魔王様の初恋
「魔王様に捕まって」のレイス視点です
それは偶然の事だった。
普段ならば足を延ばすことのない別校舎に来た時、目が釘付けとなった。
それはふわふわと癖のある髪に、見ている者を癒すような柔らかい笑顔を浮かべた少女。
特に言葉を交わしたわけでもなく。
一瞬の、だだ廊下をすれ違っただけの出逢い。
これがいずれ魔王と呼ばれ、国内のみならず周辺諸国を恐怖に震え上がらせることになる、ガーラント国宰相レイス・カーティスの長い長い片思いの始まりである。
***
「おいレイス、声掛けなくていいのか?」
「……今は忙しいので」
「いつもそればっかりじゃねぇか!
しかも全然忙しそうに見えねぇし」
「だって何を話せばいいんですか!?」
「何でも良いじゃない」
「何でもとはどんな事です!?」
レイスを怒鳴っているのは、同級生で友人のロイクと、同じく友人のリューイ。
レイスは頭も要領も良く、学園での成績は常にトップ。
そして頭だけでなく、家は男爵で見た目も整っていて端から見れば完璧と言っていい。
しかし、性格はひねくれていて、気に食わない人物は合法的に徹底的に潰すを信条にしている少々性格に難ありの人物だった。
ずっと付き合ってる友人は類は友を呼ぶという言葉通り、何故か一癖も二癖もある性格難ありの問題児が多かった。
その友人の中では常識人のロイクとリューイ。
そしてレイスの視線の先には、友人達に囲まれ楽しそうに笑い合っているレイスの片思いの相手、シェリナがいた。
好きな女がいるとロイクが聞いた時は、天変地異の前触れか!っと思うほど驚愕した。
それぐらいロイクに取っては有り得ない出来事で冗談かと思ったが、レイスの様子から本気なのだと伝わった。
しかし、好きだと言うが、レイスは未だにシェリナに一言も喋り掛けた事がなく、ロイクが背中を押してもいつも尻込みするのだ。
現に当のレイスは忙しいと言いつつも本を片手に持っているだけで本は閉じたまま。
その目線はシェリナに向けられていて、とても忙しいとは思えない。
こんなに恋に奥手だとは、長いつき合いのロイクもリューイも初めて知った事実で、普段教師を言い負かすほどの口の上手さや、喧嘩をふっかけてきた同級生に報復する時の積極性はどこにいったのかと頭を抱えたくなった。
「俺達はもうすぐ卒業だから話せる機会は今の内しかないんだぞ。
それに、シェリナは上級生下級生問わず人気があるから、ぐずぐずしてると誰かに取られるぞ、いいのか?」
「…………」
その言葉に反応を示したレイスは、シェリナを見つめ、気合いを入れて立ち上がりシェリナの方に向かって歩き出す。
「おっ、やっと行く気になったか…………っておい!」
しかし途中で立ち止まり、方向転換して戻って来た。
「やはり今度にします………」
あまりの不甲斐なさにロイクとリューイは溜め息を吐いた。
「前途多難ね…」
結局その日も話しかけられず、その次もその次も勇気が出せず、結局一言も話さぬままレイス達は卒業してしまった。
***
卒業後、レイスとリューイは文官、ロイクは軍に勤め始め、最初は覚える事も多く忙しい日々を送っていた。
未だにシェリナを思い続けていたレイスだが、話し掛けられないのは相変わらず。
しかも卒業した為、姿を見る事も出来なくなってしまった。
そこで思い付いたのは仕事の合間にこっそり見に行く事。
シェリナの家はパン屋を営んでおり、シェリナは時折店で手伝いをしているのだ。
レイスはその時間帯を狙って姿を見に行くようになった。
勿論、その時にはロイクを付き合わせて。
客と店員という関係で話しやすくなれたのか、パンを買って挨拶が出来るようになったのは、何も話せなかった学生の時から考えれば進歩だろう。
付き合わされるロイクにはたまったものではないが。
しかし、暫くするとその時間を取る事が出来なくなった。
レイスは冷静沈着で頭と要領も良く、口も達者。
地位が上の手でも物怖じしない図太さに、そして相手の弱い所を的確に突く性格の悪さを遺憾なく発揮して、同期で右に並ぶ者がいないほど次々と実力を示し官位を上げていった。
しかし、実力を認められれば認められるほど、それに嫉妬し不満をぶつける者達が表れてくる。
