第十話:恥ずかしがり屋
前回のあらすじ
仮入部でありえないほどの投球をみせた仁。それを見た部長の佐藤は大はしゃぎ。西城たちからQBに向いていると言われ、考える仁であった。
高校生の恋と青春を描いた青春ラブストーリー。
仮入部期間も終わり、4月も今日で終わる。満開だった桜の木も、少しずつ散り始めている。5月に入るとゴールデンウィークがイベントとしてある。大して予定もない俺には暇で暇で仕方がないのだが、まぁゆっくりできるので良いとしよう。
気持ちの良い風が吹いている。窓際の席を獲得できて良かった。授業も6時間目にもなると満腹感から生まれる睡魔との戦いになってくる。西城なんて横でグースカ寝ている。
クラスの様子はと言うと、平和なクラスだ。何せ委員長があの高瀬だ。自然と纏まりが出てくる。委員会だが、俺はというと図書委員になった。まぁこれは西城と白石のせいなのだが、まぁまだマシな委員の方だ。
窓から外を眺めていると前から声がした。
「今日の放課後の図書会議なんだけど、どこでやるか知ってる?」
宇野あゆみだ。こいつも俺と一緒の図書委員だ。こいつの方は自ら望んで選んだようだ。
「多分図書室じゃねぇの?図書委員だし」
宇野はクスッと笑い、
「そんな単純なわけないでしょ。生物教室よ」
宇野はそういってまた前を向いた。知っているなら聞くな。そう言いたかったが心の中で小さく呟いた。そして俺はまた外を眺めた。
チャイムが鳴り放課後になった。俺は宇野と共に生物教室へ向かった。なぜ図書委員が生物教室で会議を開くのだろうか。俺はその事を疑問に思いながら宇野の後を付いて行った。
生物教室に着いて扉を開けて中に入ると、他の委員の人たちが座っていた。俺たちは教室の後ろ側に座った。まだ先生は来ていないらしい。
宇野が前に座ってる子に話しかけた。
「やっぱり静香も図書委員だったのね」
前の子は振り返りコクンと頷いた。黒髪で前髪を下ろしてあまり顔が見えない。
「あれ?もう一人は来てないの?」
宇野が質問をする。
「・・・用事があるから帰るって・・・」
小さな声であまり聞き取れなかった。物静かな感じの子だ。チラっと目があった。俺は軽く会釈をした。すると下を向いて俯いてしまった。
「あ〜この子極度の恥ずかしがり屋だから簡便してあげて」
まぁ感じを見ているとそういうことだろうとはわかる。まぁでも一応自己紹介はしておこうと俺は話しかけた。
「あ、えっと、3組の橘。ヨロシク」
彼女はずっと俯いたままである。しかし少し顔を上げて、
「・・・えっと・・・河北 静・・・」
河北というらしい。河北はまた俯いたまま前を向いた。先生が来たからだ。宇野が横で笑いながら見ている。
「まぁ恥ずかしがり屋だから」
すぐに終わると思っていたが、意外と長かった。やっと終わって時計を見てみるともう5時だった。帰りに海山神社に寄ろうと思っていたが諦めるしかない。宇野は河北と一緒に終わったらすぐに足早に帰っていった。
俺もそろそろ帰ろうかと下駄箱に行くと美穂がいた。美穂は手を振ってる。
「どうしたんだよ?お前も委員会か?」
俺は靴を履きながら聞いた。
「ううん、私は部活。部活が終わって帰ろうと思ったらあゆみちゃんがいて、仁君が同じ図書委員だって言ってたから待ってたの」
美穂は笑顔でそう言った。
「そっか・・・ありがと」
美穂は「いいよいいよ。」といって微笑み一緒に外へ出た。外は夕焼けで茜色に輝いていた。美穂とこうやって二人で歩くのも久しぶりだ。
「仁君が図書委員なんてなんかイメージじゃないね〜」
その意見には激しく同意だ。何せ嫌々西城達にやらされたようなものだ。
「まぁどうせあんまやることねぇしテキトーにやってりゃ大丈夫だろ」
「あ、ダメなんだ〜。ちゃんとやらなきゃダメだよ〜。あゆみちゃんが困るでしょ」
美穂は頬を膨らませて俺を押した。俺は仕返しに押してやろうとしたが、美穂はそれを避けて走って坂を上り上から、
「べ〜っだ。仁君なんかにつかまりませんよ〜っだ」
美穂は笑顔で舌を出していた。美穂の後ろからは茜色の夕日の光が眩しいくらいに光っている。
「家まで競争だ〜」
美穂は走って坂道を登っていった。俺は後を追って走って坂道を登っていった。
家についた俺はヘトヘトだった。まさか麓の辺りからここまでノンストップで走るとは思わなかった。毎日早朝ランニングをしていても流石にこれはキツかった。俺は風呂に入ってジャージに着替えた。これから海山神社まで走りに行くからだ。なぜかというと今日の朝は寝坊して早朝ランニングに行けなかったからだ。
俺は家を出て走り出した。同じ道を走っていても、朝と夜とでは道の表情も全く違う。俺は夜のランニングコースを楽しみながら海山神社を目指して走った。
海山神社に着いて、長い石畳を走っていくと、売り場の電気がついていた。楓さんだろうか?俺はノックをして中に入った。
「失礼しま〜す」
中には楓さんがいた。そしてもう一人見覚えのある人がいた。前まで垂らした黒髪。そう、今日会った河北だった。
「今日は朝寝坊して行けなかったので夜にランニングですか?」
楓さんはニコリと笑い座布団を出してくれた。
「え?なんでそれを・・・?」
なぜ朝寝坊したことを知っているのだろうか?
