第十三話:秘密基地〜前編〜
前回のあらすじ
家に美穂と学級委員長である高瀬が来た。突然の来客に戸惑う仁。分かれる際に高瀬に言われた言葉が頭に引っかかる仁。
高校生の青春を描いた感動ラブストーリー。
俺は家の前でリュックサックを持って座っていた。なぜ座っているかと言うと、話は昨日にさかのぼる。
「お、仁。買い物か?」
西城が後ろから話しかけてきた。
「ああ。まったく麓にしか店がないってのはどうかと思うぜ」
俺はばあちゃんに頼まれて切れた醤油を買いにスーパーに来ていた。そこに偶然西城とで出会わせたということだ。
「お前は何してんだよ?」
俺は西城に聞き返した。何やら大層な量のものを買っている。
「明日の買出しだよ。まぁいろいろといんだけど・・・あ、そうだお前、明日から暇か?」
西城が荷物を自転車の籠に乗せて言った。
「ああ、どこもいかねぇし家でのんびりしようかと」
そう言うと西城はニコリと笑い、
「明日から泊まりで出かけるぞ。」
そう言って自転車に跨った。いったい何処にいくのだろうか?
「荷物は・・・そうだな、寝袋とバスタオル、それと着替えなんかも持って来い。金もある程度持ってきとけよ」
寝袋?キャンプにでも行くのだろうか。首をかしげる俺とよそ目に西城はペラペラしゃべる。
「時間は・・・そうだお前家の前で待っとけ。幸一に迎えに行かすからよ。絶対来いよ、じゃぁな」
西城はそう言って、帰っていった。
まぁこんなところだ。また行き先も聞かされずにいる。あいつらと出かけるときは毎回行き先を聞かされない。しかし今回はアメフトの試合を見に行くのではなさそうだが。俺はじいちゃんとばあちゃんに泊り込みで出かけて来ると伝えた。
「お〜い橘。遅れてすまん」
白石が坂の下から歩いてきた。荷物は持ってなく手ぶらだ。俺が白石の様子を見ていると、
「あ、俺の荷物はもう置いてあるからな」
そう言って俺の傍まで来た。
「いったい何処に行くんだ? また目的を聞かされずにお出かけか?」
白石はまた坂を下りだして、
「付いて来たらわかるさ」
と言って、俺に手で付いて来いと指示した。俺は渋々白石の後を歩いた。麓まで降りるのかと思ったら坂途中の脇道に入っていった。本当に何処に行くのだろうか。この先は山、その先は崖だ。
俺は白石に黙々と付いて行った。白石が一方的に喋り、俺がそれに頷くといったパターンだ。俺たちは自然に出来たであろう山道を歩いて行った。本当にキャンプでもしに行くのだろうか?
「もうすぐ着くからな」
白石がそう言って少し小走りに進んでいった。俺は歩いてそれに付いて行く。すると俺くらいの背丈はある林を抜けるとそこには大きな穴があった。下を見ると遠くに地面がある。横にはロープと木で作った梯子があった。
「じゃあ俺が先に下りるから」
白石はそう言って梯子で降りていった。結構な高さはある。おそらく洞窟だろう。
「早く降りて来いよ」
俺は白石に呼ばれ、梯子を降りていった。ギシギシ軋む梯子の音は少し恐怖感を仰ぐ。しかし俺は無事下に着くことができた。
「いったい何処に行くんだよ」
俺は白石にまた同じ事を聞いた。
「もうすぐだから待ってろ」
白石は懐中電灯を点けて歩いていく。洞窟の高さは結構あり、2Mくらいだろうか。俺は辺りを見渡しながら白石の後を付いて行く。すると遠くに明かりが見えた。声も聞こえる。白石は懐中電灯の明かりを消して、明かりの方へと歩いていき、俺もそれに続く。明かりの元に行くとそこには大きな空洞があった。西城と長瀬もいる。眼前には海が見える。波が空洞の中にも入り、真ん中には池もある。池の上にはボートが浮いている。天井は高く、5M近くはある。
「やっと来たか。遅いっつうの」
西城がベットの上から吼える。ベットまである。よく見るといろいろな物が置いてある。まさに秘密基地だ。
「なんだよここ?」
俺は白石に聞いた。