自らの失敗をレイスになすりつける同期、自らの仕事を押し付ける先輩、提出したはずの書類を無いと言い張りやり直させる上司。
中には危害を加えようとする者までいた。
事あるごとにレイスの足を引っ張ろうとする者達によって、捌いても捌いても仕事は無くならず増える一方。
家に帰る時間も惜しく、仕事場で僅かな睡眠を取る日々。
しかし、レイスは一切文句を言う事はなく書類を書き続けた。
そんな日々が一段落ついたのは、レイスに嫌がらせをしていた者達がしていた事が監査によって公になった事でだった。
レイスが黙って嫌がらせをされたままでいるはずもなく、数年間地道に証拠を集め続けた。
嫌がらせが始まって直ぐにそれを訴えなかったのは、数年に渡り証拠を集め続ける事で常習性を訴え、その時だけだと言い逃れ出来ないようにするためだ。
処罰の判断がされる時もレイスの思惑通り、数年に続けて行われた事が重くみられ、減給や降格、重いものでは退官などの処罰がなされた。
処罰を言い渡され意気消沈している者達を見ながらレイスは寝不足でクマが出来た顔でほくそ笑んだ。
「ふふふふふふっ、喧嘩をふっかけるならば相手を選んでするべきですよ」
そんな上機嫌なレイスをどん底のさらに底まで突き落とす事件があった。
***
「えっ……今なんと………」
「だから、お前の最愛のシェリナが結婚したって言ってるんだよ」
ロイクからもたらされた衝撃の話に、レイスは目の前が真っ暗になり、ふらりと体が揺れた。
「おっ、おい、大丈夫か!?気をしっかり持て」
「………私があんなクズ共の相手をしている間に……まさか……そんな………」
レイスが嫌がらせを受けていた間は、あまりの忙しさにシェリナに会いに店に行く時間も取れずにいた。
しかし、まさかその間にシェリナが結婚するとは思いもしなかったのだ。
何故なら会いに行けない自分に変わり、レイスは友人の一人にシェリナを監視………もとい、時々状況を教えてもらっていた。
その話ではシェリナを望む者は少なからず存在するが、恋人はいないようだという事。
状況報告は一週間ほど前で、その時友人は何も言っていなかった。
レイスはその疑問をロイクにぶつける。
「ロイク、彼女には恋人がいたのですか?
確かヴァンの話ではいないと言っていたはずです」
「……あー……それなんだけどよ……」
「何です?」
「いいか、落ち着けよ。
何があっても冷静になるんだぞ」
「いいから、さっさと話しなさい」
レイスの様子を窺うようにしながら、どこか言いづらそうに話した。
「実はな、どうもこの結婚はシェリナが望んだものじゃないみたいなんだ」
「どういう事です」
「お前アーサー・オブラインって奴覚えてるか?」
「ええ、勿論覚えていますよ。
あの親の力が自分の力だと思っている、無能のくせに自分は偉いと勘違いしている馬鹿男ですね」
アーサー・オブラインはレイスにとって嫌いに分類される人物だった。
正直、アーサーのような男は珍しくない。
貴族の集まる学園ではその辺にいる、関わりが無ければ顔を覚える事もないその他大勢。
しかし、クラスも学年も違う、全く関わりのないアーサーをレイスが学園を卒業して何年経っても覚えていたのは、ひとえにシェリナと関わりが有ったからだ。
アーサーは事あるごとにシェリナに言い寄っていた。
誰の目から見ても明らかに嫌悪され、何度もはっきりと断られているにも関わらず、シェリナの周りをうろちょろとして、その度にレイスは憎々しく思っていたのだ。
「今わざわざあの男の話をするという事は、まさか……」
レイスに嫌な考えが過ぎる。
「そのまさかだ。シェリナと結婚したのはそのアーサー・オブラインだ」
「どういう事です!!彼女はあの男の事を毛嫌いしていたはずですよ!?」
レイスは興奮のあまりロイクの胸倉を掴み締め上げる。
「ちょ…待て、落ち着けって。
………なんでもヴァンの話じゃあの男、店を潰されたくなかったら結婚しろと、シェリナを脅して無理矢理結婚を承諾させやがったらしいんだ」
学生の時から全く成長が見られない、どこまでも自分本位なその行いにレイスは激しい嫌悪を感じる。
「どこまでも腐った男ですね。
…………ですがオブライン家は歴史も長い。庶民を跡取りの嫁に迎え入れるなど当主が許すとは思えませんが?
