第十六話:ドレッド頭
前回のあらすじ
急に家に訪ねてきた平賀の口から思いがけない事を聞いた仁。いつもとは違う平賀を見て仁の心は動く。しかしまだ決心がつかない仁。自分を足止めするのは何なのかを考える仁であった。
高校生の恋と青春を描いた青春ラブストーリー。
ゴールデンウィークが明けた。母さんが帰って来たのに会えなかったのは少し残念だ。しかしまた夏休みに帰ってくるだろう。それよりまた学校を長い長い坂道を使って登校しなければならないと思えばぞっとする。
五月に入り、月末には定期考査を控えている。五月の中ごろには、「交流遠足」という行事がある。名目上交流なのだが、地元高なだけあってあまり交流を目的としていない。言わばお楽しみな遠足なわけだ。三組しかないクラスを解体して、クジによって班を決めるというルールらしい。他のやつらは誰となるかのドキドキものだが、高校からこっちに来た俺には知り合いも多くなく、本当の意味でドキドキだ。そして今日がその班の発表の日である。
「誰となってるか楽しみだな」
西城が楽しそうな顔で言う。
「まぁ誰となっても僕たちはあまり変わらないよね」
長瀬が突っ込む。
「俺たちとよりかは、橘の方が楽しみだろ。なんたって知らない奴らばっかだからな」
白石が笑いながら俺に言ってきた。
「ホントそれだぜ。あんま変な奴らと組みたくねぇっつの」
俺は少しネガティブだった。自称人見知りの俺は、こういう行事は苦手な方だった。
「よ〜し、それじゃぁ紙配るぞ。まぁ誰となっても恨みっこ無しだ。恨むなら神様を恨め」
先生が紙を配る。先生とはあれから話しはしていない。アメフト部に入るかどうかはまだ決めかねている。紙が来た。俺は自分の名前を探した。
「16班・・・・。誰とだ?」
俺は同じ班の名前を見た。そこには「河北静香」「高瀬香織」「六條皐」の名前があった。河北と同じか。しかも高瀬まで。俺は少し安心した。知っている女子で良かったと。男子とならまだマシに喋れるだろう。そう思っていた。しかしそれは一瞬のうちに崩れ去った。六條・・・。仮入部の時のドレッド頭だ。あの不貞腐れた奴と一緒の班とはお先真っ暗だ。
「よし、これからその班で分かれて話し合いだ。紙に書かれている教室へ行け。以上解散」
俺は家庭科室だ。
「橘君、あなたと一緒の班ね。家庭科室でしょ?早くいきましょ」
俺は高瀬と共に家庭科室へ向かった。家庭科室へ着くと、すでに河北が座っていた。俺は指定された席についた。六條はまだ来ていない。
「あ、橘君、あの本どうだった・・?」
河北が話しかけてきた。
「ああ、あれな。なんか難しくてよくわからなかったんだけど、言いたい事はなんとなくわかるんだけどな。でもあんな本読んでるなんて河北すげーよな」
俺はそう言った。確かにあんなに難しい本を読んで理解するのは大変な事だ。
「ごめんね・・。次はもう少し読みやすい本にするね」
そう言って河北は微笑んだ。
「そうしてくれると助かるよ」
俺も微笑み返した。すると河北は俯いてしまった。どうしたのだろう? 俺は疑問に思ったが、深く突っ込まないことにした。すると横から高瀬が小声で話しかけてきた。
「あなた、河北さんと仲良いの?あの子が男の子と話してるの見たことないから」
仲が良いのかどうかはわからないが、ようやく最近喋れる様になったとこだ。俺はそう高瀬に言った。すると高瀬は目を細めて、
「橘君はモテモテなのね〜」
そう言い、高瀬は河北と話を始めた。別にモテモテとかそういうのじゃないような気はする。ただ普通に世間話をしているわけだし。
チャイムが鳴り、他の班は話し合いを始めている。しかし六條のやつはまだ来ない。高瀬の怒りも限界に来ている。
「も〜何を考えてるのよ。チャイムが鳴るまでに着席が常識じゃない」
まぁ高瀬の怒りがわからないこともない。すると前の扉の開く音がして、六條が入ってきた。六條は先生に捕まり、いろいろ言われた後こっちに来た。
「すまんすまん。トイレしとったら送れてもうて」
そんな言い訳で高瀬が治まるわけがない。
「すまんで済んだら警察いらないのよ! あなたのせいでみんなに迷惑がかかってるのよ」
古い言い回しだ。警察って・・・。どんだけ大袈裟なんだよ。
「あやまる以外どうしようもないやろ。どないせぇっちゅうーねん。そない怒るとせっかくの綺麗な顔が台無しやで」
高瀬は少し顔を赤らめて、
「な、何言ってるのよ! もういいわ、早く始めましょ」
俺と河北は唖然としてた。うまくやり過ごしたなというのが本音だ。そして何より六條がこういう奴だとは思ってなかったので、不意を突かれた感があった。六條は俺の隣に座り話しかけてきた。
「ガミガミ言う女はあかんちゅうねんなぁ、自分もそう思うやろ?」
それには激しく同感だ。しかし高瀬の視線を感じ、否定した。
「あれ?自分アメフト部の仮入部に来とらんかった?」
ずっと目を閉じていたように思っていたが気付いていたのだろか。
「ああ、いたけど。お前ずっと音楽聴いて目を閉じてなかったか?」
そう言うと六條は笑いながら、
「そうやったけ? 悪いな、俺昔のことすぐ忘れるねん」
昔の事って・・・。つい最近のことだが。六條と話していると、高瀬がまた怒鳴った。
「静かにできないの!? 早く決めないと決まらないでしょ!」
俺たちは話すのを止め、高瀬の話に耳を傾けた。
「今回の遠足は、大阪・奈良・京都から好きな場所を選んでの自由観光。まずはこの三つから行き先を決めないと」
高瀬がそう言うと六條が声を発した。
「そないなの、大阪がええに決まってるやんけ」
決まっているのだろうか? 六條は自信満々に腕を組んで座っている。
「なんであなたが決めるのよ。あなたは大阪がいいのね? 橘君、あなたはどこがいいの?」
奈良と京都は古都ということで名所めぐりがメインだろう。それに比べて大阪は美味しいものが食べれそうだ。
「俺は大阪でいいよ。美味しいものも食えそうだしな」
六條はウンウンと頷いている。
「私も・・・、奈良と京都は観光したことあるから、大阪でいいヵも・・・」
案外あっさりと決まりそうだ。
「そうね、じゃあ大阪に行きましょう。六條くん、あなた大阪に詳しそうね。案内してくれる?」
大阪の方がええに決まってるやろ、と、堂々と言ったからにはいろいろ知っているのだろう。いろいろ六條の話を聞いているとチャイムが鳴った。俺たちはプランを六條に任せることにした。
俺たちはいつもの4人で帰っていた。皆、なかなかいいメンバーだったらしい。西城は楓さんと行きたいなどとぼやいている。
「そういや、お前あのドレッド頭と一緒なんだてな」
白石が話しかけてきた。
「マジか。お前も災難だったな」
西城が哀れんだ目で俺を見る。
「別に悪い奴じゃねぇよ。気さくないいやつだったぜ?」
二人とも驚いた顔をしている。
「人は見かけによらないってことだね。まぁ出会いが悪かったのかな」
長瀬がいいフォローをいれる。
俺たちはそれから別れて俺は家に戻った。
来週には遠足だ。
意外と楽しみにしていたりする。