第十二話:学級委員長
前回のあらすじ
休みを利用してCDを市内に買いに来た仁。商店街のスポーツショップ沢村で、明星のエース雛形と出会う。そして勝負することとなった二人。結果は雛形の圧勝。しかし最後の攻撃で60Yの投球を見せた仁。それを見た雛形は仁に期待の色をみせる。
高校生の恋と青春を描いた青春ラブストーリー。
俺はいつものように早朝ランニングを済ませ、朝食を食べていた。
「お前さんもよう頑張っとるの。三日坊主にならんでよかったよかった」
じいちゃんが新聞を読みながら、朝食を食べている俺に話しかけてきた。
「あたりまえだろ。俺はやるときゃやるっての」
「そんなことより早よぉ食ってくれんか?もう10時じゃぞ?洗い物が終わらんでのぉ」
ばばちゃんが急かす。ばあちゃんの味噌汁は最高に美味い。俺は綺麗に食べ終わり二階へ上がった。昨日は散々だったが今日は暇な一日になりそうだ。俺はやることもなく勉強机に座って外の景色を眺めていた。昨日買ったCDをコンポに入れて、音楽を聴きながら景色を見た。俺の頭の中には昨日のことが過ぎっていた。見栄張って、「関西地区を制覇しますよ」なんて言って、ボロ負けだ。情けないにもほどがある。しかし、流石は明星のエースだ。俺は関心と屈辱の二つの思いに駆られていた。
俺は机の上にある本に手をやった。
「アメフト入門 これを見れば誰でもアメフトを理解できる本」
この前ようやく本屋に届いたのを取りに行ったのだ。俺は本を開きいろいろ見ていた。目次にはいろいろな項目があった。「RB」、俺ははそのページを開いた。雛形のポジションだ。ページにはRBの説明が載っている。
「足の速さが重視されるのだが、タックルに負けないタフネスも求められている。パワーを活かして突進するタイプや、小回りの良さを活かして相手のタックルをかいくぐるタイプなど、選手ごとの個性が光るポジションである」
そう書かれてあった。まさにそれをお手本としたようなやつだった。足のスピードも速かったが、何よりその体の強さと柔軟な体は凄まじかった。俺のタックルなんて殆んど効いていなかった。俺はまた目次に戻った。「QB」、確か西城が俺に向いていると言ったポジションだ。俺はページを開き説明欄を読んだ。
「攻撃の司令塔。クォーターバックは視野の広さ、戦術眼、判断力等が問われるので、肩は必ずしも強くなくて構わないが戦術の遂行力を考えると肩が強いに越した事はないだろう。ただし、パスを投げられない状況に置かれると自ら走ることもあるので、ある程度の機動力ないしは走力も必要となる」
攻撃の司令塔。チームの柱となるべきポジションだ。視野の広さや決断力。俺には乏しい能力だ。肩の強さなら多少は自信があるのだが、それでも軟式ボールのように遠くまでは飛ばせない。前に試合を見に行った時に白石がいろいろ説明してくれたが、アメフトには個性のあるポジションが多い。今まで野球しかやってきてなかった俺が大丈夫なのだろうか。俺は外を眺めた。すると急に後方から声がした。
「へ〜意外と片付いてるんだね〜」
俺は振り返った。そこには美穂が立っていた。
「な、おい! なんでお前がココにいんだよ!」
俺は慌てて本を隠した。あいつに見られると厄介事になりそうだ。
「門おばぁちゃんが勝手に上がっていいよって。ん?今何隠したのかなぁ〜?」
ばれたか?俺は立ち上がって美穂に言い返した。
「な、なんでもねぇって!」
美穂は怪しそうに俺に顔を近付けて来た。
「ほんとに〜? エッチな本とかじゃなくて〜?」
俺は後ずさりをしながら机から離れた。すると美穂が下にあったCDに足を引っ掛けて倒れ込んできた。俺も美穂に押されてベットに倒れ、美穂はその上にのしかかって来た。
「いってぇ・・・。んたく・・」
俺が目を開けると、美穂の顔が真ん前にあった。美穂の息の音が聞こえる。俺はそのまま固まってしまった。
「ご、ごめん」
美穂は謝るが退こうとしない。すると階段の方から声がした。
「あなた達なにやってるの?」
