アキトと箱庭少女 3
「桐谷君、ズボンに泥が付いてるよ」
トールが アキトの脚を見て指を差した。
「ああ」
短い返事をすると軽く叩いて泥を落とした。
「何かしてきたの?」
「あぁ、まあな」
アキトは体育館の裏庭にひっそりとある
若林 モモの箱庭について
トールとハルマに話さなかった。
女子生徒と会ってるから……とか
箱庭の存在を知られたくないから……などの理由ではなく
自分自身の問題だから
2人に話す必要はないと思って黙っていた。
初めて箱庭に訪れてから2週間が経ち
少し肌寒い季節に変わってきていた。
陽射しがないと ちょっと寒い。
体育館裏は少し陽当たりが悪かった。
アキトは週2回くらい
本来のバスケの部活が終わった後に
若林 モモが一人で作った『園芸部』に
立ち寄っていた。
「先輩」
「きき、桐谷さん!」
若林モモは ほぼ毎日 放課後になると
ここにいることがわかった。
「慣れてくださいよ、そろそろ」
「ムムム……ムリです!せ、先輩だなんて……」
もう5回以上は顔を合わせているのに
若林 モモは今だに 口を吃らせ
赤面してモジモジする。
アキトが本人から聞いた話をまとめると
若林 モモは園芸が大好きで
園芸部を創ろうとしたのだが人が集まらず断念した。
だが、諦めきれず 教員に頼んだところ
使われていない裏庭で良いならという話で
ひとりで 1年かけて箱庭を作った。
人見知り、極度の緊張、吃音などで
学校に友達はいないと言う。
「先輩、終わりました」
「ハハ、ハイ!」
アキトは箱庭にお邪魔しては
若林 モモの庭作りの手伝いをしていた。
アキトは ただこの 若林モモが作った
空間が好きだった。
「先輩、すごいですよね」
「なな、なにがです?」
「だって一人で全部作ったんですよね」
アキトは箱庭を見渡した。
陽当たりの少ない ひんやりした裏庭に草花の庭園がある。
3メートル四方の大きさだが そこだけは生命の鼓動が感じられた。
育ててくれている主に応えるかのように
草花は生い茂っていた。
この箱庭を自分の腰ぐらいの身長のか弱い女子が
1年半かけて作り上げた。
手伝いを始めて間もないが
植物を育てるのが大変だとわかったアキトは
若林モモの 直向きな想いに 感心した。
「わゎ、わたしは……人としゃべるのが にに苦手で……」
若林モモが もごもごと話し始めた。
「しょ植物たちは……わゎわたしが
しゃべらなくても
手をかけた分だけ それに応えてくれるんで……好きなんです」
下を向いてるが若林モモは
嬉しそうに はにかんでいる。
「き 桐谷さんは……おっお友だち
いっぱいで………うらやましいです」
「いっぱい?」
「この間……リュックにプ、プレゼントたくさん」
「あぁ、あれですか」
アキトは 右目の下の頬を軽く掻いた。
「あれは 友達とかじゃないです……
正直、あーゆーのどうしたらいいか
わからないんです」
「そ、そそうなんですか?」
「はい」
「お友だち い、いないんですか?」
アキトの頭にはトールとハルマ、ユエ、レミの顔が浮かんだ。
まぁ そうなるよな…… と思った。
「いますよ」
「あっ……」
若林モモの顔が赤くなった。
「あぁ あの、桐谷さんの おっお友だちに会ってみたい……」
「えっ」
「ごごっごめんなさい!
あっあっ厚かましいですよね……」
ずっと下を向いてるが さらに下を向いてしまった。
頼むから そこまで小さくならないでくれ とアキトは思った。
(赤嶺は外見が悪いからアウトだな……
樋村と清水なら大丈夫だろう。
清水と一緒に武藤も来るだろうし)
「聞いてみます」
「……!」
若林モモは顔を上げて はにかんだ。
ガタッ
「!」
少し遠くで 変な物音がした。
アキトは音に気付いたが その跡の追及はしなかった。
(別に隠してるわけじゃないし みんなに話してもいいか……)
アキトは、そう思いながら
若林モモの箱庭を後にした。
~ 翌日・放課後 ~
バスケ部の活動はなかったが、アキトは体育館の裏庭へ足を運んだ。
まだ、トール達に話してないが
いきなり連れてくると 若林モモが引き付けを
起こしてしまうのではないかと心配したアキトは
若林モモに会ってから トール達をケータイで呼ぼうと考えていた。
裏庭に降りた。
アキトは目を疑った。
………………箱庭がない。
消えたとかではない。
箱庭の形が崩されている。
昨日まであったはずの小さな柵の囲いは倒され
生い茂っていた植物は地面と同化するように潰されている。
プランターの置いてあった棚も壊され
花たちが無惨に横たわっていた。
(なんで!?)
アキトは箱庭の残骸に駆け寄った。
若林モモが 元・箱庭の真ん中でうずくまっている。
背中が小刻みに震えていた。
この人が こんな事をするはずがない。
アキトは目の前の事態を把握する前に
おそらくショックで泣いている
若林モモをなんとかしなくては と
元・箱庭に足を踏み入れた。
――――――――
トールは下校途中だった。
一人で歩いていると、ポケットに入れてる
ケータイの振動を感じて取り出した。
―― 着信 桐谷アキト
トールは 普通に出て「もしもし」と
言おうとした瞬間だった。
『――助けてくれ!』
アキトの必死の叫び声が鼓膜を響かせた。




