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第十五話:足止め


 前回のあらすじ


河北から借りた本を読み、幸福の意味の難しさを知った仁。幸福は人それぞれ違うことだというのを再認識した。

そして、秘密基地でアメフトの関西大会の高い壁を聞かされた仁であった。


高校生の恋と青春を描いた青春ラブストーリー。

 俺は近くの公園に向かっていた。なぜ公園に向かっているのかというと、電話があったからだ。俺は朝早くから西城たちと釣りに出かけていた。そこにばあちゃんから電話があったからだ。


「担任の先生がお前さんを尋ねて来ておるでの。みどり公園まで行ってくれんか」


そんなこんなで俺は公園へ向かっている。内心少し緊張はしている。わざわざ家に担任が尋ねてくるなんてよほどの事だろう。しかし何も悪いことをした覚えはない。俺は不安を感じながら公園へ着いた。公園では子どもたちが遊んでいる。すると向こうのベンチに平賀先生が座っている。俺は足早に先生の下に向かった。


「悪いな呼び出してちまって」


先生は申し訳なさそうに言った。どうも悪い知らせじゃないらしい。


「いえ、別に暇だったのでいいんですけど」


俺は先生の横に座った。


「橘とこういう風に面と向かって話すのは初めてだな」


俺は頷いた。なぜ呼び出されたのかわからない不安はまだあった。しかしどうも自分からは聞き出しにくい。


「君のおばあさんは昔も今も変わらないな。元気なお方だ。みっちゃん、いや、お母さんは元気か?」


そう、先生は俺の母さんの高校時代の先輩だ。


「多分、あっちに行ってから会ってないのでわからないですけど、多分元気だと思います」


先生は少し笑みを浮かべた。話が見えて来ないので俺は仕方なく聞くことにした。


「あの、俺に話があるんじゃないんですか?」


先生は俺の方を見て、真剣な顔で、


「お前、アメフトをする気はないか?」


不意を突かれたのかもしれない。俺は少しの間絶句していた。


「急に呼び出して何を言い出すんだと思ったかもしれないが、俺はお前の球を見て鳥肌が立った。お前はアメフトはした事がないのだろ?」


俺は頷いた。


「なら尚更だ。お前の球、俊一の球を見たときよりも印象に残っている」


俊一。美穂の父の名前。先生と共に全国制覇したチームのエースだった人だ。俺は少し驚いていた。俺の球を褒めて貰ったことを。佐藤部長もそうだった。西城たちも。俺の球を見てみんな驚いていた。正直俺にはあんまり実感はなかった。野球の軟式の球ならもっと飛ばせる、そう思っていたからだ。コントロールにも自信あった。俺は別に驚くような事をしているつもりはなかったのだ。


「今のアメフト部の状況はわかってるだろう。人数すら揃っていない。佐藤たちはそれでも真剣に練習をしている。部活というのは自分から望んで入るものだとは思っている。しかしよければお前の力を貸してほしい」


驚く理由はもう一つあった。平賀先生のこういう面を見たのが初めてだったからだ。いつもはめんどくさがりの先生が、今日はいつもとは違う。何があったのかはわからないが、俺の気持ちはアメフトに片寄った。しかし、


「考えさせてください」


これが精一杯の答えだった。正直これほど期待されているのに断る理由などないはずだ。しかし、頭のどこか隅っこのほうで何かが俺を足止めしている。それが何かはわからない。俺を止める何かが、俺の頭には過ぎっていた。


「そうか。休みが明けると本入部の紙を貰うだろう。よければ頼む」


先生はそういって立ち去った。俺は少しの間ベンチに座っていた。何を考えるもなく、ただ無心で俯き座っていた。すると俺の前に人が来た。


「な〜にしてるの」


見上げるとそこには美穂が立っていた。ジャージ姿のいつもの格好の美穂だ。美穂は俺の横に座った。


「今日は河北さんと一緒じゃないんだ〜」


美穂は空を見ながら言った。


「なんで河北と一緒なんだよ。別に関係ないじゃねぇか」


美穂は横目で俺を見た。


「ふ〜ん。ならいいけど」


美穂はそういって欠伸をして体を伸ばした。


「昨日、仁君のお母さんに会ったよ」


俺は驚いた。今日は驚いてばかりだ。母さんと会った? 帰ってきていたのだろうか。


「せっかくお母さんが帰って来てたのにどこか行ってるなんて」


少し後悔はしているが別に大したことはない。またいつでも会える。


「まぁ今度は夏休みだな」


俺はそう言った。美穂はクスッと笑った。


「そうだ、昨日ね、仁君のお母さんと私のお母さんが話してるのを聞いたんだけど、仁君とは昔に会ってるらしいんだって」


初耳だ。そういえばここに来た時に幸恵さんに挨拶に行ったとき、「大きくなったわね」と聞かれた気もする。


「お父さんのお葬式の日にだって。私たちまだ6歳だよ。覚えてるはずないよね」


美穂は笑いながら言った。6歳。別に記憶に無いくらいの歳ではない。しかし俺にも覚えはなかった。


「んなガキのころの事なんて覚えてられねぇよな」


俺も笑って返した。


「そうだよね〜。私も覚えてなかったもん」


美穂がそう言った時、美穂の鼻に雫が落ちてきた。雨だ。俺たちは走って家に向かった。帰る途中に後ろから美穂を眺めていた。俺をアメフトへと行かせない原因はこいつだろうか? 俺はそんな事を思っていた。俺は家に着くと、携帯で西城に電話をした。


 今日は家で寝よう。



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