『ウォンバッド』の目的
「仲間って……!?どういう事ですか!!」
「裏切り―――!?」
サキの言葉に全員が耳を疑い、ざわついた。
アキトとテッドを襲った『ウォンバッド』の男、色辺カズミは
サキ達の仲間だったと言う。
サキの隣にいるアツシもツカサも
隠していた事実をサキが明らかにすると
視線を目に落としていた。
ざわつく全員に、構わずサキは話を続けた。
「私達がまだ学生だった時の話だ。
お前達が『能力者』だと共通して出会い、グループを組んだ様に
私達にも同じ時代があった。
色辺カズミは私とツカサと同級生だった男だ」
サキは学生時代の時の話を全員に聞かせる。
「それともう一人、仲間がいた…………」
カズミの他に、もう一人の能力者の存在をほのめかすと
サキの目付きが少し変わった。
怒りに満ちている様でもあり、悲しみや後悔といった
やりきれなさを感じさせる様でもあった。
サキが突然黙ったので、ソウタが様子を伺うように話し掛ける。
「先生、何があったのですか?」
「…………簡単に言ってしまえば『仲違い』を
してしまったんだ…………。
あの頃、私達は自我が強かった。
何度も話し合って、意見をぶつけ合い
激しく衝突しても互いを認め合っていた。
………………私はそう思っていたんだ」
サキの話を聞いていたハルマが
トールの耳元に顔を寄せて コソッと呟いた。
「『仲違い』って何?」
「ケンカみたいなもんだよ………」
トールはサキ達の方を見ながらハルマの問いに答える。
サキ、ツカサ、アツシの3人と、
カズミともう一人の仲間だった人との間で何かが起こり、
仲違いしてしまった事を明かした。
「カズミともう一人の奴は能力を持つ人間を
『神から力を授かった選ばれた人間』だと強く説いていた」
「『神』から………?」
「んなわけあるかい。
みんな自分の好きなモン極めてたら身に付いただけや。
『神』とかそんなん関係ないやろ!」
『八曲奏師』の時任エイジが
反発の声を上げた。
それに続いて『鋼鉄聖女』の美作エナも話し出す。
「好きなモノがあって能力に目覚めた人もいれば
そうじゃない人もいるわ。
それでも神がその人を選んだとでも言うのかしら?」
エナは影井イズミの事を言っていた。
イズミは幼少時代の虐待により
影の世界に入り込む能力を手に入れる。
本来なら持ち得なくてもいい能力を持つことになり能力者となった。
この話はレミも該当する。
レミもまた、事故により天然石同化能力を持つことになった。
今、この場にいる全員は自分達のような能力者を
『選ばれた人間』や『特別な人間』などと言った
考え方をしていない。
むしろ、自分達は能力を持ったまま
いかに この世の中を生き抜こうかと考え、
肩身の狭い思いをしている。
自分達を崇高な人間だと特別視している者がいない事に
サキは少し安堵の顔を浮かべた。
そして話の続きを語りだす。
「カズミともう一人は学校を卒業すると
私達の目を盗んで、とんでもない事をやるようになった。
それが今の『ウォンバッド』の始まりだ」
「今の『ウォンバッド』って事は………
その二人は、一般人に危害を与える事を始めたって事ですね」
「なるほど、自分達が『選ばれた人間』だって事を
世の中に知らしめるために………」
トールとソウタは『ウォンバッド』の目的は
『自分達の存在を世の中に知らしめるため』だと解釈した。
だが、サキは顔を横に振る。
「違う。それならば姿を隠す必要ないだろう。
奴らの目的はそれではない」
「え……………それではなぜ………?」
「奴らは自分達を『神の遣い』と思っている」
サキの言葉に全員が不思議そうな顔をして黙った。
『神の遣い』と思っている人達が
人に危害を与える意味が理解できない、と。
サキは深く呼吸をして
『ウォンバッド』の本当の目的を口にした。
「………奴らは、自分達の能力を使い、
わざと事故や事件などを起こす。
それに巻き込まれた人は『大きなショック』を受ける事になる。
それがキッカケになって能力に目覚めた者を
『選ばれた人間』として仲間に率いれて
能力者だけの世界を創ろうとしているんだ」