センチメンタル・ボーイ
◇◇◇◇◇◇◇
この能力は 感情とリンクしている。
特に『怒り』と『興奮』
感情の昂りに反応して体外に出現してしまう。
いつから この能力を操作できるようになったか
はっきり思い出せない。
ただ、抑えなければならない……
抑えていかなければ
自分は生きている事すら許されない生物だと
本能が教えてくれた。
だから今、こうして なんとか生きてこれた。
その本能が今度は『この能力を使え』という。
能力に振り回されてたまるか!
………そう思っていたのに
結局 振り回されて生かされている。
自分は一体 なんなのだろうか………
◇◇◇◇◇◇◇
「――――――ッタ!」
「何 寝てるの?」
「てめッ 踏みやがったな!?」
気持ちの良い秋晴れの火曜日。
旧校舎の屋上でハルマは寝転んでうたた寝をしていた。
そこへトールがやってきてハルマの足をワザと踏んだ。
「今日も授業 全部サボったんでしょ?」
「関係ねえだろ」
「進級する気ないの?」
「どうにかなるだろ、そんなもん」
「高校は義務教育じゃないんだよ」
「うっせーな」
いつもなら屋上にトールが現れると 張り切って
準備体操を始めるハルマだが
寝転んだまま起き上がろうとしなかった。
トールはため息をついてその場に座り込んだ。
「…………なんだよ」
ハルマは隣に座ったトールを睨んだ。
「僕にも そんな時があるなって」
「あ?」
「自分がなんなのか わからなくなる時がある」
「……!」
「僕も 今のお前みたいに なるんだろうな。
自分じゃ見れないけど」
ハルマは 自分がうたた寝をする前に
考えていた事をトールに言い当てたられて
思わず目を丸くした。
「そういや ハルマの事、なんも知らない」
「…………」
「話したくないなら 詮索しないけど」
「……話せるような記憶がねえ」
「?」
「ただ、自分の体から出る電気をなんとかしないとって
思いながら生きてきたんだと思う。
そうじゃなきゃ自分が危なかったからな」
「どーゆー事?」
「体から電気が出る人間を普通に扱える奴がいると思うか?
オレに触った途端、ビリッとするんだぜ?
怖くて遠ざけるか見捨てるだろ」
ハルマはトールを見るのをやめて
空に視線を移した。
「なんとか体から電気が出ないように
抑える事でいっぱいだったんだよ。
「普通」でいなきゃ捨てられるって
ビクビクしながら生きてきたんだろうな、オレ」
「…………」
「ちょっとでも怒ったり泣いたりしたら すぐ火花が出た。
それだけで脅威だろ?普通の人から見たらな。
そしたらオレはどうなるかわかるだろ?」
「…………」
「………怖かった。「普通の人間」が」
ハルマは 何かを思い出したのか
トールに背を向けて寝返りをした。
「自分の体を恨んで何度も傷つけた」
この言葉はトールとハルマが
出会ってから 2回目に対決した時に
ハルマが漏らした言葉だった。
それだけで だいたい想像できた。
望んでいない能力を身につけて生まれ
人に必要な感情や生活の仕方を覚える前に
この能力と戦わなければならなかった。
その後は能力を隠して
「普通」を装わなければならない。
あんなに辛い思いをしたのに、
誰にも認められず、理解されず、
普通の世界に身を投じなければならない。
『普通が怖い』
ハルマが言った言葉がトールには よくわかった。
「結局 死のうなんて思った事はないんだけどな」
ハルマが少し自嘲気味に笑った。
「死ぬ気がないなら なんのために
オレは生きているんだろうって思った時だったな、そーいや」
「え?」
「能力に振り回されるぐらいなら
逆に利用してやろうって思ったの」
ハルマは 事の始まりを ふと思い出した。
「……それでケンカに明け暮れたんだ」
「えっ!?ケンカって……どこで!?」
「それが………覚えてねえ」
「なっ……」
「気がついたら この高校に入学させられてた」
「!?」
ハルマの飛び飛びの記憶にトールは理解出来なかった。
「まぁ……でも、ここに来れたおかげで
お前や 桐谷たちと会えたからな」
ハルマが 一息ついたように呼吸をしたので
トールは 追求するのをやめた。
本当はいろいろ聞きたかったのだが
ハルマの過去を刺激しない方が今はいいだろうと感じた。
「オレは今のままでいいんだよな?トール………」
ハルマが トールに答えを求めた。
トールは少し考えて立ち上がった。
そしてハルマの背中に蹴りを入れた。
「ッタ!!なんだよ!!」
「似合わない」
「あぁ!?」
「早く起きて」
トールはハルマから間を取って構えた。
「ほら、来いよ」
「………!」
「全力でいいから」
「トール………」
トールは 言葉に出さなかった。
言葉にするよりも こっちの方が伝えられると思ったから。
ハルマは構えたトールを見て
いつもの調子を思い出した。
そして笑った。
「わりぃな」
笑ってハルマも構えて、得意の火花を身体中に弾けさせた。
「手加減できねぇぞ」
「お互い様」
旧校舎の屋上には
今日も世界の普遍に抗って生きる
2人の青年がぶつかり合っていた。




