコッと微笑み、


「じゃぁお願いしちゃおうかしら。蔵は家の裏にあるから、用意ができたら来て頂戴ね」


そういって去っていった。

あの笑顔は母親譲りなのだと今気づいた。本当に反則である。

俺はばぁちゃんにマスクを貰い、お隣の片山さんの家の蔵へ向かった。

家の裏には竹やぶが奥までずらっと立っている。そのすぐ近くに大きな蔵があった。蔵の入り口には幸恵さんと美穂が立っていた。

俺に気づいた美穂が手を振りながら、


「仁く〜ん、こっちこっち」


と呼んでいる。俺は少し足早に二人の下へ向かった。

近くにいくと余計に大きく見える。中にいったい何が入っているのだろう。


「さぁ二人とも、大掃除開始」


元気よく手を大きく上に上げる二人。俺も釣られて上げかけてしまい中途半端なあげ方になっていまった。

それを見た美穂は、

「仁君恥ずかしがりやさんだね」と言い蔵の中へ入っていった。

俺も二人を追って蔵の中へ入った。中は薄暗くほこりっぽかった。大掃除をするというわりにはきちんと整理されているように思えた。


「とりあえず、重たい物を外に出してもらっていいかしら?」


幸恵さんはそういって俺を見た。


「あ、はい、わかりました」


俺はそう言って、手当たりしだい外へ物を出していった。

本当にいろいろな物がある。箱に入っているので具体的に何かはわからないが重さや音でいろいろなものだろうと判断はつく。

俺は黙々と物を外に出していった。ある箱を運んでいるときに箱から何かが落ちた。俺は箱を地面に置き落ちたものを拾いに言った。ラグビーボール?紡錘型のボールが転がっていた。俺はそれを手にとってみた。ラグビーボールにしては少し小さいように思えた。


「あ、仁君何遊んでるの」


後ろから少し大きな声がした。美穂だ。


「いや、別に遊んでたんじゃなくてラグビーボールが落ちたから拾ってただけだって。」


俺は必死に反論していた。

すると美穂はこちらに近づいてきて、


「それは、ラグビーボールじゃなくてアメフトのボール」


美穂はそう言ってボールを箱に直して、

「まだ中にいっぱい箱残ってるよ」と言って蔵の中に戻って行った。その時の美穂の顔は、少し普通とは違った顔だった。

アメフト・・。名前くらいしか聞いたことのないスポーツだ。アメリカでは野球より人気があるって聞いた事があったがルールとか全く知らなかった。

しかしなんでこんなボールが蔵にあるんだろうか。アメフトを知らない俺だが、どんなスポーツかぐらいは知っている。鎧みたいな防具を着けてタックルし合うスポーツだ。美穂の家は女だけの一人っ子。どう考えても美穂がアメフトをしてるようには思えない。

そんなことを考えていたら後ろから声がした。


「あの子、まだ引きずっているのかしら」


幸恵さんだった。少し悲しそうな顔をしていた。


「なんか、あったんスか?」


俺は興味本意で聞いてしまった。


「あの子の父、私の夫はアメフトの選手だったの」


初耳だ。美穂の父が10年前に交通事故で亡くなった事は母さんから聞いていた。母さんは幸恵さんと友達らしく、いろいろ聞かされてはいたが、幸恵さんの旦那さんがアメフトの選手だったことは聞いていなかった。


「あの人はね、優秀な選手だったのよ。プロに入って、活躍して、NFLのチームからスカウトが来たの。でもね、アメリカに飛び立とうとした前日に交通事故で」


「あ、すいません変な事聞いてしまって」


興味本意でいらない事を聞いてしまった。反省した俺の顔を見て幸恵さんは、


「いいのよ、もう過去の事だから。多分あの子ももう大丈夫だとは思うんだけどね」


幸恵さんはそういって蔵へ入っていった。

俺は深いため息を漏らし、また黙々と作業に取り掛かった。


俺はそれから作業が終わった後、幸恵さん特性のパイを食べた。俺は片山さんの家を出るときに、

「また今度何かあったらいつでも使ってやってください」

と幸恵さんに行って家に戻った。その時幸恵さんが、

「私は厳しいわよ」と微笑んだ顔は、朝見た幸恵さんの笑顔とは少し違ったように思えた。

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