美穂は急いで俺の上から降り、俺もすぐに起き上がった。階段の方に目をやるとそこにはお盆にお菓子とお茶を乗せて立っている高瀬がいた。
「な、なんで高瀬がここにいるんだよ!」
俺は気が動転していた。
「別にいいじゃない。あたしが居ちゃだめだわけ?」
高瀬はお盆を机に置いて腰に手を当てて俺の方を見て言った。
「片山さんに借りていた参考書を返しに来たのよ。そしたら片山さんがあなたの家に行こうって言い出すから付いて来たの。そしたらあなたのおばあさんにこれを持って行くように言われたのよ」
高瀬はそういって煎餅を食べた。こいつはいつも怒っているイメージがる。今日もそんな感じだ。
「それであなた達何してたのよ?」
高瀬が目を細めて聞く。そういえば今日は眼鏡を掛けていない。コンタクトだろうか?多分眼鏡を掛けてない方が可愛くみえる。
「あ、いや、別に・・・。ただ美穂がこけたのに巻き沿いを喰らっただけで・・・」
高瀬は美穂を見て、美穂はコクリと頷いた。高瀬は、「まぁいいわ」といった顔をして勉強机に座った。美穂も床のクッションに座った。俺はベットに座っている。
「んで、美穂。何の用だよ?」
美穂はクッションを抱えている。
「別に用なんてないよ?ただ仁君の家に行こうって思ったから来ただけ」
美穂は微笑みそう言った。俺は少し照れくさく下を向いた。こいつの笑顔はいつ見ても反則である。
「それより橘君勉強してるの?」
高瀬は勉強机の上にある本を物色して言った。俺は一瞬ドキっとした。そこにはさっき隠したアメフトの本がある。せっかく乗り切ったのにここでバレたら意味がない。しかし高瀬はアメフトの本を見たが何も言わず、
「勉強の本全然ないじゃない。五月の終わりには中間考査もあるのよ?ちゃんと勉強しなきゃ、いくら佐伯中から来ても悪い点数とっちゃうわよ?」
どうにかバレなかった。気づかなかったのか?しかし正に痛恨の一撃である。やはり高校は中学とは違う。勉強のレベルも高くなるし、テストも簡単じゃないだろう。高校入試は中学レベルも問題で、どうにかやり過ごしたが・・・。定期テストはそうもいかないだろう。
「大丈夫。もしわからなかったが私が教えてあげるから」
美穂はそう言って俺にピースをした。大丈夫なのだろうか・・・?あまり頼りにならなそうに見えるのだが。
「剛なんて私がいくら言っても聞きやしないのよ?落ちこぼれていく一方だわ」
高瀬は西城と仲が良い。仲が良いと言うよりかは、いつも高瀬が一方的に叱り、西城は高瀬を一方的にからかう関係だ。
「高瀬は西城と仲良いよな?幼馴染なのか?」
俺は疑問に思っていたことを聞いてみた。すると高瀬が、
「誰が仲良いのよ! あんな奴と仲良いわけないじゃない」
と、強い口調で返答した。
「え〜香織ちゃんと剛君はお似合いのだと思うけどな〜」
美穂が笑いながら言う。
「だ、誰があんな奴とお似合いなのよ!」
高瀬が慌てて否定する。俺と美穂は目を合わせてニヤリと微笑んだ。
「あ、あなた達何笑ってるのよ!」
高瀬は怒って煎餅をパリッと噛んだ。
その後俺達二人は怒る高瀬を宥めつつ、いろいろな話をして盛り上がった。そして時間もちょうどお昼時に差し掛かり二人は家に帰るべく玄関を出た。俺も玄関を出て見送りに言った。外に出てすぐに、幸恵さんが買い物袋を持って坂を上ってきた。美穂はそれを見つけて幸恵さんの買い物袋を持ち、俺達に、「ばいば〜い」と言い、一緒に家に帰って行った。俺と高瀬は幸恵さんに会釈をして二人が家に入るのを見ていた。すると高瀬が、
「橘君、アメフト部に入るの?」
俺は驚いた顔をした。
「机に本があったから」
やはり気付いていたらしい。
「アメフト部に入るのはいいと思うけど、あの子の前でその話はしない方がいいわよ。じゃ、また学校でね」
高瀬はそう言って坂を降りていった。高瀬も美穂の父の事を知っているのだろうか?美穂の父はこの碧山町では有名人だろう。知っていて当然か。
俺は複雑な気持ちだった。一度はアメフトに流れた俺の気持ちは、今の高瀬の一言でまたわからなくなった。正直、俺がアメフトをするのに美穂は関係ない。しかし、俺の心は迷っていた。