闇笑い・影井イズミ
~夏休み 第3週目 火曜日前夜~
「困ったなー
コレも持っていきたいし、コレも使えるし……
でもいっぱい入らないしなー
ポーチはこれ以上大きくしたくないし……
まてよ。前みたいにポーチ奪われちゃったら
マズイわ……
どこかに別の石を隠し持っておこう!
なんか切り札っぽくてカッコイイ!!
『ま……まさか、そんな所から!』
で、この胸の谷間から石を………
ダメだ、胸 無いや。
あーもー明日どーしよー」
レミの独り言劇場は 深夜2時まで 続いた。
~次の日~
レミはユエと一緒に旧校舎前へ着いた。
すぐ、向かいの道路から
ハルマとトールが やってくるのが見えた。
「ハルマーん!トール君!!
応援に来てくれたのね!ありがとー!!」
「うっせーぞ、ゴリ」
「桐谷君は部活の合間に見に来るかもって」
「うれしー、みんな大好き♪」
レミは満面の笑みで はしゃいだ。
レミの傍らで ユエが少し首を引っ込めている。
ハルマとトールがレミ達に合流すると
トールは目のやり場がないようで
視線を下に落とした。
レミが2人の様子を見て 焦れったくなり
ユエの背中を軽く押す。
ユエは前に出てトールと対面した。
「あっ……こ、こんにちわ」
「こ、こんにちわ」
「………大丈夫?」
「………ええ」
「………」「………」
先週の出来事を思い出して
2人とも もどかしそうにしている。
その姿を見たハルマが ようやく気付いて
小さな声でレミに問いただした。
「おい、ゴリ。先週 何があった?」
「フッ、アンタに教える事など何もないわ」
「ざけんな!白状しろ!」
「ユエちゃん、トール君、屋上行こ~」
「待てコラ!」
レミは しらばっくれてユエとトールを連れて
旧校舎へ入っていった。
「おーい」
アキトが駆け足で ハルマに近付いてきた。
「わるい、休憩終わったら また戻るんだけど……
あれ、みんな中に入ったのか?」
「………桐谷」
「ん?」
「お前の知りたいモノが見れるかもしれないぞ」
「は?」
レミを先頭に4人は屋上へ出た。
影井イズミと アキトと戦った相手
時任エイジと 生徒会副会長の美作エナが
待ち構えていた。
「レーミーちゃーん」
「…………ッ」
影井イズミは相変わらずの態度で
レミが来たのを大歓迎しているかのように
両手を振って笑っている。
レミは 露骨に嫌な顔をした。
生徒会副会長 美作エナに レミ達 4人は目を見張った。
すらりとした姿勢で 顔立ちは美人。
ユエとは また別の凛とした空気を放ち
この屋上にいる誰よりも威厳を持っている。
「イズミ」
「はぁい」
美作エナの合図で影井イズミが
ポケットからケータイを取り出し
ユエに近付いて画面を見せた。
画面を見たユエが 吹き出しそうなのをこらえて
片手で口を抑えた。
レミも画面を覗き見て 爆笑した。
「布施っちの お仕置き写真♪」
前回 ユエを傷付けたため罰を受けた
布施リュウのお仕置き写真だった。
宣言どおり、美作エナがボコボコにしたようだ。
「それじゃあ気を取り直して……
ボクとレミちゃんのデート場所を決めよー♪」
「デートじゃない!!」
「ボク、暗い所がイイ♪」
「表現が怪しいッ!ってか その手に乗るか!!」
影井イズミは 生徒会の中で
唯一 対戦前に自分の能力を皆に見せている。
影の中を移動できる力がある。
「暗い所」というのは 影井イズミにとって
有利な場所になることなのは明らかだった。
「屋上でいいでしょ!?」
「えーじゃあ いいよ」
「え、いいの!?……あ そう」
あっさり決って
ちょっと不意をつかれたような気持ちになった。
5分前………
屋上の真ん中には
堂々と仁王立ちをするレミと
頭をかしげてニコニコ笑う影井イズミが対峙している。
時間が来た。
レミは 迂闊に動かず右手でポーチを触り
いつでも取り出せる体勢で構えた。
影井イズミは構えもせず戦う覇気すら感じない。
「ふざけてんの?」
「まさかぁー」
本当なら今すぐ飛び出して
パンチや蹴りの一発でもくらわせたいのだが
影井イズミの能力の端を見てきたせいで
動き出せない。
すると影井イズミが自分の影の中に沈んでいく。
「ちょっと、それ ズルいわ!
また あたしの影から出てくるつもりね!?」
「もっとイイ事してあげる♪」
「はぁ!?」
影井イズミが体全部を影の中に潜めると
レミは最大限の警戒をした。
一番は自分の足元。
だが屋上にいる限り影はできる。
「きゃっ!!」
突然 足元が底抜けた感覚になりレミは傾いた。
自分の影に足が吸い込まれていく。
「やだ!何これ!」
あっという間に腰まで沈んでしまい、
その光景を見ているハルマとトールは驚き、
ユエはレミの名前を叫んだ。
時任エイジと美作エナは
動じることなく その光景を静かに見ているが
浮かない顔をしている。
「イズミ」
『はぁーい、わかってまーす♪』
姿の見えない影井イズミの声が聞こえた。
レミは叫びながら影の中へと沈んでいき
屋上には生徒会の2人と
ハルマたち3人だけになってしまった。
「レミはどこに行ったの!?」
大事な親友がどこかに連れ去られてしまい
ユエは生徒会の 2人に噛みつくように叫んだ。
「『不明』よ」
「アンノウン?」
「イズミの「世界」の名前。
私達が勝手にそう呼んでるのだけど」
「あの娘 大丈夫かいな」
時任エイジが少し不安げにため息をついた。
「ワイらも よくあの「世界」に引っ張られたけど
いつ行っても慣れへんわ。
自力で脱出できたの会長だけやし……」
「な……そんな」
ユエは肩を落として
レミが消えた跡に目をやった。
自分達はここでレミが無事に戻ってくるのを
待つしかないことを悟った。
「…………なに……?」
レミは辺りを見回した。
黒、黒、黒………どこまで見渡しても
黒一色の世界。
上下左右前後がわからない。
感覚がおかしくなりそうな場所だった。
「みんなぁ………」
レミは寂しげな声を上げた。
自分は今、影の中に引き込まれたのだと
なんとなく理解した。
「大丈夫だよ」
「!!」
少し離れた所に影井イズミがいた。
「何すんのよ!屋上に返して!!」
「怖がらなくていいんだよ」
どこまで続いているのか
考えても無駄なだけの真っ暗な暗闇。
確認出来るのは自分と影井イズミの姿だけ。
「暗闇はボクらのミカタだよ」




