明かされる事実
トールの入院 2日目の朝。
伊丹村サキは トールの診察を終えると
トールに付けていた拘束具を全て外した。
「えっ……………もう、いいんですか?」
トールは入院中は ずっと縛られていると思っていたので
思わず聞いてしまった。
「まだ縛られていたいのか?」
「い、いいえ!」
「1日身動き取れなきゃ身に染みるだろう。
次、同じことを繰り返したら1日じゃ済まさんぞ」
「はい……」
「ハルマは 1年かかった」
サキは 外した拘束具を そのまま床に落とす。
「……どういう事ですか?」
「アイツが『ウォンバッド』から逃げてきた後の話だ。
ウチで匿う事に決まったんだが半狂乱状態でな。
抑え込むだけで数人の仲間を気絶させて暴れまわった。
取り抑えて一旦は落ち着かせたんだが またすぐに暴れだす。
だから拘束させるしかなかったんだ。
治療とカウンセリングをしながら
症状が出なくなるまで1年間を費やした……」
トールはサキから 初めてハルマの過去の事を聞いた。
サキは ハァとため息をつく。
いつも 目を鋭く尖らせ
見つめる者を圧倒させる覇気を出すが
この日のサキは若干疲れている様に見えた。
「お前よりも繋いでおかなきゃならん奴がいる」
「え?」
「ツカサが連れてきたクリフォードとかいうガキだ。
昨日、下宿先から姿を消して捜索中だ」
「そ、そんな!」
トールは 自分のせいだ、と顔をうつむかせた。
「全く……ツカサめ、面倒事ばかり起こす奴を連れてきて……」
サキは愚痴っぽく言う。
「せ、先生……確かツカサさん、タロットカードで
人を探し当てる事が出来るんですよね?
それで見つけられないんですか?」
「ああ、今それでツカサに捜索させている。
だが、まだなんの連絡もよこさん」
サキの浮かない顔を見て トールも不安になる。
「………僕のせいです………ごめんなさい」
「過ぎた事だ」
サキは立ち上がってトールのいる病室を出ていこうとする。
扉の前で立ち止まるとサキはトールに話し出した。
「先に話しておくが………ツカサの占いで嫌な結果が出た」
「嫌な結果……ですか?」
トールは 喉をゴクッと鳴らした。
以前は未来予知の力を持っていたユエの実兄とだけあって
占いの的中率が高いのだろうと感じる。
「おそらく、あの接触が引き金になったのだろう。
避けられない戦いの輪が広がりを見せると……ツカサが言っていた」
「接触って……この間の……?」
アキトの生まれた元・工場施設で出会ってしまった
『ウォンバッド』の人間。
トールは直接戦わなかったが、
その時見た2人の姿は目に焼き付けていた。
「しばらく、冷戦状態だったんだ。
互いに姿を合わせる事なく、拠点を隠しあっていたんだが……
この間、アツシとカズミが邂逅した事で
冷戦は溶けるだろうと思っていた」
トールはサキの今の話を聞いて ハッと思い出した。
「先生!その『カズミ』って人、もしかして………
『知り合い』なんですか?」
「………………なぜ、そう思う」
「葉山さんと『カズミ』って人の会話が………
その、なんだか……お互いを昔から知っているような
話し方をしていたので…………」
トールは 今、問いかけるタイミングではなかったかも、と思い
少し申し訳なさそうに話した。
サキは何かを考えながら
一度トールから視線を反らし、そして再び目を合わせた。
「お前の治療が済んだら、一度全員に集まってもらう。
その時に 今の答えを話そう」
サキは そう告げるなりトールの病室を出ていった。
――――――――
~ 病院・屋上 ~
「……俺達が知らない事を話してくれるって事か」
トールはアキトと一緒に屋上のベンチに座り
サキが言った事をアキトに話した。
「きっとそうだよね………今までは組織の事が流れないようにって
詳しい事教えてもらってなかったから………」
「ごめんな、俺のせいで……」
アキトは自分が『ウォンバッド』の人間に出くわした事で
冷戦状態を溶かしてしまった事を悔やむように謝った。
「気にしないでよ、いつかは戦う時が来るって先生も言ってたし……。
僕らは早く怪我を治さないと」
「…………アイツは俺達が倒す」
アキトは両手に力を入れて握る。
その手から怒りと悔しさが にじみ出ていた。
トールはアキトがテッドの敵を討ちたいのだと すぐにわかった。
「あんな……人達と僕らは戦わなきゃいけないのか……」
トールは空を見上げた。
これから待ち受ける戦いへの不安を
空に飛ばしてしまいたいと思って息を吐いたが
胸のつっかえは取れなかった。
―――――――
一週間後。
トールの腕と背中の怪我がほぼ完治し
その日の夕方、サキの部屋には
ハルマ、アキト、レミ、ユエの 4人と
薄野ソウタ、美作エナ、布施リュウ
時任エイジ、影井イズミの元・生徒会の5人
そして葉山アツシ、武藤ツカサ、伊丹村サキ
の
『スクリーマー』の能力者がほぼ全員集まった。
サキは中央に立ち、全員に聞こえるように話す。
「今回の事態は皆に伝わっていると思う。
それを踏まえて、皆に話していなかった事を私から説明したい」
部屋の中は緊張に包まれる。
全員がサキの次の言葉に注目した。
「今回、接触した『ウォンバッド』の一人の男の名は色辺カズミ。
…………………私達の仲間だった奴だ」