しかもそんな家の跡取りの結婚式となれば何ヶ月、へたしたら一年以上準備が掛かるはずでしょう、何故数日の間に結婚しているのです?」
「オブラインの当主は少し前に病気で亡くなって今はあの男が当主だ。
それを良い事に周りの反対を押し切って結婚を進めたようだ。
しかも既に結婚の準備をしてたらしくて、了承を得たらそのまま連れて帰って、数日で結婚しちまったんだよ」
「馬鹿のくせに、ずいぶんと手回しの良い……っ」
レイスは思わず舌打ちした。
結婚前ならば方法は有ったかもしれないが、流石に正式に結婚してしまった後では、レイスにもどうする事も出来なかった。
恋い焦がれたシェリナの結婚により、レイスは荒れに荒れた。
もし、シェリナに毎日会いに行っていれば、こうなる前に対処できていた。
それが出来なかったのは邪魔がいたからだ。
レイスは苛立ちをぶつけるように、忙しさの原因となっていた嫌がらせをしていた官吏達に報復を行った。
ある時は、家では良い父良い夫と言われる対象者の妻に、愛人とのイチャイチャ写真を送りつけて家庭崩壊を促してみたり。
またある時は、公衆の面前でわざと躓いたふりをして、対象者の髪を力の限り引っ張り、ヅラを引っ剥がし若ハゲをばらしたりとか。
他にも多数、その人物が一番堪える方法でありとあらゆる報復を行っていった。
しかし、それだけでレイスの心が落ち着く事はなく。
苛立ちを発散する相手がいなくなると、他国との外交で八つ当たりとばかりに誘導して失言から揚げ足をとり、味方であるはずの上司が思わず、それくらいで……、と助け舟を出してしまうほど、自国に優位な契約を取り付けて、涙目の使者をいたぶって憂さ晴らしをした。
しかし、そんな行いでもレイスは周りに何一つ反論する隙を与えない。
報復に関しては偶然を装い、かつ合法。
交渉に関しても言い逃れ出来ない失言を誘っただけ、その上自国の有利になる事なので、誰も文句を言えなかった。
こんな数々の極悪非情な行いが人から人に伝わり、国内外問わず魔王と恐れられ、結果、レイスに表立って反抗する者がいなくなった。
そんな不名誉なあだ名が蔓延した頃、漸くレイスの八つ当たりは落ち着きを見せた。
しかし、次に被害を受けたのはロイクとリューイだった。
***
「うぅぅぅ、うわぁぁぁ。
どうして私はあの時にもっと彼女に積極的にならなかったのですぅぅ。
そうすれば今頃……今ごろぉぉぉ」
「あぁー、うぜぇ、うざすぎる」
「全くだわ」
結婚ばかりか一年後には双子を産んだシェリナに、すっかり落ち込んでしまったレイスの慰労会を兼ねて行き着けの店に飲みに来て一時間、ロイクとリューイは早くも連れてきた事を後悔していた。
お酒を一気に飲み干すレイスを最初は仕方がないかと温かく見守っていたのだが、あまりにも次から次へと飲みまくるレイスを慌てて止めに入った時にはもう遅く、泥酔して泣くわ愚痴るわの現在の状況となってしまった。
いっそこのまま飲ませて潰そうと、二人の意見が一致した時、呼んでいたもう一人の友人がやって来た。
「よっ、お待たせ」
「遅いぞ、ヴァン」
「俺様だって、色々忙しいんだって。
ロイクはそんなに俺様に会いたかったのか?俺様ってモッテモテ…………」
そのヴァンの視界にぶつぶつと一人愚痴り続けるレイスが飛び込んできた。
ヴァンは思わず顔を引きつらせた。
「………俺様帰って良い?」
「だめに決まってるでしょ」
「そうだ、お前も付き合え、道連れだ」
ヴァンはレイスの向かいの席に座る。
「お前がもっと早くシェリナの事報告して来ないからこの有様だぞ?」
「無茶言うなって、俺様は跡取り息子なのに、家の仕事で忙しい合間を縫って報告してたんだぞ。
よりによって、家で問題が起きて処理してる間の事まで責任取れないって」
「お前のとこは手下が沢山いるんだから、誰かに頼めば良かっただろ」
「友人の好きな女を監視して状況を報告しろって?
そんな馬鹿げた事頼めないだろ」
「確かにね」
ヴァンは泣きながら酒を煽るレイスを見る。
「そう落ち込むなって、女なんか沢山いるんだから、また好きになる女が現れるって」
「私はシェリナが良いんです」
「即答だな………じゃあそんなに好きだったら奪っちゃえば良いんじゃねえ?」
その言葉にロイクが反応する。
「はぁ?奪うってどうやってだよ、相手は結婚しちまってるんだぞ?」
「でも彼女の方は家の為に仕方なく、だろ?
だったら男の方に新しく女が出来れば簡単に離婚するかもよ?」
「あっ、馬鹿っ」
リューイが止めに入るのが遅く、しっかりヴァンの言葉を聞いていたレイスは、酔いも吹っ飛ばし勢い良く立ち上がった。
「そうか、その手が有りましたか!!」
「私は知らないわよ」
次のレイスの行動を予測したリューイは、我先にと逃げた。
「ヴァン!!
