最高の失い方
「あの施設が オルグによって潰されて
逃げ出すのに成功した後、俺は両親の元へ帰ることが出来た。
両親には腕の事は隠して、日本を離れてアメリカに戻った」
テッドは 幼い時に事故で両腕を失い
アキトが生まれた施設で『巨砕躯』の腕を移植された。
監禁され『巨砕躯』の訓練をさせられていたが
そこで生まれた怪物・オルグによって施設が崩壊し
テッドは逃げて生き延びる事ができた。
「『巨砕躯』の訓練は受けていたし操作できると思ってた………」
テッドは 下をうつ向き、
重たい口を開けて話を続ける。
「10才の時だった…………
ほんの些細な言い争いだったんだ………
だけど怒りを込み上げさせた俺は『巨砕躯』に支配されて…………
暴走した俺の腕は 両親を………」
テッドの辛い過去に触れたアキトは胸を締め付けさせた。
「俺は自分の罪を認めて、警察に言ったんだ。
自分の腕がやったんだ、って。
でも、その時に限って腕は『巨砕躯』化しないし
混乱してるんだって思われて、病院に入れられて………。
それからは孤児院で過ごしたな……
ハハ………あんまり覚えてないけど」
テッドは両親を殺した事を告白し、
それから自分の腕を憎しみながら過ごしていた。
「何度も腕を引き千切ってやろうとしたよ。
…………でも、何故か手が止まるんだ。
自分で自分の罪を裁く事が出来なくて……。
だから、裁いてくれる『何か』を待っていたんだろうな」
テッドは なくなった腕の先を見ながら言う。
「それで『怪物』の事を思い出した。
アイツは絶対どこかで生きてるって思った。
あんなのを野放しにしておくのはできない………
対抗できるのは俺の腕だけだろうって思ったよ。
きっと『怪物』を倒すために
俺の腕は残されたんだって………、必ず日本に戻ろうと考えたんだ。
まさか、こんなに早く その時が来るなんて思ってなかったけどな」
テッドは自分の腕からアキトに目線を変える。
アキトはテッドの話を聞いていて
重たく暗い表情をしていた。
テッドはアキトを見て フッと笑う。
「でも『怪物』を倒すためじゃなかった。
お前を守るためだったんだな」
テッドはオルグとの戦闘で右腕を負傷した。
その使えなくなった右腕で、アキトのピンチを救う事が出来た。
「やっぱり………俺のせいだ………
俺が捕まらなければ…………」
アキトは目に涙を浮かべる。
「なぁ、アキト。
俺は…………両親の命を奪った罪を償うと決めてたんだ。
腕を無くした事に後悔していない」
テッドは微笑みながら言う。
「人の命を奪った腕が、お前を助けるために使えたんだよ。
俺にとっちゃ『最高の失い方』だったんだ。
…………だから、悲しまないでくれないか?アキト」
微笑んでいたテッドが 今度は真剣な表情をさせた。
「………『怪物』は、お前にしか倒せない」
「――!ああ、俺が倒す!テッドのためにも必ず」
「俺のために戦うな」
「え………」
「それをしたら、お前は『怒り』に取り込まれるだろう。
そうなったら暴走してしまう」
テッドはアキトの目を見て、アキトをたしなめた。
「仲間のために戦うんだ」
アキトは黙ってテッドの思いに頷いて答える。
「もうひとりのお前もちゃんと聞いてるか?」
「あ…………ああ、聞こえてるよ…………」
アキトは 別人格の事を聞かれ、目を反らした。
―――――――――
「……………えっ?いない!?ど、どーゆー事それ!?」
テッドとの再会を終えたアキトは
ハルマとトールと3人で病院の屋上にいた。
アキトはハルマとトールにだけ ある事を話した。
「話しかけても応答がないんだ………。
『いなくなった』って感じなんだよ」
「いなくなった…………って、お前ら体はひとつだろうが」
ハルマは 不思議そうな顔をしてアキトを指さす。
「消えちゃったって事!?もうひとりの桐谷君」
「わ、わからない……」
アキトは 別人格のアキトが意識の中から
出てこなくなった事をハルマとトールに明かした。
「ずっと不安定だったんだ……。
表に出すと何をするか わからなかったから
入れ替わらないようにだけ気を付けてたんだけど………
気付いたら 呼び掛けても出てこなくなってて。
だからテッドが目を覚ましたら、きっと何か反応するだろうって
思ってたんだけど…………出てこなかった」
アキトは不安げな顔をして胸に手を当てた。
ハルマもトールも わけのわからない顔をする。
「消えてはないんだよね?
………意識の奥に行っちゃったって感じなのかな」
「サキに脳みそ つついてもらうか?」
「下手に刺激しない方がいいと思う………」
3人は 屋上の隅でヒソヒソ話した。
「俺は、アイツがいないと戦えない………。
でも、アイツが もし消えたってなるなら
俺は戦いから除外される。
……………あの『怪物』を倒さなくちゃいけないのに」
アキトは テッドに託され、オルグを倒すつもりでいたが
別人格が応答しなくなり困惑していた。
「まだ消えたとは限らないよ。
きっと………いろいろあったから眠っちゃった、とか」
「ああ、俺もそう思いたい。
だから………先生や皆には黙っててくれないか?」
ハルマとトールは目を合わせると
アキトの願いを受け入れた。
「悪い…………迷惑かけて」
アキトは二人に礼を言うと、屋上を出ていく。
ハルマとトールは アキトの後ろ姿を目で追い
アキトから出ていた哀しみや憂いを感じ取る事しか出来なかった。