「ここは俺たちの別荘だ。夏休みとか、長い休暇の時はここによく来るんだよ」
別荘・・・。しかしこんな場所をよく見つけたものだ。おそらく波の影響で自然にできたものだろう。空洞の入り口は俺たちが来た山方面からと、池、池と言うよりかは小さな浜辺の上に浮かぶ船で出て行くだけだろう。高さ5Mの入り口の向こうには青い空と青い海が広がっている。
「あ、仁。ここのことは他言無用だからな。誰にも言うんじゃねぇぞ」
西城がベットから降りて俺に言う。
「ああ、わかってるよ。それにしてもいいトコだな」
俺は辺りを見渡しながら言う。
「でしょ? 喜んでもらえて嬉しいよ」
長瀬が笑顔で言う。
「そこが手を洗う場所だ。んで、トイレはねぇからさっき来た道戻って、展望台のトイレを使うこと」
白石が説明してくれる。
それから俺はあいつらの説明を一通り聞いた。そしてまた夕方ここに集合ということで解散となった。一応ここは寝泊りできるとこらしく、それまでは自由行動らしい。俺は西城に買出しを頼まれてスーパーに向かった。途中トイレの場所も確認した。入り口からそう遠くはない。俺は山を降りて、スーパーへと向かった。本当に不便である。ボートで海から行けば近いのだが、それでは人に見つかるということでわざわざ坂でいかなきゃならない。俺が1人で坂を下っていると、前の方に塀の上の猫と睨み合ってる人がいた。何処か見た横顔だ。近づいてみると、そこにいたのは河北だった。いったい何をしているのだろうか。塀の上の猫を見てみると紙を咥えている。俺は横から河北に声をかけた。
「おい・・・何してんだ?」
すると猫は驚いて逃げてしまった。河北は慌てて追いかけようとするが猫は逃げてしまった。河北は肩を落としている。
「わ、悪い。まさか逃げるとは・・・」
河北は俺に気付き、顔の前で手を横に振った。
「だ、大丈夫。また捕まえるから・・」
可愛らしい声だ。以前よりかは顔を見て話せるようになっている。
「何してたんだ?」
俺が聞くと、
「ううん、な、なんでもないです」
河北はそう言って微笑んだ。前髪が邪魔で顔をよく見たことはなかったが、意外と整った、綺麗な顔立ちだ。
「橘君は・・・今からお出かけ?」
河北は近づいてきてそう聞いた。
「いや、今からスーパーに買い物」
俺は少し歩きながら話した。
「私も、買い物に行こうと思ってったの」
河北は俺の横を歩いている。
「なら一緒にいくか?」
河北は俯いたままコクリと頷いた。俺たちは坂を下っていった。それといった会話は無く、ほとんど無言の道のりだ。俺はそれを打破すべく声を発した。
「河北は、何処に住んでるだ?」
俺が聞ける精一杯の事だった。河北は俺の方を見て、
「え〜っと・・お家」
と答えた。俺は一瞬固まってしまった。まさかの答えが返って来たからだ。
「そうだよな〜。家に住んでるに決まってるよな。俺何聞いてんだよ〜」
とっさのフォローだった。何処に住んでるって聞いて、まさかお家って答えが返ってくるとは思わなかった。河北も別にウケを狙ったわけではなさそうだ。
「河北、お前ってもしかして天然か?」
俺は率直に聞いた。すると河北は顔を真っ赤にして首を横に振った。なんというか可愛らしいやつだ。俺は思わず笑ってしまった。河北は笑う俺をポコポコ殴って来る。そうして歩いていると、前から美穂がジャージ姿で走ってきた。
「お〜美穂、またランニングか?元気だなお前」
俺が声を掛けたが、美穂はチラッと俺の方を見て、無視して走っていった。なぜだ無視されたのか俺には全くわからなかった。河北を見ても、河北も首を傾げている。
俺たちはそのままスーパに行き、お互いの買い物をして別れた。俺はずっと美穂がなぜ無視をして帰ったのかを考えていた。別に変なことを言ったわけでもない。気付いていないわけでもない。俺は坂を上って西城たちの下に戻る途中、ずっと考えていた。