直ぐにあの男の趣味趣向を調べて、あの男の好みの女を探して下さい!」
「えっ、マジ?何で俺様がやるの?」
「ふふふふっ、待っていて下さいシェリナ。
私が必ず救い出しますよぉ!」
「諦めなさいヴァン、聞いてないわ」
そうして、レイスのシェリナ奪還計画が始動した。
***
ヴァンの家メルフェスは、幾つもの事業を手掛ける資産家だが、本職は裏の世界を取り仕切っている。
どんな凶悪犯も人を殺した強盗犯も、その名を聞けば怯え出すほど、裏で知らぬ者はいない力を持った一族だった。
そして、ごくごく少数しか知らない事だが、国はメルフェスのする事に目をつぶる代わりに、表で裏の住人が暴れないよう裏の世界を取り仕切り、表で犯罪を犯した者がいたら直ぐに引き渡すなどといった契約を交わしている。
それにより、国内でも有数の資産と影響力を持っているのだ。
そんな家の力により、レイスの望んだ情報は数日の内に手に入り、すぐさま計画を実行に移した。
場所は貴族や資産家などが利用する高級飲食店。
そこでレイスはロイクとヴァンと一緒に目的の人物が来るのを今か今かと待っていた。
すると、少しして店にアーサーが訪れ、席に座ったのを少し離れた席から確認する。
さらに少しして男性と女性が相席する。
「あの女性ですか?」
「ああ、メルフェスの力を最大限活用して調べて上げた、最も条件の揃った女だ。
一緒に来た男はオブラインの学生時代からの取り巻きの一人で、今回女をオブラインに紹介するために脅し……じゃなくて、協力して貰った奴だ」
「今脅したって言っただろ」
裏の頂点に立つメルフェスに脅されては逆らうなど出来ないだろう。
ロイクは少し可哀想になった。
「それで、あの女性はどんな女性なのです?」
「性格的には優しく慎ましやかなお手本のような淑女。
………けど実際の性格は、レイスも驚く真っ黒けの悪女だ。
邪魔する奴には容赦なし。
人生台無しにされた人間は数知れず、しかもやり方は顔に似合わずかなりえげつない、こんな事がなかったら俺様直々に、裏の世界に勧誘してるとこだったぜ」
「そんな女が普通に生活しているとは、世も末ですね。
しかし、そんな女で大丈夫なのですか?」
ヴァンの事を信頼してはいるが、あまりにシェリナとの性格の違いに不安が浮かぶ。
「あの女は頭も良くて自分の見せ方を良く知ってる、簡単にへまはしないだろ。
そだけじゃないぞ、あの女は最近まで資産家の夫がいたんだが、亡くなって莫大な財産を受け継いでいる。
それに引き換えオブライン家は先代からの事業の不信や金遣いの荒さで、資金難に陥っている。
今はまだいいが、才能の無い馬鹿息子が継いでからはさらに加速して悪くなってるから、いずれ金に困るはずだ」
「それでは女の方がのってこないんじゃねえの?」
一見すると女の方に利益が無いように思える。
「それも調査済み。
オブラインはあの女の好みど真ん中、女の性格上絶対にものにしようと動くさ」
アーサーだけでなく、女の好みまでよく調べられたものだ、しかも誰にもばれていないはずの裏の性格や行動まで。
今更にメルフェスの脅威さを感じる。
そしてヴァンの予定通り、アーサーは仕掛けた罠に掛かり愛人関係となったのだが、レイスは喜ぶより、むしろ怒っていた。
無理矢理妻にしておきながら簡単にシェリナを裏切ったアーサーに。
自分だったなら例えどれほどの美女が言い寄って来たとしても、少しも揺らがない自信がある、シェリナだけを愛し続ける自信があるのに。
どうしようもない怒りを押し殺し、今は時ではないとぐっと耐えた。
***
仕事中のレイスの部屋にロイクがやってきた。
自分で報告をするのを嫌がったヴァンから押し付けられてしまったのだ。
「良い話と悪い話どっちが先に聞きたい?
