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放課後バトル倶楽部  作者: 斉藤玲子
◆異文化バトルコミュニケーション編◆
198/228

偶然ではなく必然的な事

「何よそれ!!信じられないッ!!」


レミが勢いよく叫んだ。

サキが語った『ウォンバッド』の目的を聞いて

集まった仲間の中でも 一番この事に対して

怒りをあらわにしたのはレミだった。


「犯罪者と一緒じゃない!!

わざと不幸な目に遭わせて能力(チカラ)を持たせようなんて!!

そうやって生きていかなきゃいけなくなった人の気持ちを知らないで

『選ばれた人間』だなんて言うの

どう考えたっておかしい!!」


レミは幼い時の事故のショックが原因で

今の能力(チカラ)を持つようになった。

今は自分の能力(チカラ)を上手くコントロールしているが

それに至るまでの道は決して良いものではなかった。


偶然による不慮の事故ならば仕方ないと言えるかもしれないが

色辺(しきべ)カズミを始めとした『ウォンバッド』の人間は

わざと事故や事件を起こし

そうして生まれた能力者を引き抜いているという。


興奮するレミの肩を隣にいたユエが抑えた。


「レミちゃんの言う通りさ。

俺達はカズミ達を止めるために何度も向かっていった。

それを繰り返している内にカズミ達は仲間を増やして

やることも大きくしていった。

だから俺達も それに対抗できるようにと力をつけたり

仲間になってくれる人を探したりしていたんだが

突然、カズミ達の消息が掴めなくなっていって………。

でも、姿をくらませただけで やってることは変えてない。

だから事故や事件が起こる度に ひとつひとつ調査したり

どこに拠点を張ってるのか探したり

どこまで手を伸ばしてるのか確認したり…………

とにかく、目の回るような忙しさだったよ」


ツカサは カズミ達の消息や情報を手にいれるために

日本だけでなく世界中を飛び回る事になり

その6年間を思い出しながら、自分の思いを話した。


「最初は俺達の中だけの問題だったのに………

気がつけば互いに『組織』を張ってしまうほどの

事態にまでなってしまって………。みんな、すまない」


ツカサは全員の前で頭を下げた。

これまで大体的に聞こえていたような話だったが

簡単にまとめてしまえば『サキ達のケンカの延長戦上』なのだ、と

考えてしまう者もいる。

それを思って、ツカサは巻き込んでしまった事を改めて謝った。


この事に関しては

誰も意義を唱えたり、文句を言い出す者はいなかった。


『ケンカの延長戦』とはいえ、

カズミ達がやっている事は決して許せないと思い

それに阻止する事に協力的になっていた。


全員の様子を見届けると、サキの目は過去を語っていた時の

怒りの目から、希望を宿した目に変わっていた。


「ここ数年、冷戦状態で何も変化がなかったのだが

ここにきて10人もの仲間ができ、奴らも姿を現した。

…………この状態を終わらせるために

偶然ではなく、必然的に事が運んでいるのではないかと思うのだ」


サキは ハルマやトール達、そしてソウタ達が集まったのは

ただの偶然ではなく『ウォンバッド』との

争いの終結を迎えるためではないかと とらえていた。


この言葉に アキトがポツリと(つぶや)く。


「テッドが両手を無くしたのも必然的だったって言うのか」


アキトの言葉にサキは黙り、部屋の空気は凍りついた。


テッドが日本に来て、アキトと出会わなければ

冷戦状態はしばらく続いていたかもしれない。

テッドが日本に来たおかげで、カズミ達を見つける事が出来た。

だが、それと引き換えにテッドは戦闘で両手を無くす。


それを必然的と とらえられた事に

アキトは静かな怒りを込めて サキを(にら)んだ。


張りつめた空気がサキとアキト以外の全員を緊張で強ばらせる。


サキはアキトの目を見つめると

謝ったり言い返したりすることもなく ある事を伝えた。


「テッド・フォスカーがそう言ったのだ」


「―――えっ?」


アキトは目を丸くさせて驚く。


今朝方(けさがた)、目を覚ました。

私との話で『自分が日本へ来たのは このためだったんだ』と

言ってくれたのだ。

テッド・フォスカーが私達に そう気付かせてくれた」


サキの言葉を聞くと、アキトは全員に背中を向けて部屋を飛び出した。


「ちょッ……!(あね)さんの話終わってないよ!!」


「構わん、アツシ。行かせてやれ」


飛び出していったアキトを見て

アツシが叫んだが、サキはアキトを自由にさせた。


「今後の事について説明をする」


アキト不在のまま、サキは話を続ける。




――――――――――




アキトは病院内を小走りで駆け、

特別病棟のテッドのいる部屋に向かった。


目を覚ました事を聞いて、ずっと心配していたアキトは

ノックをするのも忘れて扉を開けた。


「――――――――アキト」


テッドはベッドから上半身を起こした状態で

扉を開けたアキトに気付く。

数日ぶりの再会で、テッドはアキトに向かって笑った。


「テッド……………」


アキトはテッドのベッドに近づくと視線を腕に向ける。

どんなに嫌でも意識してしまうのが辛くて

アキトは悔しげな顔をする。


「ごめん…………俺達のせいで………」


「違う。お前達のせいじゃない」


テッドは泣きかけているアキトを見て笑顔のまま言った。


「俺の腕は こうなる事が決まってたんだ。

必然的な事だったんだよ」


「なんでそんな事言うんだ!

気遣いで言ってるならやめてくれ!!」


アキトは テッドが腕を無くした事で周囲の人間が落ち込むから

強がって平気なフリをしているのだと思った。

それならまだ「お前のせいだ」と言われた方が良いのに……と

アキトは笑うテッドの気持ちが理解出来なかった。


テッドは 興奮するアキトをなだめるかのように

自分の思いを言葉にしていく。


「命を奪った腕に与えられた当然の罰だよ。

いつかは この報いを受けるんだって…………願ってた」


「命を………奪った?」


「ああ」


アキトは言葉を疑う。

テッドは性格上、人殺しなんてするような人間じゃないと思っていた。


「……………両親を殺してしまった」


テッドの笑顔が曇り、悲しみに満ちていく。

アキトはテッドの話を黙って聞いた。

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