ユエの予言
「…あいつら無事だ」
ハルマが安堵の声を出した。
「なんだ?あの光…」
アキトは下を覗きこんで光を確認した。
「あいつらの所へ行こう」
「あ あぁ…」
ハルマとアキトは駆け足で
屋上を出て2人の落下地点へ向かった。
「…………樋村くん」
宙を舞ったユエの体は今、
ゆっくりと地上へ降り立とうとしていた。
トールに体を抱きしめられ
紅いオーラが輝く先を目で見た。
トールの背中から
燃え上がる炎のような大きな翼が生えている。
その翼で自分達の落下速度を抑えて
ゆっくりと下へ落ちていた。
トールは2人の体が地上に着くまで
緊張の糸を解かなかった。
トールが先に地面に足をつけて
ユエの足を優しく地面に戻した。
トールは翼を消すと前屈みに崩れて
苦しみだした。
「樋村くん!?」
ハルマとアキトが2人を見つけて
駆けつけてきた。
「大丈夫か!!ふたりとも…」
「トール…!?」
ハルマがトールの背中を見て
顔をしかめた。
トールの背中は 焼けただれて
酷い火傷ができていた。
左右の肩甲骨…ちょうど翼が生えていた位置から。
「トール!なんだよ、これ!!
しっかりしろよ!!」
「……ッ…うぅッ」
トールは苦悶の表情でなんとか顔だけを上げた。
「…『朱雀』は…気性……荒く…て…
相性が……悪いんだ…ッ…ッ!」
「『青龍』で早く治せよ!!」
「ダメッ………治せないんだ…」
治せない理由を話したかったようだが
火傷の苦痛でそれどころではないのが伺えた。
「樋村、病院へ行こう」
「待てよ!行きたいけど どう説明すんだよ!!」
「放っておけないだろ!!」
ハルマとアキトが言い合いを始めた。
一刻を争う状態で ユエは冷静に
2人の言い合いに割って入った。
「私が治します」
「え!?」
「………満月の夜で良かった」
ユエはトールの前で屈み
両手で何かを受けとるような姿勢になった。
「『アクエリアス』」
ユエの両手の上に キラキラ輝く瓶が出てきた。
「…それって、水瓶座…?」
「そうです」
ユエは 瓶をトールの背中に傾けた。
瓶から綺麗な水滴が流れて
トールの背中にできた火傷の上に落ちた。
落ちたところから みるみる火傷が消えていく。
「……すげぇ」
「あぁ、良かった」
「…私の力は万能ではありません…」
「え?」
「『星座使い』ですが…12星座を
全て操れるのは満月の夜だけなんです。
今日を選んで良かった……」
トールの背中は元に戻り、苦しみから解放され
自分の体が回復していくのを実感した。
「武藤さん…ありがとう」
「…いえ」
「ごめんなさい…僕があんな事しなければ…」
「いえ、私が素直に降参すべきだったの」
トールの体の回復を確認すると
ユエは目を細めて頭を下げた。
「私の…敗けです」
「武藤さん……」
トールはハルマとアキトの顔を見上げた。
2人とも なんとも言えない顔をしている。
トールは ふぅっとため息を軽くつくと
ユエに笑って答えた。
「…今日は来てくれてありがとう」
4人は旧校舎の出入り口前にいて
解散の挨拶をしようとしていた。
「私…あなたたちの事、勘違いしてたみたい」
「んーどうかな。
ハルマと桐谷君は乱暴者だから」
「オイオイ」
「女子には優しくするさ」
ユエは3人のやり取りをクスッと笑った。
「未来が変わったわ…」
「…未来?」
「えぇ…」
ユエは満月に目を向けた。
「破壊と再生の冥王星…試練の土星…
知識の水星…想像の月…勇気の火星…」
3人は黙ってユエの語りを聞いた。
「5つの惑星が集まった時に
大きな『星』が私たちを襲うわ」
「大きな『星』?」
「あの…もう少し分かりやすく説明してくれないか?」
「すぐにその時が来ます」
ユエは クルッと3人に背を向けた。
「その時に…また屋上で」
意味深な言葉を3人に残して
ユエは去っていった。
「……なんだありゃ」
ハルマは嫌気がさした顔をしている。
「どーゆー意味だと思う…?」
「何が?」
「僕が水星、ハルマが冥王星、桐谷君が土星でしょ?
たぶん月が武藤さんで…
もう一つ言ってたじゃない、『火星』って」
「…『勇気の火星』だっけ」
「もう1人…僕たちに仲間ができるって事じゃない?」
「そうゆう事か……でも
5人揃ったら…なんかヤバイことが
起きるみたいな言い方してたぞ」
「大きな『星』…」
3人は顔を見合わせた。
心の中に ゆっくりと でも確かに
不安と躍動が積み上がっていく。
満月は微かな雲を背負って
3人を照らした。