俺のお薦めは良い話からだけど」
「どっちでも構いません、両方聞く事に変わりはないでしょう」
顔を上げる事無く書類を処理しながら答える。
「じゃあ、良い方から。
あの愛人の女がオブラインの子供を妊娠したそうだ」
その話に漸く手を取め書類から目を離す。
「ほう、それは良い話です、これで離婚まで一気にいってくれるでしょう。
今日は仕事がはかどりそうです。………それで悪い話とは?」
ロイクは一度深く深呼吸をして、これから起こる事態に備えた。
「シェリナも妊娠が発覚したようだ」
その瞬間、レイスの持っていたペンがバキャッっとあらぬ音を立てて粉砕した。
「愛人を妊娠させておきながらシェリナまで…………。
一体どうしてくれましょうかねあの男は、ふふふふふふっ」
不気味なオーラを発し笑うレイス。
正直怖い。
やはり先に良い方を言っていて正解だった。
そうでなければ、きっと後の話は耳に入っていなかったはずだ。
今日のレイスは荒れるだろうなと同じ部署の者達を不憫に思った。
***
それから十数年、愛人との関係は続き、シェリナとは関係が悪化しているにも関わらず、シェリナとは離婚しようとしなかった。
これほどシェリナに執着が有ったのかと、自分の事を棚に上げてレイスは驚いていた。
しかし、とうとう資金繰りに困りだしたのか、漸くシェリナと離婚し、資産のある愛人と結婚を決めた。
そうしてシェリナが実家に戻った。
またここから始めよう、今度こそ間違えたりしない、後悔しない。
愛する人を手に入れる為、そうレイスは心に誓った。
まずは手始めに顔を覚えてもらう為、毎日店を訪れ積極的に話しかけた。
この時にはレイスはかなり出世し、上から数えた方が早いほど官位を上げ自信がついたようだ。
日々の出来事などを面白おかしくシェリナに聞かせ笑わせる姿は、とても以前のレイスからは考えられないもので、レイスは学生の頃と変わらないシェリナの笑顔を見て、再び恋に落ちた。
そして今日も店に向かおうと店の側まで近付いた時、レイスはシェリナの双子の息子に呼び止められた。
双子はシェリナではなくオブライン家に引き取られたようだが、母親の方に懐いているようで時々姿を見る事があったが、話すのはこれが始めてだった。
「ねえ、ちょっと良いですか」
「ちょっと顔貸せよ、おじさん」
いきなり呼び止められ、敵意にも似た目を向ける双子。その年上に対する礼儀知らずな対応に僅かに怒りを覚える。
決しておじさんと言われたからではない。
「随分小生意気なガキですね。
とても彼女の息子とは思えませんね」
見た者を凍らせると評判の冷笑を向けるが、双子の兄弟、セシルとカルロは怯えるどころか勝ち誇った笑みを浮かべる。
「へえ、そんな事言っていいんだ?」
「俺達が母にあなたの事悪く言ったら、今までの苦労が水の泡になってしまうよ?
きっと嫌われちゃうだろうねぇ」
「この私を脅すとは良い度胸ですね。
………良いでしょう、何が望みです」
最初は憎いアーサーの息子という目で見ていたが、自分を前にしてもすかさず切り返す二人に、見方を変えた。
(どうやら思っていたより、頭も度胸も良いようですね。
きっとシェリナの育て方が良かったのでしょう……まあ少し生意気ですが)
二人に連れられゆっくり話せる場所へ移動し、最初にセシルが口を開いた。
「一つ聞きたいのだけど、あなたは母の事どう思っているの?」
「愛していますよ。結婚したいと思っています」
「即答だね」
「ええ、勿論です。
恥ずかしがって誰かに攫われて後悔するような事は二度としたくないので」
子供だからと誤魔化す事なく、ありのままの気持ちを伝えた。
「二度とね………じゃあ、俺達が上手くいくように手伝ってやろうか?」
「魅力的な話ですが、条件があるのでしょう?」
双子は不敵に笑った。
「話が早くて助かるよ。
条件は二つ、一つは宰相になる事。
二つは妹のユイを娘として認め、守る事。この二つだよ」
レイスは予想外の条件に目を丸くした。
「妹の事は理解できます。
勿論、結婚すればシェリナの子供も受け入れるつもりです。
しかし、何故また宰相になるのが条件なのですか?」
レイスの疑問は最もだった。
宰相は文官の中の最高位で王に次ぐ権限を持つ。
普通は王族や長年使えた官吏が就くもので、レイスほどの若い年齢の者が就ける役職ではない。
もしや遠回しに反対されているのかとレイスは思ったが、二人の顔は真剣そのものだった。
「これは二つ目にも通じるものだよ。
ユイを守る為には宰相という地位は必要不可欠だ」
「少女一人守るのにそれほどの権力が必要だと言うのですか?」
普通なら何を馬鹿なと一蹴するところだが、それが出来ない緊張感が二人にはあった。
「ああ、そうだよ。理由はいずれ分かるさ」
「それが果たせないなら結婚は認めない。
俺達が全力で阻止させてもらうよ、どうする?」
考えるまでもなかった。
それでシェリナを手に入れる為の最強の助っ人を得る事が出来るなら、宰相だろうがなってやると。
「良いでしょう、その条件呑みました」
各々が自らの望みを叶える為、三人は固い握手を交わした。
それからレイスは双子の条件を果たす為、寝る間も惜しんで仕事に明け暮れた。
それと同時進行で、密かにヴァンに頼み不正や犯罪を行っている者を調べ上げ、証拠を掴み次々に官吏や貴族を退官や降格に追い込んだ。
レイスが狙ったのは自分より上の官位を持つものばかりで、その官位が空くと同時に功績を上げたレイスは元々年齢から見れば高かった地位をさらに上げ、異例の速さで出世していった。
そんなある日、妹に合わせたいと双子から再び呼び出された。
何故か三時間待ちという街で人気のチーズケーキを要求されて。
約束の場所に来てみると双子と少女を見つけた。
「こんにちは、レイスさん」
「手土産を要求するとは厚かましいと思いませんか?」
