トールの敗北
「なっ、なんでアイツ右手を解いたんだ!?」
ハルマは トールが右手の白虎を
消した事に疑問を持った。
白虎はトールにとって唯一の攻撃手段。
例えば、それを消して
『玄武の甲羅』で身を守ったとしても
身動きが取れずに 時間が来て敗けになる。
それなのに、なぜ右手の白虎を消して
左手の封印札をほどいているのか……。
トールが左手の封印から解いたのは
回復に使う妖怪『青龍』だった。
『青龍の鱗』で対象物の
傷や壊れたものを直す(治す)能力のはず。
ハルマは そう理解していた。
この場面にきて、なぜ回復役の「青龍」を出したのか。
トールは左手を前に出した。
すると、青色の花びらのような鱗が
迫ってきた金属の幻獣に
ハラハラ と付着していく。
付着したところから幻獣の金属の体が
砂のようにザララッと風に舞って消滅していった。
「!?」
エナが造り出した幻獣の体が砂化して
消えていくのに気付いた。
トールはまだ息が落ち着いていなく
息苦しそうに謎の力を使っている。
「……『青龍』は……回復の能力じゃない」
トールが 舞い散る青い鱗を見ながら
誰かに教えるように言う。
それはおそらくエナとハルマに向けて。
「『青龍』は「破壊」を食べる妖怪………
戦いで作った傷や壊した箇所を
『青龍』に食べさせていただけなんだ。
「破壊」を食べさせた部分は
元に戻るようになるから直ったように見えてただけ……」
幻獣は青い鱗の風吹にまかれて
どんどん砂化していき風と一緒に消えていく。
「だから今『青龍』に逆の事をさせたんだ。
この鱗は「破壊」を吐き出してる。
触れたら そこが破壊されていく……」
幻獣が最後の足元まで
消滅すると エナが一人 無防備で
立っている状態になった。
金属は全て使ってしまい、武器になる物が手元にはない。
トールは消滅を確認すると
左手の封印札を巻き直して『青龍』を消した。
そのまま、フラフラと前に進みだして
エナの方へ歩いて近付く。
エナは最後の気力で幻獣を出したから
もう立ち向かう力を残していない。
だが、怯まなかった。
トールも同じだった。
初めて『青龍』の逆の力を使ったせいで
気力を使い果たして歩くのが精一杯だった。
トールがエナに近付く。
エナの右手首ある自分のピンバッジに目をやる。
あと3歩 歩いて手を伸ばせば取れる…………
トールは エナに たどり着く前に
膝から力が抜けたように前に倒れた。
「トール!!」 「トール君!!」
「樋村!!」 「樋村くん!!」
4人全員が倒れたトールを見て叫んだ。
そしてトールに向かって駆け出して行った。
――――午後 4時。
この瞬間、エナの勝利が決まった。
エナは 長いため息をつき、その場に座り込んだ。
生徒会の 3人もエナの方へ駆け寄って行った。
「しっかりしろ!! オイ!!」
ハルマがトールを抱きかかえながら大声を出した。
ところどころに擦り傷があったが
外傷よりも気力と精神力を使い果たしたために
気を失ってしまった。
空を覆っていた厚い雲から
雨粒が ポツッ ポツッと降ってくる。
あっという間に夕立の激しい雨に変わった。
だが、だれも移動しなかった。
エナや生徒会の3人も気絶したままの
トールとトールを囲んでいる4人の姿を見ていた。
雨に当たったからだろうか。
トールが目を 薄く開けはじめた。
「トール!!」 「樋村!!」
ハルマとアキトがトールの名前を叫んだ。
レミとユエは トールが目を覚ました事に喜んで笑った。
「………………ハルマ………」
トールが小さい声で呟いた。
激しい雨の音に混じっていたが
確かにハルマの名前を呼んだ。
トールを抱えてたハルマは当然気付いた。
「……………ごめ……ん…」
「……え?」
「………敗けちゃった……」
トールはハルマの目を見た。
雨が強くて 目に入るたびにパチパチと
目を閉じてしまうがそれでもハルマを見た。
「………僕は……弱かった…」
「弱くなんかねーよ!何言って」
「ハルマは………僕のこと「強い」って……
………「強い」って言ってくれたのに……」
トールは ハルマと出会った時の事を
思い出していた。
最悪の出会いだったけど
ハルマはトールの「強さ」に引かれて
最初に声をかけてきてくれた。
ハルマが声をかけに来てくれなければ
今の自分は存在していなかった。
だから応えたかった。
「余計な事を……考えてなければ……
……勝てたのに………
僕が弱かったせいだ………
……みんな………ごめんね………」
夕立の雨は全員を濡らし、顔をうつむかせた。
トールの嘆きに合わせたかのように
降った雨だった。
トールの涙を隠すかのように。




