クリフからの果たし状
明くる日の放課後。
トールとハルマとレミは 旧校舎の屋上にいた。
本来なら留学生との残りの2戦を行うはずだったが
『ウォンバッド』の遭遇と、アキトとテッドの負傷などで
残りの対決は 自ずと中止になった。
ツカサは 急用ということで学校を休み、
おそらく伊丹村サキや葉山アツシと共に
今回の事態集結に向けて対応に追われている。
アキトは まだサキの病院で入院中で
ユエは いまだに学校を休んでいる。
留学生達には、詳しい経緯は伝えず
ただ対決は中止になった事だけが伝わっていた。
テッドの事については 黙秘され
ただ都合により国へ帰ったと話がされたらしい。
トールはアツシと共に
アキト達の元へ駆け付けた時の事から
アキトの話や、テッドの状態、
そして『ウォンバッド』の人間との対峙の事を
ハルマとレミに説明した。
「アッキー………辛かっただろうね………
理解者になり得た友達が 目の前で……」
「ハルマは何か思い出せた事ある?
『カズミ』って男の人と『オルグ』っていう少年の事」
「いや………悪いけど全然……」
「そっか……。実は気になることがあったんだ。
その『カズミ』って男の人」
「気になること?」
「うん……。葉山さんが その『カズミ』って人と
対峙した時も戦闘中の時も
なんだか お互いを昔からの知ってるような口振りで
しゃべってたんだ。それを見て葉山さんとカズミって人は
何か関係性があるんじゃないかなって………」
トールは 自分の考えをハルマとレミに話す。
2人とも不思議な顔をして首をかしげた。
「葉山さん本人にも伊丹村先生にも
聞いてみたいんだけど、今はそれどころじゃないし……」
「落ち着くまで待つしかないわね………」
ちょうどその時、夕方4時を告げるチャイムが鳴り
3人は解散する事にした。
その帰り際、トールはレミを呼び止める。
「ユエちゃんの事聞きたいんでしょ?」
「えっ」
トールが何も話す前にレミが言い当てる。
図星だったトールは顔から汗を流し、レミはフフンと笑った。
「気になるなら自分から いけばいいじゃないのよー。
メアドとかだって交換してるでしょ?」
「そ、そうだけど……」
「なぁーんで二人とも遠慮しちゃうのよ?意味わかんない!」
レミは鼻息を荒くたてる。
「お互い能力者なんだし、隠すような事なんてないじゃん!
それにユエちゃんなら、トール君の その体の事だって知ってるし
傷付ける様な事を言ったりするコじゃないよ!
ユエちゃんも ユエちゃんよ!遠慮がちになっちゃうんだから……。
相思相愛なのになんでくっつき合おうとしないの!?」
レミの言葉にトールは 頬を赤くする。
それから弁解するように説明を始めた。
「武藤さんが……本当に そう想ってくれてるなら
すごく……すごく嬉しい事だよ。けど、今は………まだ……」
「『まだ』なんて考える必要あるの!?
好き同士なんだから なんも考える必要ないじゃない」
「う、うん……………」
トールはレミの「当然!」という態度に押されて黙った。
それでもまだ気持ちを伝えようとしないトールの様子を見て
レミは ハッと気付いた。
「そっか、『ウォンバッド』の事が気にかかって
恋愛どころじゃない、って事ね。
それとも伊丹村先生に『恋愛禁止』って
言われちゃってるとか!?」
「そこまで言われてないよ!
で、でも………『ウォンバッド』の事が
気になるっていうのは正直あるよ」
「あーーもう!友達の恋の邪魔までするなんて!
『ウォンバッド』めーーーーーッ!!」
レミは怒りの矛先を『ウォンバッド』へと移す。
「仕方ないわ、そーゆー事なら。
アッキーの事もあるし、とっとと『ウォンバッド』を倒すわよ!」
ひとり白熱するレミを見て
トールは微笑んだ。
―――――――――
「ふぅ………」
トールは レミとの会話を終え、別れたあと
校舎を出ようとひとりで歩いていた。
トールは前方に人影が見えるのを見つける。
校門の端に 金髪の青年が誰かを待つようにして立っていた。
留学生のひとり、クリフォード・ローヤーだった。
トールが近付くとクリフがトールに気付く。
その顔は 何かとても思い詰めたように真剣な表情をさせていた。
「クリフ君……どうしたの?」
「………キミを待っていまシタ」
「え、僕を?なんで………?」
トールは 眉間にシワを寄せた。
対決の事なら中止が伝えられているはずだし
これといって クリフと仲が良いわけでもない。
クリフがトールを待ち伏せしている理由がわからず
トールは立ち尽くした。
クリフは 目をキュッと上にあげ
トールに向かってビシリと指を差す。
「ボクと勝負でス!決闘を申し込みマス!!」
「え、ええっ!?ちょっと待って!
対決の話なら中止だって聞いてなかったの?」
「違いマス。対決ではありまセン!
決闘デス!!」
クリフは顔を険しくさせ、怒っているようにも見えた。
なぜクリフがこんな事を言い出すのか
トールは理解できずにいた。
「ク、クリフ君、どうしたの!?」
「ボクは君を許せマセン………!」
「えっ……………………えッ?」
「ユエを賭けテ ボクと勝負デス!!」
「えっ……………………ええーーーーーーーーーーーッ!!?」
トールは全身から汗を吹き出させ
クリフは真剣な目でトールを睨む。