「あんたの為になる事だからいいじゃん。
ユイ、こっち来て挨拶しとけ」
「…………こんにちは」
そうカルロに促されて挨拶した少女は、にこりともしない無表情のまま。
緊張しているのかと思ったが、店で偶に見かけた時も、よく笑うシェリナと対照的に笑ったり子供らしく騒いだりしたところを見た事がなかった。
そう言えばヴァンの報告の中にこの少女の事もあったはずだと、記憶を掘り起こす。
少女はリーフェという特殊な体質故に父親のアーサーからなかり酷い扱いを受けて過ごしたと。
どこまでも不愉快な男だと思いつつ、感情を表に出さないのは少女が自らを守る為のものかと理解した。
けれど、シェリナしか興味のないレイスにとったら無愛想なガキという認識しかなかった。
この時までは…………。
「ユイ、今日はねレイスさんがユイにお土産持ってきてくれたんだよ」
そのセシルの言葉で漸く手持った荷物を思い出した。
レイスはユイに聞こえないよう、コソコソとセシルに話す。
「まさかこの為に用意させたんせたんですか?」
「そのまさかだよ、ユイは甘いものに目がないんだ、ユイと仲良くなるには餌付けが一番。
母さんと結婚するならユイと仲良くなるのは絶対条件だよ」
シェリナとの結婚の為。
上手く誘導されているようだが、反論する理由はない。
レイスは手に持っていた紙袋をユイに差し出した。
「お好きな物か分かりませんが、宜しければどうぞ」
「おお良かったな、ユイがずっと食べたいって言ってたお店のチーズケーキだぞ」
中身を聞くと、今まで無表情だったユイが目を輝かせた。
「貰っていいんですか?」
「ええ、沢山有りますから好きなだけ食べて下さい」
「ありがとうございます」
そう言って嬉しそうにはにかむユイを見た瞬間、レイスの心が打ち抜かれた。
それはシェリナに対する狂おしい程の恋情とは違う、その名は庇護欲。
守ってあげなければと思う感情。
今まで冷酷非情と唱われた魔王はこの時父性愛に目覚めた。
(何なのでしょう、この可愛い生き物は。
思わずぎゅーっと抱き締めたい衝動に駆られました。
危ない危ない、初対面でそんな事をすれば嫌われてしまう。
似てないと思いましたが笑った顔は彼女に似てますね、やはり親子という事でしょう。
………はっ!という事はシェリナと結婚すればこの子は私の娘。
という事はいずれパパと呼ばれるのですね…………パパ、なんて良い響きでしょうか。
しかし、これほど可愛いければ虫も沢山寄ってきそうですね、きっとシェリナのように……。
くっ、そんな事許しません!私が不埒な者達から守らなければ!」
双子の条件のあるなしに関わらず、レイスがユイを守ろうと決意に燃えたのは、双子に取っては結果的に良かったのだろう。
しかし、この時レイスに取ってもユイに取っても良かった事は、脳内暴走を起こしていた心の声がそのまま顔に出なかった事だろう。
そうでなければ不審者、または危険人物としてユイに記憶され、今後の関係を築くのは容易ではなくなっていたはずだ。
ともあれ、この直後から双子の協力を得て色々な情報を手にした。
最初はシェリナが行きたいと言っていたと聞き演劇に誘った。
最初は渋っていたシェリナだが、母親の助言もあり誘う事に成功。
ちなみに、双子によりあらかじめ母親は助言を頼まれていたのは秘密だ。
始めて二人で出掛ける。
学生時代を考えれば想像も出来ない夢のような時間。
向かえに行った時のシェリナはお店で接客している時と違い、着飾りお化粧をしていた。
それが自分の為だというのだから嬉しさも倍増だった。
そして見に行った演劇は、最大限コネを使って手に入れた最も良い席だったが、隣で劇の内容に一喜一憂して表情を変えるシェリナが気になり、レイスはあまり覚えていなかった。
帰りの馬車の中、レイスはずっと胸にある思いを打ち明けようと決めていた。
「シェリナさん、これから結婚を前提にお付き合いしては頂けませんか?」
シェリナから、返ってきたのは冷たい視線と拒絶の言葉。
しかし、元々簡単に受け入れて貰えると思っていたレイスはへこたれなかった。
仕切り直してまた求婚しに来るとシェリナに言えば、目を丸くして驚いていた。
よほどアーサーとの事がトラウマになっているようで、レイスもまた権力でどうにかすると思って警戒したのだろう。
大事なシェリナにそんな心の傷を残したアーサーに何度も感じた怒りを感じる。
言葉通り全く諦めないレイスは翌日、店を訪れた。
さすがにあれほどきっぱり断られて翌日に顔を見せるとは思わなかったのだろう。レイスの来店を驚いていた。
残念ながらそれぐらいでへこたれるぐらいならば、とっくにレイスはシェリナを諦めていた。
シェリナに連れられ店の裏に行くと昨日の態度は失礼だったと誤られた。
昨日と違い落ち着いて話せそうな雰囲気のシェリナに、もう一度思いを伝える。
だが、やはり返ってくるのは拒絶だった。
「レイスさんは貴族ですから、一般人の私では釣り合わないと思いますが」
「私の家は元々落ちぶれた男爵の生まれで、ほとんど一般の家庭と変わらない生活を送っていました。
そんな家なので両親の価値観も、どちらかと言えば貴族より庶民寄りで、一般人だからと差別する事はありません」
「私には子供がいますよ」
「貴女の子供なら大歓迎です」
「正直レイスさんの事は友人ぐらいとしか思っていません。
それに結婚も今は考えていなくて、レイスさんに出す答えがいつになるか分かりません」
「構いません」
次々と繰り出される質問。
よほど貴族に対して嫌悪感があるのだろう。
レイスを諦めさせようとするのが窺えるが、レイスに取ってはシェリナが一番であり、その程度の事諦める理由になど僅かにもならなかった。
子供に関しても、既にユイを溺愛しているレイスに取っては問題どころか、利点でしかなかった。
「いつになるか分からないんですよ?