「それは私が巫女さんだから・・・」
楓さんは笑顔でそういってお茶を入れてくれた。巫女さんだからわかるっていうには納得できなかったが楓さんの笑顔を見るとそんなことどうでも良くなった。
「二人は知り合いなの?」
楓さんが俺と河北の顔を見て聞いた。河北はコクリと頷き、俺は今日図書委員で出会ったことを話した。
俺はその後も少しの間楓さんと話していた。河北とは会話が無く、俺たちの話をただ聞いていた。話によると、河北は楓さんの所属するオカルト研究会の部員らしい。今日は借りていた本を返すべくここに来たということらしい。
話も大分弾んだのだが、時間も遅くなってきたので今日は解散ということになった。外に出ると辺りは暗くなっていた。
「大分暗くなってきましたね」
楓さんが呟いた。
「静香ちゃん、帰れる?」
楓さんはそう言って石畳の方を見た。そこは薄暗い先の見えない石畳が続いていた。俺と河北も石畳の方を見た。河北は苦笑いだ。
「大丈夫ッスよ。俺が家まで送りますよ」
俺はこういう暗いところは平気な方だ。
「なら、お願いするわね。静香ちゃん、何かあったら橘君に助けてもらってね」
楓さんはそう言って微笑んだ。
俺たちは楓さんに見送られ、暗い石畳を歩いて行った。しかし本当に真っ暗だ。自分の足元がギリギリ見えるくらいで、これは他の意味で少し危ない。河北は恐る恐る俺の横を歩いている。
「そんなにビビらなくて大丈夫だって。お化けなんて出や・・ッ!」
俺がしゃべろうとした時横ででカラスが飛び立った。俺もこれには少し驚いた。しかしすぐ平常を取り戻した。しかし俺の左腕が少し重たい。横に目をやると河北が俺の腕にしがみ付いている。河北は背が低いので本当にしがみ付いた感じだ。怖がっていた河北だったが我に帰って俺の腕から離れた。顔を赤くして声を出さずにペコペコ頭を下げている。
「あ、えっと、いや、別にいいよ、腕ぐらい」
恥ずかしそうな河北を見ているこっちも少し恥ずかしくなった。
「怖いのは仕方ねぇことだし・・」
俺はそういってまた歩き出した。すると河北は俺の腕を掴んできた。よほど怖いらしい。怖くて体温が上昇しているのだろうか河北の体は暖かかった。そうこうしているうちに鳥居まで来た。鳥居までくればあとは民家の光があるので意外と明るい。
俺が、「ここでもういいのか?」と聞くと、河北は、「ここまでで十分」だと俺に気を遣ってか手を顔の前で横に振った。本当に大丈夫だろうか。河北はわかれ際に、近くに来て、「ありがとう」と言って帰っていった。
その後俺はまた走って家まで帰った。
家に着いてから俺は急に恥ずかしくなった。今考えると異性とあんなに密着していたと思うと恥ずかしくて顔が火照った。それを見たじんちゃんが、
「なんじゃ、お前酒でも飲んだんか?」
と聞いてきた。
俺は夜寝るまで火照りっぱなしだった。