アキトVSエイジ 2 ~ラブソング~
形勢が逆転した。
エイジは左足の斬り傷で方膝をつき
アキトが悠然とエイジを見下している。
「……これぐらいで調子のんなや」
エイジがアキトを睨み返した。
「足一本 傷ついたくらいで諦めてたまるか!」
エイジは立ち上がってステップを踏み出した。
どうみても無理をしている。
足がおぼつかない。
「ワイは『八曲奏師』や!
まだ あと3つ聴かせてへんぞ!!」
「……!!」
「♪『レゲエ』♪」
アキトの体が突然 勝手に動き出した。
何かに引っ張られたような動きを
したかと思ったら足が勝手に歩き出したり
回転したり、跳んだり、とてもアキトの
やるような行動ではない動きで
アキトを翻弄させた。
「……ッ!……!!」
「どうや!身動きとれへんやろ!」
エイジは笑っているが顔が引きつっている。
足の痛みを我慢しているのがわかる。
「敗けてたまるかいッ!
ワイのプライドにかけても!
会長の名にかけてもなぁ!!」
「……!?」
「♪『ヒップホップ』♪」
エイジの体から蒸気のような気が上がった。
エイジの肉体全体が通常よりも増強され
アキトの体に向かってパンチを
何発も何発も くらわせた。
20発以上は撃ち込んだだろうか
アキトは床に倒れた。
エイジは 息を切らし、
赤くなった自分の両手を見て笑った。
「ワイかて生徒会の端くれや……
会長のために勝たなアカンねん」
「…………」
アキトは床に突っ伏したままだ。
「会長がいてくれたからワイらは
ココにおんねん!迷惑かけられへんのや!!」
エイジは 思いを込めて叫んだ。
なんとしても勝つ。
それが自分の役目であるかのように。
「あー……………」
アキトが唸りながら体を起こした。
「アンタさ………」
「……なんや!?」
「アレ、歌えんの?」
「アレってなんや?」
「『愛の歌』」
ハルマが吹いた。
トールは ハルマの頭をバシッと叩いたが
自分も驚いたのは確かだ。
『愛』が欠落しているから故の
リクエストなのだろうか。
なぜ、突然そんな事を言い出したかが
不思議だった。
「ラブソングやと?」
「アンタ今、誰かのために戦ってるだろ?」
「………それがなんや?」
「それって『愛』なのか?」
「……はぁ??何言ってんねん」
アキトの突然な質問にエイジは困惑している。
「さっき、アンタが叫んだ時
ここが少し熱くなった」
アキトは自分の胸に手のひらを当てて言った。
「『胸の上に手を置いてみよ・それが愛の温度だ』」
「……?」
「俺に足りないモノだ」
ハルマとトールは顔を合わせて
アキトの発言にどんな意味が
こもっているのか考えた。
「さっきのアンタの声、ここが熱くなった」
「ワイの……声が?」
「だからもう一度 歌ってくれよ」
アキトは不気味に笑うことも
狂気に迫ることも止め
ひたすらエイジに『愛の歌』を
歌えと訴えた。
「な……なんの事だかわからんわ。
第一『八曲奏師』に
ラブソングは あらへん」
「………………そうか」
「ラブソングはわからん。
でも、これなら聴かせてやるで」
エイジは構え直した。
「♪『クラシック』♪」
エイジの右隣に、もう一人の
エイジが具現化されてきた。
さっきの多重分身の力と違い
このエイジは ちゃんと姿も形も
しっかりしている。
「♪最後や!行くでぇ♪」
二人のエイジは、それぞれ動き
ステップを踏んでアキトの前後をとって
攻撃を始めた。
アキトは赤のピンバッジをつけてる
本物を狙って手を振るが 見切られてかわされる。
すると後ろにいた もう一人のエイジに
背中を叩かれ よろける。
これが何度か繰り返された。
2 対 1 の攻防戦。
足をケガしているが エイジの方が優勢だった。
「なぁ、もう一人のアンタを傷つけた時
アンタはどうなる?」
「ワイ自身に影響は出えへん」
「……そうか」
アキトは もう一回 本物のエイジに
向かっていって攻撃をした。
エイジはアキトをかわす。
そして背後の もう一人のエイジが
アキトの背に迫ってくる。
ドンッ
「……なっ」
もう一人のエイジが静止した。
アキトの背中から 切っ先の尖った
突起物が1本生え伸びて
もう一人のエイジの胸を貫いていた。
「なっ……なんやねん!変えられるのは
手だけと違うんかッ……!!」
「いつ言った?そんな事」
エイジはアキトの
体型変型の力を手だけだと思っていた。
もう一人のエイジは動けなくなるのが
わかると スゥッと消えていった。
さらに、アキトはここで初めての技を見せた。
今までは両手を主に武器化して
「斬る」力に変えていたが
右手が グニャリと骨抜きになった状態になり
それを ムチのようにヒュンッと投げ出して
手を伸ばした。
エイジはアキトの体型変型に
隙を捕られていた。
左胸にアキトの伸びた右手が近付き
一瞬の内にピンバッジを弾いた。
「あっ!!」
エイジが気付いた時には
アキトのピンバッジは空中に投げ出され
弧を描いて地面に落ちた。
二人ともピンバッジ目掛けて
走り出したがエイジは左足の傷で
よろけて倒れた。
そしてアキトがピンバッジを手にした。
この瞬間、アキトの勝利が決まった。
「やったぁー!!」
トールは思わず両手を上げて喜び
ハルマも笑顔だった。
「あちゃ~~」
影井イズミが 残念そうに声をあげた。
トールがアキトに近づいた。
「やったね!桐谷君!!」
「あぁ」
アキトは あちこち殴られたり叩かれたりで
アザだらけだったが、目立つ外傷はなかった。
「くそぉ!!くそぉーッ!!」
倒れたまま悔し泣きをするエイジ。
影井イズミが側に寄っていた。
「気にすることないよ、時任くん」
「そーゆー事ちゃうねん!!
ワイは会長のために勝ちたかったんや!!」
「……!」
アキトがエイジの今の言葉にまた反応した。
側にいたトールも気付いた。
アキトが胸に手を当てている。
おそらくエイジの「愛の温度」を
感じ取ったのだろう。
アキトは静かに呟いた。
「あれは『愛の歌』だ」と………。