それよりも、レイスさんなら良い方が沢山いらっしゃると思いますが」
「それでも、簡単に諦められるような軽い気持ちではないんです。
だから待ちます、貴女の心が手に入るまで、ずっと」
そうして半ばごり押しで、何とか可能性を取り付け、漸く異性として候補の一人位には認識されただろうとレイスは上機嫌だった。
けれどレイスの目標はあくまで結婚ただ一つ。
双子から情報を集めシェリナの好むプレゼントを毎日のように渡した。
それだけでなく、ユイにも気にも入られようと高級チョコや行列のできる有名店のプリンなども欠かさず渡した。
その甲斐有ってか、無表情で兄と一緒でなければ会ってくれなかったユイは、時々笑顔を見せ一人でも会ってくれるようになっていた。
セシルの助言通りしっかりと餌付けが出来たようだ。
これでユイを一番気にしていたシェリナの躊躇いが一つなくなった。
しかし、しばらく経ってもシェリナからはまだ良い返事は貰えなかった。
かなり親密になれたと自負しているが、未だにその先の関係に成れない事に、待つと言っておきながら僅かな焦りが浮かぶ。
最近では店のご近所や常連から応援や憐れみの言葉をもらう始末だ。
***
そんなおり、大物を釣り上げた。
現宰相の国庫の横領と横流し。
相手が相手なだけに証拠集めは慎重に慎重を重ねた。
決して穴がないよう、言い逃れ出来ないように。
そうでなければ、逆にレイス自身の立場どころか、命が危うくなる。
信頼のおける者達の協力もあり、完璧に集められた証拠の数々と、宰相のおこぼれを得ていた共犯の者達の証拠も一人残らず、宰相を糾弾できる最高権力者である国王に提出した。
流石に即位からずっと右腕として信頼していた宰相の不正に、最初は信じられない様子だったが、言い訳できない大量の証拠に信じざるを得なかったようだ。
すぐに主だった長官達が集められ、驚くほどあっさりと宰相と共犯者達は捕縛された。
そして次の問題は抜けた宰相位に誰が就くかだったが……。
「私は次期宰相位にレイス・カーティスを推す。
異論のある者はこの場で申せ」
その王の言葉に誰も反論する者はいなかった。
レイスが宰相に成り得るだけの実力と経験を持っていると多くの者が認めたからというのもあるのだが………。
レイスのこれまで不正や犯罪を追求され官吏や貴族の位を無くした者達。
そのレイスの功績はほとんどの者が知る事であり、表立って批判すれば次は己の身が危ないと危険を感じたからだという者も決して少なくはなかった。
ともあれ、レイスは歴代最年少で宰相となり、双子の条件も無事果たし、後の問題はシェリナの心だけだった。
本当は直ぐにでも会いに行きたかったが、前宰相の後始末に引き継ぎ、新しく賜った伯爵位の為、相応しい場所への引っ越しに使用人の確保と、すべき事が山のようにあり会いに行くどころか手紙すら書ける状況ではなかった。
それでも早く会いたい一心で仕事を処理していき、終わったのは二ヶ月も後だった。
***
シェリナに直ぐ手紙を送り、引っ越した新しい屋敷に来るのを心待ちにしていた。
そして現れたシェリナに、久しぶりに会えた嬉しさに飛び跳ねそうな気持ちを我慢して平静を装った。
「レイスさん、この度はおめでとうございます」
「おや、もう耳にしたのですか。
とんとん拍子に話が進みましてね、今まで連絡が出来ず申し訳ありません」
来て早々に話すシェリナに、いったいどうやって宰相になった事を知ったのだと驚いた。
まだ公にはなっていないはず、それともすでに噂になっていたのか。
話を詳しく聞こうとすると、シェリナは突然帰ろとしてレイスは慌てる。
「えっ、シェリナさん!?ちょっと待って下さい!」
「レイスさんの気持ちは言わなくても分かりましたから。
会うのは最後と思いますので、お幸せになって下さい」
レイスにはシェリナが何を言っているのか分からなかった。
果てには、レイスが否定すると私を愛人にするつもりか!と怒鳴られる始末。
理由は分からないが、ただ一つ分かるのは何かしらの大きな誤解があるようだ。
そうしてお互い詳しく話してみると、シェリナはレイスが二ヶ月も音信不通で、急にこんな立派な屋敷に住んだのはどこかの貴族のご令嬢と結婚でもしたんだと思ったらしい。
宰相に就いた事への祝いの言葉と思っていたのは、実は結婚に対する祝いの言葉だったらしい。
しっかり引き留めていて良かったとレイスは内心恐怖に包まれていた。
もし、誤解したまま帰していたらと思うと恐ろしい。
誤解が解けるとシェリナは勘違いを詫びた。
しかし、その申し訳無さそうなシェリナに、レイスは少し悪戯心が芽生えた。
「私は貴女に告白したのですよ?
私が結婚したと思って声を荒げたなどと言われたら期待してしまうじゃないですか」
軽い冗談のつもりで、直ぐに顔を真っ赤にして反論するだろうとシェリナの反応を待っていると、意外な答えが返ってきた。
「………期待して下さい」
最初、自身の願望が聞かせる幻聴かとおもったが、目の前で頬を赤らめるシェリナに現実だと教えられ、レイスはシェリナの前に跪いた。
「シェリナさん………いえ、シェリナ。
私は宰相になってしまったので貴女が嫌いな貴族の世界に引き込み事になります、辛い思いもさせるでしょう。
しかし、貴女を生涯愛し続けると約束します。
ですからどうか、私と結婚してくれませんか」
「………本当に私で良いんですか」
「貴女以外必要ありません。
ですから私と一緒に生きて下さい」
「はい、喜んで」
レイスが片思いしてからおよそ二十年後に実った初恋だった。
***
念願の結婚式当日。
結婚式はごくごく身近な家族や友人達だけで行う、宰相の結婚式としては異例の質素なものだった。
しかし、レイスもシェリナも十分満足していた。
「漸く結婚式までこぎつけたな」
「羨ましいでしょう、ロイク。あなたも早く結婚しなさい」
「おいおい、あれだけ協力してやったのにその言いぐさかよ」
「まあ、確かにあなたとヴァンには感謝していますよ。
あなた方がいなければ、今もぐじぐじ後悔して不幸のどん底だったでしょうね。
ありがとうございます」
滅多にないレイスの心からの感謝に、ロイクは目を丸めた。
「おいおい、今日は大事な日なんだ。
なれない事言って雨が降ったらどうするんだよ」
「おや、照れているんですか?」
「ばっ!違うに決まってるだろ!
そう言えばヴァンどこ行ったか探してくる」
そう言って去っていくロイクは耳まで真っ赤にし、レイスの言葉は事実だと言外に証明している。
きっと恥ずかしくなって逃げたのだろう。
そしてレイスもシェリナの元へ向っていると、双子が近付いてきた。
「ユイは一緒ではないのですか?」
「ユイなら母さんと一緒だよ、父さん」
「俺達も見に行ったけど、二人共凄く綺麗だったぜ、父さん」
その二人の言葉にレイスは暫し硬直した。
「……………ちょっと待ちなさい。
あなた達はオブライン家の子供でしょう。
いくらシェリナと結婚したからと言って私は父にはなりませんよ」
「ああ、今はね」
不適な笑みを浮かべる二人に、レイスは言いたい事を理解した。
「………あの家を出るつもりですか?」
「最初はあの家乗っ取って、母さんとユイを連れ戻そうと思ってたけど、父さんと結婚したなら必要ないし、なっカルロ?」
「そう言う事。
俺達が成人したら進路は自分達で決められるし、そうなったら名実ともに父さんの息子になるつもりだから、よろしく!」
「優秀な跡取りを二人ですか、あの男が喚きそうですね」
レイスは今後の頭痛の種に溜め息を吐き、シェリナの所へ向かう為、二人とそこで別れた。
レイスはシェリナの控え室の前に立ち、自分を落ち着けようと深呼吸をする。
「どうやら、柄にもなく緊急しているようです」
もう一度深呼吸をし、扉を開ける。
部屋に入ると、自分に向かって笑いかける純白のドレスを着た美しいシェリナを見て、本当に今日、憧れ続けたシェリナと結婚するのだとレイスは実感した。
レイスは嬉しそうに目を細め、漸く手にした幸せを噛みしめた。
しかし結婚式後、ユイから同居を断られて幸せの絶頂から落とされる事になるのをレイスはまだ知らない。